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魔力なし少女は譲らない  作者: 村玉うどん
第一章 魔力なしの少女
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10話 魔石の行方

 作業場は村の中央に位置する広場の片隅にある。と言うか普段広場として使っている場所を、祭りの時期のみ作業場として使う。

 作業場の脇には大きめの倉庫があり、半分は農具の予備や荷馬車の整備部品をしまっている。冬の間は備蓄や、夏になると収穫物の一時保管庫としても使われる。

 そして祭りの時期には役場から魔術具が貸し出され、魔石の保管庫となるのだ。が……。


 その倉庫前に、村の男衆が十数名ほど、険しい表情で集まっていた。


「ケニー達が戻って来たぞ」

「カルダも……て、なんでルーツェまで連れてきてるんだ! (おんな)子供は家に帰せって言っただろうが!」

「うっせー! 追い返してもついて来ちまうんだ!」


 一人の村人がケニー達に気がついた。奥にはコハクもいたようで、不安な表情を浮かべルーツェにかけ寄っていく。


「……なんでルーツェまでいるの? お前は帰れよ」


 チラリとカルダの様子を気にしながらも、先にルーツェを帰したいようだ。コハクだけでなく、男衆から無言の圧力がルーツェにかかる。


「いやよ! ケニーおじさんが言うには、まるでカルダを疑ってるみたいじゃない! そんなのおかしいわ!」

「え? ……ケニー……?」

「ちが、いや……違わねぇ。魔石がなくなって、焦って変なこと口走っちまった。すまねぇ」


 コハクが驚いた表情でケニーを見る。ケニーはバツが悪そうに、謝罪の言葉を口にした。


「別にケニーは悪くないだろ」


 しかし、広場に待機していた別の村人が不満を隠さず口を挟む。もうすっかり薄暗い広場を見渡せば、集まった半数ほどの村人たちが似たような表情を受かべていた。

 彼らは皆、冷たい眼差しでカルダを見ている。


「まあ、みんな落ち着けよ。カルダも来たし話を進めよう」

「確認と報告のため探してこいってことだったのに、誤解させたならすまない」


 幾人かの村人は、慌てて場をとり成そうとする。しかし、その言葉はかえって刺激を与えたようで、先程口を挟んできた村人が怒りを露に声を荒げる。


「何が誤解だ! 倉庫の鍵は壊されたんじゃねえ、外されてた! なら鍵を持ってるカルダが怪しいじゃないか!」

「悪いが俺もそう思う」


 気の荒い男達が、カルダを睨みつける。

 一瞬ビクリと身を縮ませたカルダだったが、腹に力を込め息を吸う。


「大体の事情はわかりました。役場管轄の倉庫で、保管庫していたはずの魔石が紛失していた。そして鍵を管理している僕が何か関係しているのではないか……そう言うことですよね?」

「まあ……そうだな」


 少数が気まずそうに視線を反らす。

 皆はっきりとは口にしないが、少なからずカルダのことを疑っているようだ。


「でも保管用の魔術具に魔石を入れたのは、俺とレイルさんだ。術が作動したのも、その後カルダがちゃんと鍵を閉めたのも確認してる」

「あ、ああ! コハクの言う通りだ、それは間違いねぇ!」

「役人なんだから鍵は持ってるし、術だって解除できるだろうが!」


 カルダを庇うようなコハクの言い分に、一人の男が食ってかかる。

 そうとう頭に血がのぼっているのか、ほとんど聞く耳を持っていない。


「申し訳有りません! すぐ役所に(しら)せます! ……それと、僕に不信があるなら代わりの者を寄越すように言い――」

「そうじゃねぇだろ」


 このままでは不要な混乱が続くと判断したのか、カルダが頭を下げる。

 しかし、ケニーがカルダの胸ぐらを掴み上げ、無理やり顔を上げさせた。


「お前がどうのとか、この際どうでもいいんだよ!」


 ケニーもいくらか落ち着いたのか、先程までの勢いはない。しかし、淡々と告げられる声は重苦しく息が詰まりそうだ。


「最初に騒ぎ立てたのはオレ達だ。それは悪かったと思ってる」


 すまなかった。と、ケニーは乱暴に掴んでいた服を離し、謝罪の言葉を投げる。


「だがな、役所にとってはただのミスで片付くことかも知れねぇが、オレ達に取っては生活がかかってんだ!」


 生誕祭に捧げる魔石。

 各地の村や町ぐるみで魔石に魔力を溜め、女神へと捧げる感謝の祭りだ。

 捧げると言っても実際に存在するかわからない女神に、直接渡すわけでは勿論ない。

 祭りの当日に教会や帝都の魔術師が派遣され、魔石に溜められた魔力を恵みの力へと変換し大地へと還す。


「魔石が減れば、収穫量に影響が出て生活が苦しくなる! 下手したら、備蓄が出来ずに冬を迎える事になる。そうなったら、オレ達は飢え死にだ!」


 だからって、アンタらが何とかしてくれるわけじゃねぇんだろ?

