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真実の恋  作者: 冬月やまと
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最終話 恋の行方

 実桜の信じた通り、翌日真から、いつなら都合が良いかとのメールが届いた。 

 少しでも早く真と話がしたいと思った実桜は、今日でも会いたいと返信したが、今日は夜遅くから会議があるというので、明日会うことになった。

 あんな感情的なメールを送った後で、どう真と向き合えば良いのか? 

 実桜は悩んだ末、もう真に遠慮するのも、自分を取り繕うのもやめようと思った。

 素のままの自分をさらけ出して、真と接しよう。

 実桜が、こんな気持ちになるのは初めてだ。

 これまで、どこか女王然とした振る舞いを意識してきたが、真に対しては、普通の女性として接することができる。

 明日、真がどういったことを言ってくるのかはわからない。

 メールの通りさよならを告げられるのか、あるいは、可能性は薄いが、プライベートな付き合いを求められるのか。

 真のことだ。謝るだけかもしれない。そうであれば、また、これまで通りの関係になってしまう。

 実桜は、これまで通りの関係を続けるつもりはなかった。店と同伴だけの付き合いなんて、ぜったいに嫌だと思っている。

 別れを告げられるのも嫌だ。もし、面と向かってさよならを言われたら、きっと自分は、また感情的になるに違いない。

 明日が、自分の人生の分岐点だと、実桜は思っていた。

 実桜は、明日のことをあれこれと想像して、眠れぬ夜を過ごした。

 実桜に都合を尋ねるメールを打ったものの、まさか、今日でも会いたいと返事が来るとは思わなかった真は、実桜の希望通り、今日会うことを躊躇った。

 昨日の今日で、心の準備ができていなかったのだ。

 それならば、心の準備ができてからメールすればいいものを、あまり放っておくと実桜に悪いと思って、とりあえず日程だけでも決めようと思い、気が逸ってしまった。

 ここでも、真の中途半端な律儀さが、自分を追い込むことになってしまった。

 真は、少なくとも今日一日は、実桜と会ってどう話すべきかを考えたいと思い、会議があるからと嘘をついて、欲日に伸ばした。

 真は定時に退社し、真っ直ぐに家に帰った。

 夕飯も摂らず、明日実桜になんて言おうかと、悩みに悩んだ。

 まずは謝る。これは当然だ。

 問題はその後だ。実桜が結婚するのかどうか確かめるのか、あるいは、そんなことは訊かずに、自分の想いを打ち明けるのか。

 夜中まで悩んだ挙句、真は、自分の気持ちに素直に従うことに決めた。

 実桜が結婚しようがしまいが、自分の想いを伝えずに実桜とお別れするするのだけは、ぜったいに嫌だった。

 もう、下手な遠慮をするのはやめよう。素直に自分の想いを伝えればいい。それで駄目だったら、そこでまのことだ。

 そう思い定めると、真の心はすっきりした。

 とうとう、その日がやってきた。

 二人とも気まずい思いがあるのか、食事は止めにして、実桜が働いている店の前で会うことにしていた。

 今日の実桜は、真と初めて同伴したときの黒いドレスを身に着けている。

 店の雰囲気にそぐわないと店長に注意されるのはわかっていたが、真に、自分が営業抜きで接するのだということをわかってもらいたかったがために、二人にとって想い出深い服を選んだのだ。

 そんな実桜の気持ちが通じたのか、真が眩しそうな目で実桜を見た。 

「やあ」

 真がぎこちなく声を掛けると、実桜もぎこちない笑みで返した。

「本音を聞かせて」

 実桜は座るなり、真の目を除き込むようにして、じっと真の目を見つめながら、落ち着いた口調で言った。

「その前に、ごめん。いきなりあんなメールを送ってしまって」

 真が精一杯の勇気を振り絞って、実桜の目を見つめ返しながら謝る。

「本当よ。傷ついたわ」

 今日はいつもの実桜とは違うと、真は感じた。

 いつもなら、喜楽の感情は見せても、怒哀の感情を見せることなどない実桜が、心底悲しそうな表情をしている。それに、はっきりと傷ついたと言った。

 いつもの実桜なら、そんなことは絶対に口にしない。

 自分の打ったメールが、ここまで実桜を傷つけてしまったかと思うと、真の胸が痛んだ。

「本当にごめん」

 真は、もう一度頭を下げた。

「謝るのは一度でいいから。それより、なぜあんなメールを送ったりしたの?」

 実桜の声は怒ってはいない。

 悲しみを帯びてはいるが、慈しみに満ちていた。

「実桜ちゃんが結婚するかと思って。だから、身を引こうと思ったんだ」

「バカね。結婚するなんて、一言も言ってないでしょ。あの話は断ったわよ」

「そうなの? でも、いい話だったんだろ?」

「誰が? あんなマザコン」

「マザコン?」

 実桜は、真に北川のことを一部始終話して聞かせた。

「そうだったんだ」

 実桜が怒るわけだ。早とちりしてあんなメールを送ったことを、真は心底後悔した。

「そんなこととは知らずに、あんなメールを送ってごめん」

 なんといって謝ればよいのかわからなかったが、真には謝ることしかできない。

 苦渋に満ちた顔で、実桜を見つめる。

 実桜は、真の視線を冷静に、しっかりと受け止めている。

 今の実桜の心は澄んでいた。

 真が自分に気があると、はっきりとわかったのだ。

 真は気付いていないかもしれないが、さよならメールは、真の嫉妬心からきたものだと、実桜は確信していた。

 その喜びが、実桜の気持ちを落ち着かせていた。

「だから、もう謝るのはいいから」

 実桜が、真の腕を軽く叩く。

「それより、来てくれて嬉しい。誠意を感じた」

 はにかむように微笑む実桜に、真の心が疼いた。

「あのままで、終わるわけにはいかないからね」

 実桜に応えるように、真の口元もカーブを描く。

「ねえ」

 真の顔を覗き込むようにして、実桜が顔を寄せてきた。

「わたしのことをどう思ってる?」

 実桜の声が微かに震えており、真を見つめる目は、これまで見たことのないような真剣みを帯びている。

 実桜は、本気で自分をぶつけてきている。

 真はそう感じた。

 もう、真は躊躇わなかった。

 実桜に応えるためにも、自分の気持ちをはっきりと告げるべく、真が口を開いた。


 愛とは、不思議なものだ。

 愛するがゆえに、悩み、悶え、苦しむ。

 愛するがゆえに、相手を傷つけ、自分も傷つく。

 しかし、愛が成就したとき、人は、この上もない幸福に包まれる。

 ときには、喧嘩もするかもしれない。

 ときには、信じられなくこともあるだろう。

 そういった壁を乗り越えていって、より愛は深まり、人は成長してゆく。

 人を愛することのない人生は不毛だ。

 人は、人を愛する分だけ幸せになれる。

 愛する人を守るために強くなれる。

 愛に差別はない。

 人種も国境も年齢も職業も越えて、人は人を愛することができるし、誰をも愛する資格がある。

 出会いは、どこで待ち受けているかわからない。真と実桜のように。

 その出会いを大切に出来る人が、幸せを掴めるのかもしれない。

 一方的な愛、押し付けの愛、独りよがりの愛、そんなのは愛とはいわない。ただの自己満足だ。

 愛とは、相手を思いやることであり、相手を慈しむことであり、愛する人のために身を投げ出すのを厭わないことである。

 そうしてこそ、相手も本当に自分ことを愛してくれる。 

 これから、真と実桜がどうなってゆくのかは、みなさんのご想像にお任せする。みなさんの思い描く愛の在り方で、真と実桜を幸せにしてやってほしい。



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