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真実の恋  作者: 冬月やまと
31/41

VOL.31 ストーカー(真)

 ストーカーをする奴って、一体、どんな精神構造をしているんだろう。

 これまでニュースを見ても、ただの他人事としか捉えていなかったが、自分が大切に思っている女性が被害に遭っているのを知ってから、他人事とは思えなくなった。

 真は実桜の話を聞いてから、ストーカーについていろいろと調べてみた。

 病気とか思い込みが激しいなんてことを書いているサイトもあったが、違うだろうと思った。

 最近は、痴漢やストーカーまでも病気で済まそうとする傾向があるが、そんなことを言ってしまえば、 犯罪者はすべて病人になってしまう。

 確かに、病気には違いないだろう。痴漢やストーカーなんて、とてもまっとうな人間のすることではない。

 だが、真はそうは思わなかった。要するに、自分勝手なのだ。

 自分の弱さやいやらしさを世間のせいにして、憂さを晴らすと同時に、自分の欲望を満たそうとしている。捕まれば、心が弱いことを前面に押し出し、なんとか罪から逃れようとする。

 そんな奴ら以上に、苦しみと不幸を背負っている人々は大勢いるはずだし、道を踏み外さまいと、歯を食いしばって頑張っている人々も大勢いるはずだ。

 なんで、今の世の中は、こんな自分勝手で、卑怯な奴らに甘いのだろう。

 調べれば調べるほど、理不尽な思いに捉われた。

 こんな奴らは、みんな隔離してしまえばいい。死にたければ、好きな人を道連れになんかにしないで、自分一人で死ねばいい。

 過激なのはわかっているが、真は、実桜がストーカーの被害に会っているので、怒りが沸々と胸に湧いてくる。

 本当に好きだったら、その人の幸せを願うべきで、他人に取られたくないとか、自分と一緒になれないからなんてくらだない理由で、愛する人を傷付けるべきではない。ましてや、命を奪うなんてもってのほかだ。

 そんなのは、愛とはいえない。

 そんな壊れた人間に、付きまとわれる方が災難だ。

 真は、ストーカーをする人種を心底憎んだ。

 実桜の顔を曇らせる奴が、心底許せなかった。

 その男は、実桜に臆面もなく言ったという。

「キャバ嬢をしているんだから、こんなことには慣れっこだろ。俺をここまでにさせたおまえが悪いんだ」

 その男と、手助けをした友人をボコボコにしてやりたい衝動に、幾度も駆られた。

 そいつらの人生を、地獄に突き落としてやりたかった。

 ここまで過激な思い捉われたのは、生まれて初めてのことだった。

 それだけ真の心の中で、実桜という存在が大きくなっていたのだ。

 ともあれ、憤っているだけでは始まらない。

 いくら実桜のことが心配であっても、四六時中実桜に張り付いているわけにもいかない。ましてや真は、実桜と夫婦でもなんでもない。そんなことをすれば、真もストーカーになってしまう。

 どうすればいい?

 真は、一生懸命考えた。

 ストーカー対策のグッズを、ネットでいろいろと調べてみた。幸運にも、真の勤める会社の近所に、現物を見れる店があった。夜七時まで営業しているらしい。

 早速、翌日に会社を定時に切り上げて行ってみた。

 店には、催涙スプレーやスタンガン、メリケンサックや伸縮式の鉄棒、短い棒状の物や、なんと、鉄扇まで置いてあった。

 鉄扇なんて、誰が買うんだろう? 

 時代劇でしか見たことがなかった真は、物珍しそうに、ガラスケースの中に飾ってある鉄扇をしげしげと眺めた。

 物珍しそうに眺めている真の背中に、店主が声をかけてきた。

 幸運にも、店には真ひとりしか客がいなかったので、店主の話をいろいろと聞けた。

 店主の話を聞いて、真がびっくりしたのは、今の世の中、ストーカーをする人種が非常に多いということだ。店主はこの商売を始めてから、街を歩いている男のほとんどがストーカーに見えるらしい。

 事実、十人にひとりはストーカーだとのことだ。加えて、ストーカーをする人種は、周りの忠告に耳を貸さないということも知った。家族や、どんなに親しい友人が忠告しても、止めようとはしないそうだ。

