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魔力なし少女は譲らない  作者: 村玉うどん
間章 魔力なし少女の兄
49/204

1話 焦り

 帝都ナーザベルにある魔導学園。その学園内にある訓練棟の一室。

 朝の講義が始まるより早い時間に、一人の少年が汗を流し剣を振るっていた。少年の名前はコハク・ルクラス。それなりの広さがある訓練場(くんれんば)には、彼以外の人影は今の今まで見当たらなかった。


「……」


 人の気配を感じ、コハクは入り口をちらりと横目で伺う。案の定、予想どおりの人物が現れ、コハクは気づかないふりをして入り口に背を向けた。


「おはよう。ルクラス」


 模擬刀を片手に歩いてくるのは、コハクと同じ年頃の少年。

 相手はコハクに気づき片手を上げ挨拶を投げかけるが、コハクは相手を一瞥することもなく「はよ」とだけ小さくつぶやいて返す。いつもの事なのか、相手は気にした様子もなくコハクの隣まで近寄ってきた。

 少年の名はニウロ・ロペス。かっちりと訓練着を着込んだ真面目そうな男だった。


「ここ数日姿を見なかったが、体調でも崩していたのか?」


 素振りをするコハクの真横に立ち、キレイな姿勢のまま真っ直ぐ問う。

 一瞥しただけで無視を決め込んでいたコハクも、鬱陶しそうに眉根を寄せ、手は止めずに意識だけ向ける。


「別に。つか、用がないならあっち行けよ」

「そんな言い草はないだろう。なにかあったのではと心配しただけなのに」

「あ、そ」


 ニウロはきりりと眉を釣り上げ、むっとする。しかしコハクは歯牙にもかけず剣を振り続けるので、これ以上は時間の無駄だとニウロは柔軟を始めた。

 しばらく大人しく身体を伸ばしていたニウロだが、隣の同期生を伺い見ていつもと変わらぬ様子に胸を撫で下ろした。


「僕より早く訓練場にいるのは、きみくらいだからな。何もなかったのであれば、それは良かった」

「…………」


 このニウロと言う少年は魔導学園に併設されている兵士団コースの受講生だ。

 基本、軍事職に就く成人男性の五割強は兵士である。それに対し魔術師は全体の三割程度で、あとの一割弱が騎士とその他研究員等だ。

 魔術師は兵士に比べれば狭き門となるが、言い換えれば誰にでもなれる職ではなく常に人手不足ともいえる。そのため、入団出来れば生活は安定するし、素質があるなら魔術師の道を進みたいと言うのが学生達の夢であった。

 故に魔術師団コースで特待生として入学したコハクは、注目を集め他の生徒からすれば羨ましい限りである。――にも関わらず、兵士科団コースに入り浸るため少し……、いやだいぶん浮いた存在となっていた。


「ルクラス。よかったら打ち合いの相手をしてくれないか?」


 ニウロが準備を終え勢いよく立ち上がると、模擬刀を手に取りコハクへと掲げてみせる。

 ニウロの身長はコハクはより少し高いくらいで、身体も鍛え上げられている。筋肉がつき難いコハクからすれば妬ましいことこの上なく、振り下す腕に余分な力が乗った。


「……本気で打ってくるならいいよ」

「僕が本気を出したらすぐ終わってしまうだろう?」

「お前ホントむかつく!」


 ニウロに不思議そうに言われ、コハクは眉根を寄せ睨みつける。天然で悪意のない言葉なのがわかっているだけに、言葉の鋭さがコハクを抉る。

 力強く剣を振り下ろす腕。その力を受け流し、身体を支える体幹。それらの土台となる下半身の筋肉。明らかにニウロとコハクでは、身体の仕上がりはもちろん力量にも差が開きすぎていた。


「当たり前だろう? 僕は将来騎士団に所属したいと思っている。そのために幼い頃から鍛錬してきたし、対してルクラスは魔術師団コースの生徒だ。単純に培ってきたものが違う。しかし――それで言えば、きみは十分に剣を扱えていると思うが」


