表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔力なし少女は譲らない  作者: 村玉うどん
第一章 魔力なしの少女
13/204

12話 お誘い

 生誕祭まであと五日。

 昨晩の雨がうそのように、空は雲ひとつなく晴れ渡っていた。

 舗装されていない砂利道(じゃりみち)には、所々小さな水たまりが出来ている。

 わずかに泥濘(ぬかる)む砂利道を、ルーツェは水が跳ねるのも気にせずに走りぬける。


「おはようございます! カルダ来てますか!」


 まだ人もまばらな作業場に飛び込む様にかけこんだ。

 そんなルーツェに、近くにいた村人は目を見開き驚いている。


「おはよう、ルーツェ。カルダならまだ見てないな」

「確か今日は来ない日じゃなかったか?」

「そうなんですか……」


 しょんもりと肩を落とすルーツェに、答えた村人達は不思議そうな顔をする。


「ん? 後ろにいるのはコハクか? 今日はやけに早いじゃないか」


 項垂れるルーツェの後方には、のろのろと歩いて来るコハクが見えた。

 いつもはギリギリか、遅刻することも珍しくないのに。


「ルーツェに連行されて来たのか」

「いつもこれくらいいだと、いいんだがな」


 わははと笑い出す男たちに、コハクは答えることなく作業場にたどり着くと、そのまま奥へと進んで行く。

 なんだと見守っていれば


「あとはよろしく」

「来て早々寝るんじゃねーよ!」


 奥に備え付けてある長椅子へと横たわり、寝る体制に入ってしまった。

 さすがに呆れたものの、まだ開始するにはいくぶん早いのでそのままにしておくことにする。


「で、ルーツェはどうした? カルダになんの用だ? いつでもいいなら、伝えとくが?」


 五十代くらいの体格の良い男が、ルーツェへと振り返り声をかける。

 どことなく元気のないルーツェに、顔には出さないが周囲も聞き耳をたてていた。


「ううん、いい。ありがとうございます」


 にこりと笑ってみせるルーツェに、男は苦笑を浮かべる。

 ルーツェは一度下を向いたかと思うと、突如真剣な表情で顔を上げ小さな拳を胸元で握った。


「あの、お金を稼ぎたいんですけど、わたしに出来る仕事はありませんか!」


 熱い眼差しで見上げられ、男は身を引く。


「ル……ルーツェに出来る仕事かぁ……」

「雑用でも、なんでもいいの! 頑張るからお願いします」


 急な申し出に焦りを浮かべ周りに助けを求めるも、皆そそくさと散っていく。

 男達は『頑張れ!』『裏切り者!』と目でやり取りをする。

 その間にも、キラキラと期待の眼差しでにじり寄って来るルーツェに、男は後ずさり


「こ、ここは人手も足りてるから、女達に聞いたほうがいいかもなぁー」


 わざとらしく矛先を変えて逃げだした。






********************






「はぁ~。結局、何の仕事も任せてもらえなかった」


 山の向こうには沈みかけの真っ赤な夕日が見える。ルーツェは、とぼとぼと歩きながら、作業場に戻ってきた。

 今日は一日、村を廻りくたくただ。何もしていないのに、足が棒のようにだるい。


「壊しちゃった魔石……弁償したいのに」


 思わずくしゃりと顔を歪めたが、なんとかこらえ作業場近くの木箱の上に突っ伏す。いつかカルダに、手当をしてあげた場所だ。

 仕事を探すため最初は作業場にいき、魔石作りは無理でも荷物整理でも何でもいいから仕事はないかと考えた。

 しかし(てい)よく追い払われ、それならばと洗濯場や各々の家をまわり、なにかないかと訪ねまわった。


『ルーツェに頼みたい仕事? う~ん、とくには無いわね』

『うちも困ってないねぇ』

『肩が凝ってるから、肩たたきしてくれたらお駄賃あげるよ』


 ルーツェが仕事を強請ると、皆同じような反応で困った顔をする。中には駄賃としてお願い事を考えてくれる者もいたが、かえって申し訳なくなり無償でお手伝いした。

 そもそも、村では基本的にお互い助け合うので、報酬が出るような仕事が無いのだ。


「町に出たら何かあるかしら」


 腹ばいに足だけ下に投げ出し、ぶら下がるように木箱に寝そべる。

 雨風にさらされザラつく木箱は、節くれだってちくちくする。

 カルダにも会えず、何の収穫もないままコハクを待つ。昨日は遅くにコハクだけが帰ってきた。雨に降られすごく疲れていたようだが、ルーツェの様子が変なことに気づき色々と問い詰められた。