 肩を震わせ、最後の方は静かな憤りを感じさせるケニーに、カルダは何も言えなかった。

 村人が求めているのは謝罪などではなく、問題の解決。忽然と姿を消した魔石の早期発見なのだ。


 押し黙り俯いてしまったカルダの耳に、誰かの舌打ちの音が届く。こんなことをしている場合ではないのに、責任の取り方がわからなかった。


「もう! 無いものは無いんだし、しょうがないじゃない!」


 それまで大人しく様子を伺っていたルーツェだったが、問答を続ける大人たちに痺れを切らした。

 うだうだ言っている男どもに、ぴしりと人差し指を突きつける。


「ここで悩んでたってどうにもならないわ。それより、倉庫の確認をして町に報告しなくていいの?」


 確かに。そうだなと村人たちはようやく頷く。数名は苦い表情を浮かべたままだが、ルーツェは背筋を伸ばしたまま目を逸らしたりしなかった。


「うるせぇ! おチビは黙ってろ!」

「ケニーおじさんこそ! 子供が産まれたばっかで、先のことが心配なのはわかるけど。……ふう、もっと落ち着いてよね」

「なんだと、このガキが〜」


 青筋を浮かべ、ケニーがルーツェを追いかける。ルーツェが舌を出しながらちょろちょろと逃げ回れば、見慣れたいつもの光景に剣呑な空気も和らいでいく。

 成り行きを見守っていたコハクも、わからない程度に詰めていた息を吐いた。自分でも気づかない内に緊張していたようだ。


「とにかく、暗くなってきたしカルダも(まじ)えて、もう一度倉庫の確認をしよう」

「そうだな。報告はどうする? カルダは役場の馬で来てるんだっけか?」

「はい! すぐ出れば今晩中にでも町に行って戻って来られると思います!」

「いや、報告しに町に戻るだけでいい。明日の朝一で村長と合流してから話したほうがいいだろう」

「ちょうど討伐隊の件で村長は町の方に行ってるんだ」

「あ、そうでした……すいません」


 カルダも非常事態に焦り、気が()いてしまう。

 己がしっかりしなければいけないのに……悔しさと惨めな気持ちがない交ぜになり、拳をきつく握りしめる。


「ふむ~あそこが犯行現場ね! カルダ急ぎましょう!」

「え? ルーツェ?」


 ふいに手を取られ、カルダは上ずった声を上げてしまう。


「だぁーら、おめーは帰れっつってんだろ! おチビー!」

「ふーん、知らなーい」

「コハクー! なんとかしろ!」

「無理でーす」


 文字通り両手をあげ、お手上げのポーズをとるコハク。そのまましれっと二人のあとを追い、ケニーの追撃から逃れる。

 お子様二人に振り回され、激怒するケニー。これまたいつもの日常だ。

 誰かが夜へと様変わりした星空を背に、倉庫場の松明に火を灯す。


「一応あまり物は動かしてない」

「確かに扉は無理に開けられた形跡もないし、魔術具も破壊ではなく解除されてますね」


 コハクの携帯用ランプをカルダに渡し、カルダはケニーと話している。

 ルーツェはコハクから余計なことをするなよオーラを浴びながら、倉庫の中をあちこち見て回った。

 何かおかしなところは無いか……ではなく、単に普段入れない場所への好奇心からだ。


「正直なところ、この魔術具はある程度の魔力量と知識があれば、解呪できるものでして……すいません」


 役場とて、そこまで資金に余裕があるわけではない。

 申し訳ない実状に、カルダは身を縮こませる。


「つまり魔力が高い奴なら、役場の人間じゃなくても開けれるってこと?」

「そうだけど……そうは言っても相当な量の魔力を使うよ。解呪も簡単に出来るものじゃない。絶対できない事はないけど、思いつきで出来るほどでもない……そんな感じかな」


 コハクの問いに、カルダが答える。


「じゃあ、鍵は? どっか別の場所から侵入して、中から開けることは可能なのか?」


 続いてケニーが辺りの荷物をどかしながら話しかける。もしかして壁に穴など開いていて、動物が入り込んだ可能性だってある。

 しかし、カルダはそれにも首を横に振った。


「実はこの倉庫自体に術式が組み込まれていて、結界の役割を果たしているんです。鍵が術式の発動と解除の役割を行っていたので、例え中に潜んでいたとしても外に出ることはできません」

