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魔力なし少女は譲らない  作者: 村玉うどん
間章 魔力なし少女の兄
53/204

5話 休息

「さあさあ、フィファナさん。何か黙ってることはないですか? 困ってる事や隠してる事があれば、スッキリ吐き出しやがれください」

「え? ルーツェ、どうしたんですか……?」


 久しぶりにクレイドと朝食を共にした日の午後。

 学校がお休みのため、昼から訓練の約束をしていたフィファナが平民街にある診療所を訪れる。

 フィファナが入り口にある鳴らし鐘を鳴らせば、中から慌ただしい足音がし乱暴に扉が開かれる。挨拶もそこそこ、少女の小さな手に引かれ中に入ると、リビングにあるソファに強引に座らされた。

 ずっと前に引っ越し祝いにクレイドから贈られたと聞いたソファは、見た目は室内に合わせてシンプルに仕立てられており、座り心地もバツグンに良かった。


「ちゃんとご飯食べてますか? 嫌な仕事押し付けられたり、無茶な要求されたりしてませんか?」

「??? あの、なんのお話でしょう?」


 ソファに座らせたフィファナの両肩を掴み、ルーツェが必死に問いただす。

 しかしまだ小柄なルーツェではリーチが足りなかったのか、前のめり過ぎてやたら顔が近い。

 繋がる形式で作られているリビングから、奥に続くダイニングでテーブルに頬杖をつき、呆れた顔をしている少年へとフィファナは助けを求める。

 貴方の妹君はなんの話をしているのだと。


「朝クレイドが来たんだよ。それでアンタが降格処分受けて兵士団辞めたって聞いて混乱してんの、ソレは」


 と言いながらルーツェを目線だけで指す。

 「ソレってなによ!」と抗議をされたが、コハクはべっと舌を出して受け流した。

 それにぷっくり両頬を膨らますルーツェにフィファナは面食らったあと、ひっそり笑みをもらして膨らんだ頬に手を添えぷしゅりと空気を抜いてやる。


「心配をかけてしまったようですね、すいません」


 言いながら「ふふふ」と笑うフィファナは嬉しそうだ。

 フィファナの緩んだ雰囲気に、ルーツェも表情を緩め嬉しそうに頬を押し付け抱きついた。

 互いの髪が互いの頬を掠め、くすぐったさに声をもらす。


「でも、本当に大丈夫なんですか? お仕事はもちろん、その……、新しい後見人さんが出来たって……」


 少し落ち着きを取り戻したルーツェが、フィファナの隣に腰掛け心配そうに見上げる。

 遠慮気味にフィファナの上着の裾を掴んでいるあたり、思っていたより心配をかけていたようだ。自分を見上げる少女を安心させるために、フィファナは出来る限り柔らかく笑んだ。――が、失敗したようだ。目の前にあるルーツェの表情は、心配の色を増してしまった。

 いけないとフィファナは己の思考を切り替えると、今度はちゃんと笑みを作り真っ直ぐルーツェを見返した。


「本当にご心配おかけしました。私は大丈夫です。ありがとうございます。新しいところでもすごく良くして頂いてます。……ただ、サーパス様のことが気になってしまって」


 じっと見つめてくるルーツェに、フィファナは少し困ったように白状した。フィファナの前の後見人であるサーパスは、ディーグの魔核を奪おうとした犯罪者として軍に囚われている。

 詳しいことはフィファナにすら伝えらておらず、現在サーパスがどのような状態にあるのかは限られた情報で推測するしかなかった。


「つまらない事を言ってしまいましたね。すいません」


 そんな事を言うフィファナにルーツェは口を尖らせ、無言のままコハクへ向き直る。コハクも肩を竦めて見せ、二人してフィファナへと視線を戻した。


「ルーツェ?」

「今日のお昼は外で食べ歩きです!」

「え?」

「じーさんのヘソクリから少し拝借してこよう」

「あの」

「よーし、いっぱい食べるぞ!」


 ルーツェががばりと立ち上がり、コハクもだるそうにテーブルから離れるとどこかへと行ってしまう。昼は診療所で共に食べる予定だったので、フィファナも食事がまだのはずだ。

 しばらくもしないうちに、遠くで玄関の開く音がしたので、コハクはそのまま外に出ていったらしい。ルーツェは仔犬と雛にも出かけるよう声をかけると、テキパキと準備を進めていく。