 正直にカルダの魔石を壊してしまい、ちゃんと謝れなかったと話すと、納得したのか逆にルーツェをあやすように一緒に寝てくれた。

 今日も作業場に行きたいと言うと反対せず、朝早くから眠気眼(ねむけまなこ)でついてきてくれたのだ。


「~~~~ぅあーーーーもう!」


 不甲斐なくて、悔しい。あまりの情けなさに、ルーツェは木箱の上でジタジタとうごめく。(はた)から見れば怪しいことこの上ないが、どうせ誰もいないし気にしない。


「ふぅむ、娘さん。その様な格好でナァニをしているのですか?」

「ふぇ!」


 ふいに男性にしては甲高い声に呼ばれ、ルーツェはがばりと跳ね起きる。


「え……、役場長さん!?」

「はい。アグソルト・ウイキスと申します。私をご存知なのですか?」

「前、役場に犬をもらいに行った時少し。あ、わたしルーツェレア・ルクラスです!」

「ぁぁ、あの時の」


 相変わらずゴテゴテした装飾をこれでもかとぶら下げた特注の制服に、ガリッガリの体躯。町役場のトップであり、カルダの上司でもある通称(言っているのはルーツェとコハクのみだが)ガリ()(ちょう)

 猫背にくぼんだ眼球は影を作りだし、いっそ病人のように見える。


「女性がその様なところで寝転がるとは、はしたないですよ」

「う、すいません」


 木箱から飛び降り、姿勢を正す。

 地面に着地したルーツェにガリ痩せ長もといアグソルトは、目を細め前のめりに見つめてくる。その距離がやたら近いし、怖い。


「……そう言えば貴女、凶暴化した獣やロージ・ディ・スペズスナー君の件にも関わっていましたね」

「へ?」


 猫背気味にルーツェを観察していたアグソルトは、ぐうんと背筋を戻し顎に手をやる。


「呪われているのでは?」

「そんな事ないです! ………………たぶん」

「冗談ですよ。真に受けないで下さい」

「………………」


 真面目な表情でトンデモナイことを言われ、ルーツェは口をぱっかり開けたまま言葉を失う。

 冗談が下手な上に、わかりにくい!


「ちょうどいい。娘さ……えー、ルーツェレア・ルクラスさん?」

「はい」

「そう。では、ルーツェレア・ルクラスさん。貴女に聞きたいことが、あるのですが?」


 肉のついていない細い指で、自身の顎骨を触りながら、アグソルトは首をかしげる。しかし、仕草が独特というか……ぐりんと真横、直角に腰を倒したかと思うと、顔を下から覗き込まれ思わず身を震わせ仰け反った。

 いちいち動作が怖い!