「つまり、”正規の手順で、鍵と魔術具を開けた”ってことか……」

「そう……なるね」


 改めて確認された事実は、当初の疑念どおりでカルダも顔を歪める。


「念の為だが……最近、村を出入りしているよそ者は、カルダ以外には先生んところの色男だけだ」

「クレイドさんなら、朝のうちにじっさまと出かけたけど?」

「…………なら」


 じとりと、ケニーがカルダに疑いの眼差しを向ける。もちろん、ルーツェが警備隊の如く反応する。


「もう! だから、カルダじゃないって! すぐ疑わないで!」

「だってよぉ、状況的にカルダが一番怪しいじゃねーか」

「てゆーか、自分に一番不利な状況で盗み働くって、どんだけ間抜けなんだよって話じゃん。……え? さすがにそこまで間抜けじゃないだろ?」

「違うよ! 庇ってくれてるのか、けなしてるのか、どっちかにしてよ!」


 うそ、やだ、とわざとらしくコハクが口元に手を添える。わかりやすい茶化しに、カルダの緊張も緩んだ。

 気を引き締め直し、深呼吸する。


「これ以上ここにいても解ることは無さそうなので、一旦町に報告に行こうと思います」

「それしかなさそうだな」

「魔術具も一緒に提出したいのですが、どなたか付き添いで来られますか? 僕の乗ってきた馬も、一人なら一緒に乗れると思います」

「いや、夜道は危険だ。変な獣も出るみたいだしな。村の馬も使って二~三人で向かおう」

「だったら()が出てからのほうが良くないか?」

「そうだな……じゃあ、誰が行くか決めるか」


 外で待機していた者も集め、ケニーが話を進めていく。

 結局、陽が出てからケニーとカルダの計二名で、報告に行くことになった。

 その後カルダは遠慮したが、『逃げるかもしれないからうちに来い。見張っといてやる』と、ケニーの家に泊まることになった。


「……すいません、ありがとうございます」

「ざけんなぁー! お前の心配はしてねぇーよ! 見張りだって言ってんだろ! 勘違いするなぁー」

「うんうん。最近魔物の噂も聞くし、危ないもんな」

「ケニーも素直じゃねーなぁ」

「きゃあ、ケニーおじさん、やさしぃー」

「うっせー! 違うっつてるだろ! しかも……おい、おチビ! 何が『きゃあ、やさしぃー』だ! 棒読みじゃねーかよ!」


 二、三名まだ納得していなさそうな者もいるが、概ね収まったようだ。

 コハクも安堵の表情を浮かべ、近くの壁に寄りかかった。

 何も解決してはいないのだが、早く帰って休みたい。そう思った時、ふと――


――……、……そ


 外から人の声が聞こえた気がした。

 瞬時にコハクは倉庫内に目を走らせた。一、二、三……村人の顔と数を確認していく。


(集まってたメンバーは、全員いる……)


 なのに今、自分の真後ろの壁の向こう側で、人の声がしたのはなぜだ?

 素早く、だけど気取られないように倉庫の外へと出る。

 外は真っ暗で、雲に隠れて月明かりすら無い。視界を照らす光は、扉付近の松明のみ。

 コハクは出来るだけ音をたてずに、声の発生源へと飛び出した。


「誰かいるのか!」


 倉庫の壁沿い。すぐ傍には林へと続く茂みがある。

 薄暗い闇のなか冷たい風が木々を揺らすが、それだけだ。

 コハクの予想に反して、そこには誰もいなかった。


「…………」


 勘違いか?