 嘘偽りのない真っ直ぐな表情で言われ、コハクはぐっと拳を握る。コハクはぐるっとニウロに向き直ると、力を込めて思いっきり足を踏んづけてやった。


「いっ! 何をするんだ!」

「八つ当たりだ! クソマジメ野郎!」

「は? ――おい、待て! 人の足を踏みつけておいて、謝罪の一言もないのか!」


 踏まれた足を抱え込むニウロを無視して、コハクは壁側へと移動する。まだなにか言っているようだが、それら全てを遮断するように、コハクはタオルを頭から被りその身を冷えた壁へと押し付ける。

 遠くでニウロが何か言っているが、それも次第に落ち着き何も聞こえなくなる。そうすれば聞こえるのは自身の心音と呼吸音で、コハクはゆるく息を吐き出し己の手を見下ろした。


「くそ……こんなんじゃだめだ。この程度じゃ」


 剣ダコの出来た手を握りしめ項垂れる。


「この程度じゃ、学院への推薦なんてもらえるわけない」


 誰に向けられた訳でもない言葉は、静かに落ちて消るしかなかった。






――数日前。

 森に出掛けていたルーツェが熱を出し、寝込んでしまった。

 元気になったと思ったらどういった繋がりなのか、魔導学院の名誉学院長だと言う人物がルーツェを訪ねて来た。


『僕、魔導学院研究員(けん)名誉学院長のククシュル・ディ・レイスです。よろしく~』


 くせのあるボサボサの髪に、(しつ)は良いのにヨレヨレで埃まみれのローブ。庭でその汚れを落として来いと言えば、何故か頭から水をかぶり、ずぶ濡れで戻って来たおかしな男。


『ルツェちゃんは()()に行きたいらしいけど、より高度な勉強が出来る()()のほうはどう? 僕個人の研究でちょうど人手が欲しくてさー、ルツェちゃんが』

『おい、まて。コイツには私の手伝いをさせると言っただろう』

『ですけどディーグ様? 大事なのは本人の意思じゃないですかー?』

『む』


 ダイニングにあるテーブルを埋めるのは四人の人物。

 家の住人であるコハクとルーツェの他に、話をしに来たと言うルーツェの師であるディーグに、そのディーグが連れて来たククシュルと言う男。


『ね、ルツェちゃん。僕の研究のお手伝いしてくれない?』


 目元が見えず、ギザギザの歯を覗かせククシュルが隣に座るルーツェへと笑いかける。

 ルーツェはただ、びっくりした様子で目を丸め固まっていた。


『ほら、返事がないぞ。やはりコイツは低薬治療学の方に興味があるのだ』

『ルツェちゃんはまだ何も言ってませんー』

『語尾を伸ばすな。それと、先程から何だその呼び方は。ふざけ過ぎだ』

『ルツェちゃんって言い方可愛くないですかー?』

『だから語尾を伸ばすな』

『ちょ……ちょっと待ってよ!』


 だらけた間延びする話し方のククシュルをディーグが睨む。そんなやりとりを遮るように、あせった声を上げたのはコハクだった。

 コハクは二、三ククシュルとディーグを交互に見たあと、訝しげにディーグを見た。


『学院って……貴族街の一等地区にある、あの学院?』

『そうだが』


 コハクの問いに、ディーグは何の戸惑いも見せずただ頷いた。その答えにコハクは驚き、更に質問を重ねる。


『だって学院は貴族の子供か、高額な寄付金が支払えるような商家の子供しか行けないんじゃないの? 言っとくけどうちにそんなお金ないよ! てか、なんでそんな話がルーツェに?』


 帝都には魔術師を目指すための学校がいくつか存在するが、その中でも大きなところが二つある。

 一つは庶民や学院への入学金が支払えない貴族が通う魔導学園。そして、一般的な貴族や大きな商家の子供が通う魔導学院だ。

 下位兵士を除く国の軍部に属するためには、各部の入団試験にクリアしなければならない。その試験を受けるためには一部の例外を除けば、学院の卒業資格または推薦が必要になってくる。

