0話 不可解な侵入者
月は厚い雲に覆われ、光すら届かない闇が周囲を覆う。
昼間は人で溢れかえる賑やかな街の広場も、今は何の音もなく静寂が満ちている。
「あー、寒い。春先なのに、まだまだ冷え込むなぁ」
「暇だし、寒いし……夜番の見張りなんてついてない」
街の奥にある大きな広場。そこにある倉庫の出入り口に、二人の傭兵が身を縮こまらせて立っていた。
手にはランタンが一つ。ガラス内に火種はなく、かわりに小さな石が浮かんでおり、淡い光を発しながら周囲を照らしていた。
「まあ、そう言うなよ。祭りの時期は入りの良い仕事が増えるから、俺は助かるぜ」
「けどよ、広場には結界が張られてるんだろ? 見張りなんて必要ないだろーに」
「楽でいいじゃねーか。魔物が出ても結界のおかげで、中には入って来られないんだから」
片方の傭兵が、もう片方の傭兵をなだめるように告げる。男の言うとおり、倉庫を円形で囲むように、目には見えないが結界が張り巡っているようだ。
「なに言ってんだよ。そもそも魔物なんざ今まで一度も見たことないし、こんな町中に現れるもんか! それよりも倉庫内の魔石が盗賊に狙われないか、そっちの方が恐ろしいね」
「はは、それもそうか……っうう、寒っ! にしても本当に冷えるな」
びゅうっと、一際つよい風が吹いた。持っていたランタンの金具が煽られ、振り子のようにゆらゆら揺れている。
足元から底冷えする冷気に、二人の男は羽織っていたマントを押さえた。
――びゅうう
――ザワザワ
吹きぬける風に、木々のざわめきが激しくなる。
風のおかげか偶然か……隠れていた月がゆっくりと顔を出しはじめ、周囲に灯りが落ちる。
――ウゥゥ……
次いで聞こえた、絞り出すようなうめき声。
「おいおい、なに唸ってんだ? いくら寒いからって大げさすぎだろ」
「は? 俺じゃなくてお前だろ?」
「おれじゃないぞ? おれはなにも……」
雲は完全に去り、満月がくっきりと浮かび上がる。夜だと言うのに、月の光は明るく、町へと抜ける道がぼんやりとだが見える。
なのに二人の傭兵の周囲は暗い。
月の光を遮る大きな影が、二人を覆い隠すように立っていた。
――ウウゥ
「へ?」
うめき声へと振り返り、目を見開く。そんな、ばかな。眼の前のなにかに、身体が凍りつく。
「……ぅ、そだろ…………?」
月夜を背に、一匹の大きな獣がそこにいた。
「な、なんで魔物が!」
「どうして、こんなところに! け、結界があるはずじゃ……!?」
男は腰元の剣に手をやり、必死に抜こうとするが震える両手では力が入らない。もう片方の男は硬直したまま、腰を抜かしていた。
「ちくしょう!」
獣の目は真っ赤に染まり、大きな爪が振り上げられる。
「ぁ……来るな! あ、うあああぁぁぁっ!!」
静かな夜のとばりの中。冷たい風に紛れて、一陣の生暖かい風が吹いた。