 コハクが眉根を寄せて周囲を見渡す。

 こんな暗がりの中、遠くまで目視出来るわけではないが、それらしきものは見当たらない。先程声がした辺りに近づいても、特に変わったところは無さそうだ。


「コハク、何かあったのか!」


 外で待機していた村人が、松明を持ってコハクの元へやってくる。


「いや……人の声がしたと思ったんだけど」

「本当か!」

「でも、すぐ外に出たけど誰もいなかった」


 言われて、集まってきた数人の男たちが辺りを見回し、落胆の表情を浮かべる。

 確かに怪しい人影はおろか、動物すらいなさそうだ。


「風の音を聞き違えたのかもな」

「うん……勘違いさせてごめ――」

「コハク何してるの?」


 外で騒いだせいだろう、ルーツェがちょこんと倉庫の(かど)から顔を出す。

 コハクは何でもないと口を開きかけたが、ルーツェが一瞬驚いた顔をした。


「コハク! 後ろに誰かいる!」


 目が合った。

 ルーツェはコハクが襲われると飛び出した。瞬間、コハクの真後ろで地を蹴り走り去る音がする。

 だが、振り返るも誰もいない。


「左に行った! 茂みの中、大きな布を羽織った人がいる!」

「見えない! だけど了解! 絶対捕まえる!」

「おい、コハク!?」


 ルーツェが誰もいない場所を指差し、見えないと言いながらもコハクが疑いもなくかけて行く。ルーツェの声を聞いてなかった他のものも、騒ぎに気づき外に出てくる。

 そうして驚愕する。誰の姿も見えないのに、ガサガサと茂みをかき分け進んでいく音が鮮明に聞こえた。


「なんだ! 何かいるぞ!」

「姿が見えない! 化物か!?」


 村の外へと逃げる音に向かって、コハクは転がっていた石を投げつける。見えないだけで実態はあるらしい、鈍い悲鳴をあげ()()が倒れた。

 一瞬の出来事に身動き出来なかった村人も、各々(おのおの)武器になりそうなものを手に茂みの中へとわけ入る。

 一体”なに”を捕らえたのだろうか?


「ルーツェはこっちに来るな! カルダ! ルーツェのこと見張ってろ」


 見えない()()の背にコハクが馬乗りになる。大きさから察するに人間……少なくとも人の形をとっていると思われる。両手らしきものを掴み、誰かが倉庫から持ち出した縄で縛り上げる。

 石をぶつけられた()()は、一瞬だけ気を失っていたのか、急に暴れだした。


「くそっ! 大人しくしろって!」

「おい! コハクお前手が……!」

「本当だコハクの手が見えなくなってる!」


 何人かが驚きコハクの手を(ゆび)差す。言われてコハクは己の両手へと視線を移すが、確かに見えない。村人の反応に、ルーツェはあることに気づいた。


「そうか! 姿を見えないようにする魔術具よ! 専用の術式を施した物を身にまとえば、周りからは姿が見えなくなるの!」

「……なら、身ぐるみ剥いでみますか」


 押さえつけていたため、コハクにも魔術具の影響が出たのかも知れない。感覚だけで犯人と疑わしき人物の首元へ手を伸ばす。

 羽織っていた布を剥ぎ取ると、その姿が徐々に浮かび上がってきた。


「……誰だコイツ?」

「若いな。カルダとそう(とし)も変わらないんじゃないか?」

「え? なんでキミが……?」


 村の男達には見覚えのない、年若い青年。しかしカルダには面識があるのか、驚きの表情を浮かべた。


「あ! あの人、役場で会った――」


 ルーツェが驚きの声をあげ、コハクもその正体に気づく。

 そう、数日前。仔犬を引き取りに、役場へ訪れた時に出会った人物。


「僕の同僚の、ロージ・ディ・スペズスナーです……」

「ちくしょう! カルダ・ソートっ!」


 ロージはカルダを睨みつけ、広場には動揺が走る。


「役人だと!? なんで役人がこんな時間にコソコソしてるんだ!」

「魔石を盗んだのもコイツか!? なら役場が絡んでるってのか!」


 カルダを疑っていた時とは、段違いの不安が男たちに広がる。どういうことだ! しらねーよ! 役人が自分たちを陥れようとした?