 そして、学園は学院の受け皿のような存在で、資金面や身分等で学院に入学出来ない子供達から、優秀な人材がいれば引き上げようという目的の為に作られた。

 つまりは、学園で目立てば学院からの引き抜きがあり、庶民でも国立の軍部に属する機会が得られるという訳だ。


『報酬だ』

『報酬?』


 ディーグの言葉にコハクが首を傾げる。


『人喰い魔女を説得しろと言われていたのだろう?』


 ディーグの言葉にコハクの疑問は増し、逆にルーツェは弾かれたように顔を上げた。


『まんまと説得されてしまったのでな。私は冬期から、学院で教員として働くことになった』

『師匠が学院の先生に!?』

『しかも~、新しく「低薬治療学」なんて学科を新設してくれちゃったんだよねー』

『『!!!?』』

『その「報酬」として、私がお前を学院に推薦してやる。入学金や授業料も私が貸しておいてやろう。なに、出世払いで構わない』

『『……』』


 なにがどうしてそうなったのかはわからないが、冬期からディーグは学院の教員になるらしい。そしてルーツェを自分の学部に入れるため職権乱用で、推薦を出すと言っているのだ。


『ルツェちゃんは僕も欲しいんですけどー? 僕なら貸しなんて言わずにお金くらい免除してあげるよ』

『それは甘やかし過ぎだぞ』


 ククシュルの言葉にディーグが睨みを効かせる。

 そんな二人に茫然としながらも、コハクは静かにルーツェの様子を盗み見た。コハクは知っている。

 まだ村にいた頃。あの事件の翌朝だ。帝都の学校に行きたいと言い出したのはルーツェだ。細い手足には包帯が巻かれ、傷だらけだった。互い顔色は良くなかったが、朝日を浴びながら二人で話をした。