「な……なんでしょう」


 頬と声を引きつらせながら何とか聞き返す。

 アグソルトは気にした様子もなく、薄ら笑いを受かべ歯を覗かせた。


「ルーツェレア・ルクラスさんが、正気を失った魔物と遭遇した場所の様子がどうもおかしくて」

「?」

「何度か奥まで調査をしているのですが、なぜか同じ道を辿ったつもりが、毎回違う場所に行き着くのですよ」

「そうなんですか?」

「はい。良ければ獣とどのように遭遇したか、詳しく教えていただけませんか?」


 そうは言うものの、ルーツェも殆ど迷いながら辿り着いたので、どう説明すべきか言いあぐねる。


「その、東の方にある大きな岩場から、村に近い大木を目指して山を下りました」

「ほうほう」

「そうしたら急な坂で足を滑らせて、小さな洞穴のところまで走り抜けたました」

「……洞穴?」


 ピクリとアグソルトの眉が動いた。しかし、数日前の記憶をさらうのに必死なルーツェはそれに気づかず、言葉を続ける。


「その洞穴のすぐ近くで獣と遭遇して、慌てて逃げたんです。……あの、なので細かい順路など、あまり把握出来てなくて――すいません」

「いえ、いえいえいえ」

「?」


 ルーツェが頭を下げると、頭上からホロホロと奇妙な笑い声が聞こえた。

 次に顔を上げた瞬間には無表情に戻っていたが、笑っていたのだろう。本当に……変わった人だ。


「ねえ、ルーツェレア・ルクラスさん」

「はい」

「実は明日、山の捜索を行うのですが貴女もどうです?」

「どう……とは?」


 にこにこと……いや、にまにまと笑みを浮かべるアグソルトに、ルーツェは無意識に一歩距離をおいた。

 ら、その分詰められた。

 そうしてアグソルトは、両手をルーツェへと広げ言い放つ。


「明日の捜索に、調査員として参加して下さい」

「…………」




「………………へ?」






********************






 生い茂る木々をかき分け、湿気を含んだ斜面を登る。

 時刻は朝。早い時間ではなくどちらかと言うと昼に近いが、朝露(あさつゆ)が地面へと滴り空気が湿っている。

 足場を取られないよう、ルーツェは気をつけながらも必死に山を登っていた。


「あの……コハクさん? この紐はいったい……」


 ぶっすぅ――と、不機嫌オーラを撒き散らし全身全霊で不満を表すコハクの左手には、しっかりとした麻縄(あさなわ)が握られている。

 麻縄はある程度の長さがあり、コハクが握っている方と反対の先端は、ルーツェのリュックへと固く結びつけられていた。


「犬じゃないんだから……紐で繋ぐとかやめてよ」

「はあ?」


 ギンっと、ものすごい形相で睨まれ、ルーツェはたじろぐ。昨日からずっとこの調子なのだ。


「まあ、コハクも落ち着きなさい。役場長殿がお決めになったことだし。ルーツェだって『決してコハクの側を離れない』って約束してくれたんだから」

「クレイドはわかってない。コイツは約束なんてすぐ忘れるアンポンタンなんだから」

「………………」


 座った目で言い放つコハクに、クレイドも苦笑で返す。


「クレイドさんも、そこは否定して下さいよ!」


 ルーツェが頬を膨らませ抗議するが、お構いなしだ。

 昨日の夕方、役場長であるアグソルトの提案により、山の捜索にルーツェが参加することが決まった。

 コハクはもちろん、クレイドまでも猛反対したが、一番の責任者が


『なんだかルーツェレア・ルクラスさんは、色々と引き寄せそうなので』


 とのたまった。

 さらにお礼としてアグソルトが個人的に報酬を出すと言うのだから、ルーツェもやる気になり押し切る形で次の日を迎えた。

 出発直前までなんとか取り消せないかと渋っていたコハクだが、


『不満があるならコハク・ルクラス君。キミは参加しなくてもィイですよ?』


 などと言いやがるので、コハクは渋々というか、苦虫をすりつぶし、グツグツ煮こみ苦味だけが滲み出た煮え湯を飲まされたような表情で、なんとか黙りこんだ。

 そしてルーツェに、絶対一人で行動しない、離れない、無茶しない、怪我しない等々……延々と注意事項を述べたあと、念の為麻縄で繋いだ。


「それにお金が入ったら、カルダの魔石を弁償出来るかもしれないの! コハクも協力してよ」

「……だからって、討伐隊に参加しなくてもいいじゃん」


 ぶちぶちと、文句をこぼすコハクの左手を取る。ルーツェは、自分よりすこし大きな手をそっと握った。


「何かあったらコハクが守ってよ」

「そもそも何かを起こさないでよ」

「善処しますぅ」

「出来てないから言ってるの」


 少しだけコハクの雰囲気が和らいだ気がして、心配げに様子を伺っていたクレイドが安堵の息を吐く。

 仲直り出来たようで良かった。自然とクレイドの表情も緩む。


「ねえ、だからこの紐外してよう」

「それは駄目」

「コハクは心配しすぎ・な・の・よ~……」

「だ・れ・の・せ・い・だ・よ……」

「…………」


 仲良く手を繋いでいたかと思うと、ルーツェが無理やりコハクから麻縄を奪おうとしていただけのようだ。

 ぐぎぎと実際にはしていない音が聞こえそうな光景に、クレイドは笑んだまま表情が固まる。

 一拍おいてため息を付き、目頭を押さえた。


「君たち、こんなところでケンカすると危ないから……ほどほどにね」

「ケンカじゃないし」

「意地悪するコハクが悪いんだもん!」

「やれやれ…………」


 しばらく放っておこうと、クレイドは二人の子供を視界の隅に留め、前を向いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