 意味も理由も理解らぬまま、疑心だけが満ちていく。

 緊張をはらむ空気に、ルーツェは思わずカルダの服を握りしめた。


「離せ! 平民風情が! 貴族であるボクにこんな事をして、無事で済むと思うなよ!」

「貴族たって……スペズスナー家だろ」

「あいつらに何が出来るってんだ。(げん)に息子を、こんなど田舎に出稼ぎに出してるじゃねーか」


 言って村の男達は笑う。それを聞いたロージは顔を真っ赤に染め上げ、眉を吊り上げた。


「ふざけるな! くそっ! 許さない! お前ら全員、ボクを侮辱したこと後悔させてやる!」

「何が許さないだ! お前こそあんなところで何をしていた!」

「お前が魔石を盗んだんだろう!」

「ボクはっ……っうるさい! 黙れ、黙れー!!」


 癇癪を起こしたように、ロージが怒り狂う。


「くそう! 全てお前のせいだ、カルダ・ソート。平民どころか下民(げみん)の分際でっ!」

「なに言って……」

「うるさいうるさいうるさい! お前さえいなくなればっ…………ぅがっ!」

「「「「「!!?」」」」」


 突如ロージに向かって、謎のボールが投げつけられた。それは見事ロージの顔面に命中し、真っ二つに割れたと思うと断面に書かれた魔法陣が光を放つ。


「ちょっ、ルーツェ! 俺に、ま……」

「ぐーぐー」


 ぐらりとコハクがロージの上へと倒れ込んだ。下敷きにされたロージは非難の声を上げるどころか、二人共眠ってしまっている。


「じっさま特性、眠り爆弾! ぶつけられた相手の魔力を吸い取って発動する優れものよ!」

「え、なんでそんなもの……」

「いざと言う時使いなさいって持ち歩かされてるの。邪魔だと思ってたけど、使う場面があって良かったわ!」


 今使う場面だった!? カルダは何か言いかけて、言葉を失う。ルーツェはいつだって唐突なことをするのだ。

 しかし、ボールを投げつけたであろうルーツェの小さな手は、小刻みに震えていた。倒れ込み眠ってしまったコハクを見つめる瞳だって、不安に揺れている。


 カルダは我にかえり、頭を左右へと激しく振った。ロージがどういった理由で姿を隠し、この場にいたのかはわからない。だけど、役場の人間がルーツェや村の人たちに、不安な思いをさせているのは間違いない。

 カルダは自分の頬を、両手で思いっきり叩ぅ。びっくりした表情で見上げてくるルーツェに一度微笑むと、気を引き締め村人達へと向き直った。


「この度は役場の者が混乱を招き、誠に申し訳ありません!」


 腰を折り、深く頭を下げる。


「ふざけるな! やっぱりテメーらの仕業じゃねーか!」


 そうだそうだ、と最後まで納得していなかった数名の男たちが怒鳴り散らす。

 男たちの言い分ももっともで、ただ頭を下げるしかできなかった。


「……悪いが状況が変わった。今すぐ人数増やして町に向う。お前は上司叩き起こしてでも、絶対に報告しろ。それまでコイツの身柄は村で預かっておく」

「ですが……」


 ケニーの申し出に、カルダは心配そうに眉根を寄せる。


「お前らもいいよな! こんな新米に文句言ったってどうしよーもねぇ! だったら、さっさと話の分かるやつ連れてくるべきだろ! なあ?」


 ケニーが皆に振り返り、声をかけてくれた。

 納得はしていない様子ではあるが、しょうがないと首を縦にふる。

 カルダは再度ケニーに頭を下げた。


「それと……、ロージはこれでも貴族の出です。どこで面倒事に繋がるかわからないのに、いいんですか?」

「構うもんか。俺らは何もしてねえ、むしろコイツが勝手に眠りこけたのを、一晩介抱してやるだけさ」

「へ?」

「そうだな。とにかくカルダは朝一で、偉いさんを連れて来てくれたらいいからよ」

「それにコイツが犯人なら、魔石の在り処もすぐわかるだろうし」


 そう言ってカルダの背を押す村人に、カルダも了承した。まだ確定したわけではないが、犯人らしき人物を捕らえ、村人の心にも余裕が出てきたのだろう。


「じゃあ、僕はすぐ町へ戻ります」

「俺らも準備してくる」

「こっちの役人の見張りは誰がする?」

「ルーツェとコハクも送ってやらねえとな」


 それぞれが役割を分担しはじめるのを見て、ルーツェはようやく肩の力を抜いた。良かった、魔石はまだ見つかってないが、それも時間の問題だろう。

 診療所へは家が近い村人が送ってくれることになり、コハクを背負ってルーツェの方へとやってくる。その背後では、カルダとケニーが話しながらどこかへと去っていく。ルーツェは眠っているコハクの手を握りながら、その後姿を見送った。

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