『わたし……学校に行けるんですか? しかも、学園じゃなくて、学院のほうに?』


 驚きと、隠しきれない期待を滲ませたルーツェの声が空気を震わせる。ルーツェは頰を紅潮させ、まっすぐにディーグを見ていた。


『わたし、学院に行きたい! 魔術師団の魔力研究庁に行きたいんです!』

『魔力研究庁? ルーツェレア、お前は国の研究員を目指しているのか?』

『えーと、その……』


 意外だと僅かに目を見張るディーグに、ルーツェはなぜかバツが悪そうに言いよどむ。


『国のためだとか、立派な理由じゃなくて単に自分の事を知りたくて……魔力なしの、これの原因を知りたいんです』


 ルーツェの言葉にディーグはピクリと片眉を上げ、なにか言おうと口を開いたが、間延びしただらしない声がそれを遮った。


『だったら僕のところにおいでよ~。僕、昔は魔術師団出身で、魔力研究庁にも所属してたんだよ』

『え! 本当ですか!』

『うんー』

『昔の話を持ち出すな。今は魔力研究ではなく、術式研究や魔術具開発をしているのだろう』

『でも、ディーグ様の低薬治療学よりは近いですよー』


 ククシュルが顎をテーブルの上に乗せながら言うと、行儀が悪いと低い声で叱責が返される。しかしククシュルはそれを無視して、ルーツェを見た。


『僕もね、話を聞いて楽しみにしてたんだー』

『話、ですか?』

『うん。魔力効果の無効化? なんでそんなこと出来るんだろうって』

『……!』

『調べてみたくなるよねー』


 のほほんとした口調で、頭をテーブルに預けたままククシュルが言う。口元は笑っているが、前髪に隠れているはずの瞳がキラリと瞬いたような気がした。


『ディーグさん、もしかして人ん家の事情言いふらしてんの?』

『私は何も言っていない。此奴は元から知っていて、今日もあっちから声をかけてきたんだ』


 コハクがディーグを横目で睨むも、心外だとばかりに顔をしかめられる。ククシュルに答える気はないようで、だらしない格好のまま笑っている。

 だいたいの話が終わり、コハクは次第に表情を曇らせていく。おそらくルーツェは学院に行くだろう。

 その先がどんな環境であろうが構わずに。


『ねえ、アンタ達は何を企んでるの? 入学金の工面までして……うちの妹的なものになにをさせるつもり?』

『コハク?』


 ディーグを睨みながら言うコハクに、ルーツェは少し困惑した表情を浮かべる。

 戸惑いを滲ませながらも、ルーツェはコハクを見つめて口を開いた。


『わたしは学院に行きたい。コハクが反対したって行くからね』


 予想通りの言葉を形にされ、コハクは膝上でズボンにシワを作る。


『……何、されるかわかんないのに?』

『いい。嫌だったら逃げるわ』

『そっちのモジャ頭なんて、ハッキリ調べたいとか言ってた!』

『そうね。でも、わたしも自分の事調べたいからちょうどいい』

『…………どうしても行くって言うなら、俺も行く』


 言ってコハクはディーグを見る。

 二人のやり取りを静観していたディーグだが、コハクを一瞥すると目を細め、冷たい視線を寄越した。


『キサマは何が出来るんだ?』

『何って?』

『私がお前にルーツェレアと同等の待遇を与えたところで、私になんのメリットがある?』

『! それは……』

『僕もキミはいらなーい』


 ククシュルの言葉にコハクは目を見開き正面を向く。

 いくら学院の学院長だとしても、初対面の人物に、なぜそんな事を言われないといけないのか。


『だってキミさ、学園の方で特待生になってるんでしょ。でも、併設の兵士団コースにばっかり出席してるって聞いてるよ』

『……それは、特待生になったら入学金が免除されるって聞いて』

『なら兵士団コースで特待取れば良かったのに、なんでわざわざ魔術師団コースを受けたの?』

『兵士団コースはあくまでおまけみたいなものだから、特待が出たことなんてないって聞いてたし……。それに、そんなの俺の勝手で……』

『そうだねー。キミは自分勝手で、それでいて、中途半端だ』


 コハクは一瞬頭が真っ白になり、心臓が押しつぶされそうな気分になった。本当はずっと前から気がついていたが、精一杯見ないふりをしてやり過ごしてきた。それを突如、思わぬところから叩きつけられたのだ。

 違う学科の訓練にばかり出席する自分を、他の生徒がどんな目で見ていたのか。同じクラスの者達が、そんな自分にどんな感情を向けていたのか……。

 唇を噛み、両手が軋むほど力を込める。言われた言葉が何度も頭の中を反芻し、言い返すどころか顔を上げることすら出来なくなった。


――バン!