「ほら、フィファナさんも出かける準備。急いでください」

「え? は、はい!」

「オイサンー、十世ー。行くよー」

「ニィニィ」

「ハヌン!」


 雛と仔犬が中身の入っていないポシェットを咥えて駆け寄ってくる。小柄な雛はほぼ引きずられているだけで、最後にはルーツェの足元へとコロコロ転がり目を回していた。


「さあ、フィファナさん行きましょう!」

「は、はい!」


 ルーツェは大きな水筒を首から下げ、フィファナの手を取って外へと向ったのだった。






********************






 結論から言えば、ルーツェとフィファナは待ちに待たされてお腹がペコペコになった。


「もう! コハク遅い! お腹すいた!」

「俺のせいじゃないし、俺だって腹減った!」

「暑いな。こんな中、立ち歩いて物を食すのか?」

「あはは、ごめんね。お詫びに何でも好きなものを買っていいよ。今日は私の奢りだ」

「ど、どうしてリャダマン様とお師匠殿がここに……」

「ガウ!」

「ルドルフもいる! 久しぶり、ルドルフ!」

「ハヌハヌ!」


 大通りから少し離れた広場の木陰。

 目立つ五人の男女が何やら騒いでいる。なのに通りを行く人は気に留めた様子はなく素通りをして行く。

 呆れた様子で周囲を見回していたコハクだけがそれに気づき、不思議に思う。よくこんな統一性のない集団を無視できるなと。

 コハクはクレイドに視線をやると、クレイドはわずかに首をかしげた。


「なんだい?」

「いや、確かに少しでも顔見せに来れないかなって連絡したけどさ……、なんで普通に来てんの? 仕事は? しかもディーグさんまで居るし」

「ああ……ははは。一応仕事も兼ねてるんだけどね」

「?」


 互いにしか聞こえないくらいの声量で手早く話す。

 フィファナは何やらクレイドをチラチラ見ては、顔を赤くしたり、かと思えば青ざめたりして忙しそうである。逆にディーグは暑いと文句を垂れながらもルーツェを構いたおしていた。


「私は今、ディーグ様の身辺警備の仕事をしているんだよ」

「へー。やっぱりあの人、何処ぞの貴族様だったんだ。なら、なんで森に住んでたの?」

「それは知らない方が良いかな」

「そう。なら聞きたくない」


 厄介事はごめんだと、コハクはすぐに興味を手放す。

 大方クレイドに連絡がいった時に、ディーグも近くにいたのであろう。暇をしていたのか、何かしらの理由があったのかは知らないが、自分も行きたいという話になったに違いない。


「でも、やんごとなきお貴族様を、こんな平民街に連れ出して良かったの?」

「タイヘンよろしくアリマセン……」

「…………」

「一応、印象操作の魔術具は着けていただいている」

「なにそれ?」

「簡単に言えば、存在感が無くなって印象に残りにくくなる」

「へー」

「まあ、見知った間柄だとあまり意味がないんだけどね。私も平民街に来るときは、毎回着けているよ」

「自意識過剰だね」

「酷い!」


 クレイドは割とまともにショックを受けた。


「もう、何でもいいや。お腹減ったし、さっさと食べに行こ」


 突っ立ていても腹は膨れないと、コハクが話を切り上げる。

 その声にフィファナがハッと我に帰り、ルーツェは「異議なし!」と片手を上げた。とりあえず出店でも見て回ろうかと踵を返したが、コハクはふとディーグへと半身を返す。


「ディーグさんって、俺達が食べてるようなものって平気なの?」

「? どういう意味だ?」

「お貴族様のお屋敷で出るような立派な食事じゃないってこと」


 コハクの言葉に、ディーグは「ああ、そんな事か」と平然と返す。


「別に生死に関わる毒物だったり、原型ままの虫とかでないなら構わない」

「逆にないわ! アンタ、平民の食事をなんだと思ってんだよ!」

「む。単に私が食べたくない食材を挙げただけだ」

「なおさら意味がわかんない! つか、それ食材じゃねーし!」

「他国では乾燥させた虫をそのまま食す生薬があると聞いて試そうとしたんだが、しかし、どうしても口に入れたくなくてな……無理だった」

「試すなよ!」


 そう言えばこの人、十年近く森に住んでいた薬バカだったとコハクは頭を抱える。

 視界の隅では、「師匠は狩りとか出来るんですか?」「私はやらない」なら誰がやるんだ⁉︎ ルドルフか? という深追いしたところで、疲弊するだけであろうやり取りがみえる。

 チラリと斜め後ろを伺えば、クレイドも大概な表情で固まっていたので見なかったことにした。


「とりあえず、毒物も虫も出てこないから安心してよ」

「そうか。なら問題ない」

「師匠、わたし少しだけなら毒キノコとか食べたことあるんですよ」

「なんだと。何のためにそのような事を?」

「もうこの話はお終い! 終了! やめろ!!」


 コハクは声を張り上げ、誰も得しない会話をぶった切ってやった。

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