もっともだ。そんなことで止めるようなら、最初からストーカーなんて身勝手で卑劣で愚劣なことはしないだろう。

 やはり、夜の仕事をしている女性が、一番被害に遭っているという。

 意外だったのは、女性のストーカーも結構いるということだった。

 男と比べて数は少ないが、ストーカー化した場合、女性の方が男より凄まじいということも聞いた。

 世の中狂ってる。

 店主の話を聞けば聞くほど、真は暗澹たる気持ちに覆われた。

 男性は、女性のストーカーに付け狙われた場合ただ怯えるだけだが、女性は、いくところまでいくと居直る人もいるということを、店主が教えてくれた。

 自分をとことん怯えさせ、日常生活を台無しにした男に復讐をしてやりたいと、一番強烈なグッズを買いにくる女性が、結構いるということだ。

 やはり、女性の方が上か。

 真は店主の話を聞いて、思わず納得してしまった。

 ストーカー談義が一段落したあと、グッズの紹介に入った。

 真が驚いたのは、ここに置いてあるグッズは、すべて店主自身が試したのだという。催涙スプレーも、スタンガンも、すべて自分の身体で実験済ということだった。

 それだけに、店主の説明には説得力があった。

 一度、キャバ嬢の彼氏が一緒に来てスタンガンの効果を我が身で試してみたが、あまりの衝撃に意気消沈してしまったという話を、笑いながら店主がしてくれた。その男は、見るからにヤンキーだったそうだ。

 商売人とは凄まじい。

 真は、店主を尊敬した。

 スタンガンが絶対でないということも知った。

 映画なんかで、相手を戦闘不能にするシーンなんかを見かけるが、スタンガンは筋肉に当てないと効果がないという。ましてや、急所以外では、服の上からでは効果の程は知れているというのだ。

 まず、催涙スプレーで相手を怯ませて、その隙に、首筋や胸や手首なんかに当てるのが効果的だとのことだ。

 ストーカーが襲ってくるのは、多くは夜だ。

 強烈なライトを浴びせて相手の動きを止めておいて、催涙スプレーを浴びせ、次にスタンガン。それで、相手の動きを封じておいてから逃げる。

 これが、一番の策のようだ。

 眼鏡をしている人間に催涙スプレーは効果があるのかと真が尋ねると、ちゃんと眼鏡用の催涙スプレーもあった。

 霧状の液体が噴き出すのではなく、ねっとりとした液体が眼鏡にへばりつき、気化するときに、相手の目を刺激するという代物らしい。

 それはもう、強烈とのことだ。

 店主も少量試しただけで、10分は目を空けることができなかったと言って笑った。

 商売人とは凄まじい。

 真は再びそう思い、ますます店主を尊敬した。

 営業時間を過ぎても、真は粘って、店主から聞けるだけの話を聞いた。

 店主が勧めたのはクボタンという、短い棒状のものだった。先が尖ったものと平なものの二種類があり、それぞれ数種類の色が選べる。

 クボタンとは、平たくいえば、武器になるキーホルダーだ。

 家の鍵を付けておき、万が一鍵を開けているときに後ろから抱きつかれた場合、棒の先端を男の脇腹に突き刺すという使い方をするらしい。

 真は、小さな催涙スプレーとクボタンを買って、店を後にした。

 ストーカーの増加に伴い、防犯グッズも進化しているのだ。

 実桜と知り合わなければ、こんな道具とは一生縁がなかったかもしれない。

 妙なことに感慨を覚えながら、真はそのまま実桜のいる店へと向かった。

 昨日店行ったばかりだが、少しでも早く買った物を渡したかったのだ。

 たとえ微力であっても、実桜を守る役に立ちたかったからだ。

 店に着いたのは、九時過ぎだった。

 今の源氏名は実桜ではない。ストーカー対策として変えていた。

 だが、真には実桜と呼んでほしいと言った。

 店のスタッフも真の顔を覚えているので、別に名を呼ばなくても、実桜を寄越してくれる。

 真も、これまで呼びなれた実桜の方がよかった。今の名も聞いたが、どうもしっくりこない。

 本名は聞いたことはなかったが、実桜は実桜だ。

 実桜の本名なんて、真にはどうでもよかった。

   


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