 突然、乱暴にテーブルを叩く音が響いた。

 卓上に頭を預けていたククシュルは飛び起き、コハクも驚きの視線を向ける。


『なんですか、それ』


 そこにには両手の平をテーブルに叩きつけ、立ち上がったルーツェがいた。

 コハクはもちろん、ククシュルもディーグも常にないルーツェの様子に固まってしまっている。


『コハクが自分勝手? 中途半端? 何も知らないくせに、勝手なことを言わないで! 今すぐコハクに謝ってください!』


 ルーツェは言い切ると、据わった目でククシュルを睨んだ。怒鳴りつける勢いで声を荒げたため肩で息をするルーツェの顔は、赤みを帯び今にも噴火しそうだ。

 よほど悔しかったのだろう(にじ)みかけた涙を誤魔化すために、乱暴に目元を拭う。

 そこには先程まで自分に好意的な眼差しを向けてくれていた少女の面影は一切なく、ククシュルは自然と姿勢を正す。


『…………ご、ごめんなさい』


 ルーツェの気迫に押されて、ククシュルが身を縮めて謝った。しかしその視線はルーツェに向けられていたため、「わたしにじゃなくてコハクにです!」と再度叱られてしまう。

 言われるままククシュルはコハクへと向き直ったが、コハクはなんとも言えない表情でルーツェを見ており視線は交わらなかった。

 ククシュルは少しふてくされたようにイスに背を預けると、だらしなく足を伸ばしながら沈み込んでいく。


『……やっぱり謝らない。僕、思ったこと言っただけだし』

『むうー! 学院長さん!』

『謝らないったら、謝らない! そんなことより、僕のことは名前で呼んでよ? ククシュルでいいよ』

『知りません。コハクを悪く言う人は信用できないので、仲良くもしないし、わたし師匠のところに行きます』

『ええー!!』


 ルーツェの言葉にククシュルはイスをガタつかせながら身を起こし、ディーグは勝ち誇った顔で鼻を鳴らした。


『決まりだな』

『ずるい、ずるいぃー! 今のは無しですよぉー!』


 喚くククシュルを無視して、ディーグはコハクへと目を移す。

 腕を組み傍から見れば偉そうな態度でコハクを呼んだ。


『もうふた月もすれば学期末テストがある』


 一瞬、コハクはディーグの言いたいことが解らず眉をひそめる。ディーグはそんなコハクを気にすることなく当たり前のように言葉を続ける。


『各コースの実技テストはトーナメント制になっていてな。そこで一位を勝ち取れば、学院への早期推薦と入学金が免除されるらしい』

『ディーグさん、それ本当!?』


 ばっと顔を上げディーグへと詰め寄る。

 ディーグが言うには、学院への推薦資格が得られるのは年二回。前期と後期とで分けられたそれぞれの学期末テストで、各コースで最優秀者の成績を収め、両学校で定めた一定の基準を超えればいいらしい。そうすれば入学金が免除され、希望をすれば次の学期から編入させてもらえると言うことだ。


『十数年前、先代の大魔……あー、とある人物が提案した制度らしくてな。平民だろうが学生だろうが能力があるなら支援すべきと押し通したらしい』

『師匠、引きこもりのくせに詳しい、いた! い、縮む、止めてくださいぃ!』


 どこから持ち出したのか、分厚い本でディーグがルーツェの頭を押しつぶす。鈍い音と共にルーツェが悲鳴を上げ、ディーグはさらに体重を乗せた。


『じゃ、じゃあ、その学期末テストで優勝すれば俺も学院に行けるってこと?』

『優勝し編入試験にも合格すればな。だが、条件が付けられる』

『え?』

『学院卒業後は推薦を受けた各軍に、最低でも三年間所属すること。そしてもう一つ……――学院滞在期間は専用コースが用意され、原則他学科の授業には参加できなくなる』


 ディーグの言葉にコハクは息を呑む。


『魔術師団コースのお前が期末テストでその権利を勝ち取ったところで、学院では魔術師団コースの授業しか受けれないということだ』

『……』

『そりゃわざわざ推薦してお膳立てしてあげたのに、全然関係ないことされたら意味ないもの~』

『お前がなぜ兵士団コースにこだわるのかは知らんが、学院に行くだけなら方法がないわけではない。――ということは知っておけ』

『…………』


 コハクは再び俯き、表情を曇らせてしまう。そのまま考え込んでしまったのか言葉を発さなくなってしまった。逆に外が騒がしくなり、少しして慌てた形相のクレイドが飛び込んできた。

 その後ディーグに指示されたクレイドがコハクの様子を伺ったが、大した反応は示されなかった。






――……コハクは閉じていた目を開けると、ゆっくり前を見る。

 学園内にある訓練場の壁はひんやりとし、身体の熱を吸っていく。

 どれほどの時間が経っていたのか、いつの間にか他の生徒の姿も増えていた。その中で一際目を引くのが、兵士団コースで一番強いと言われている一年生。

 ニウロ・ロペス。

 コハクは遠目にニウロの背中を睨むと、勢いよく立ち上がった。

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