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6:石化の呪い 3/3

「重いよ痛いよどいてよルー。私が怪我したらどうするのさ」


 暗闇の中、どうにも気の抜けるようなラヴィーネの声が響く。

 のろのろと体を起こしたルーファスは、下敷きにしていたラヴィーネを起こすと、辺りを確認するように手を彷徨わせる。

 ラヴィーネは暗闇の中、至る所に角をぶつけながら小さく詠唱すると、手の平大の光の塊を作り頭上に浮かべた。

 

 灯りに照らし出されたのは、地下室の何処かかと思われる細い石造りの通路だった。

 どうやらルーファスの読みは当たっていたらしい。

 一緒に崩れて落ちて来た瓦礫を退かしながら、二人は身なりを整えると、灯りを頼りに通路を進んで行く。


「『私が怪我したら』って、俺の心配はしないのかよ」


 人が並んでどうにか通れる程度の狭い通路を進みながら、ルーファスは思い出したように口を開く。

 ラヴィーネは一瞬、何を言っているのかとルーファスを見上げるも、すぐさま先程自分が言った言葉を思い出し小さく頷いた。


「そりゃそうだよ。そんなしっかり武装した筋骨隆々な男より、軽装でひ弱な我が身の方がよっぽど大事でしょ。それに、怪我でもしたらまた角が伸びちゃうだろ」

「どう言う意味だ?」


 再び飛び出した不可解な言葉にルーファスが身を屈めると、ラヴィーネは小さく声を上げ前方を指差す。

 ラヴィーネの指差す先、通路の突き当たりに扉があり、少し開いた扉の隙間からは光が漏れ出している。

 二人は顔を見合わせると、扉に近付くと息を整え、ゆっくりと扉を開け放った。


「なん、だこれは……」


 先に部屋に入ったルーファスは、視界に飛び込んで来た光景に言葉を無くし、立ち尽くした。

 狭い通路とは打って変わり、石像が並べられていた応接室よりも幾分か広い空間に、檻が幾つも積み上がっている。

 その檻の中には、大きさも種類も異なる多種多様な魔物が生きたまま詰め込まれ保管されていた。

 室内には獣臭さが立ちこめ、二人はたまらず顔を顰め口元を覆う。


「魔物の不当転売ってところか。これだけ生きた魔物がいれば石化もするだろうな。むしろ石化だけで済んで良かったんじゃないか? これは騎士団おれも面倒な仕事を引いちまったな……」

「うん、これは金貨一枚じゃ割に合わないかな。あぁ、結界を重ね掛けしないと……騎士団の制服は魔法除けがあって厄介なのに、全く」


 ふらふらと檻を覗き込みながら進んで行くルーファスの服の裾を掴みながら、ラヴィーネは不満そうにぶつぶつと結界を重ね掛けしていく。

 完全に魔物鑑賞の様な様子のルーファスだったが、奥の檻に人鳥ハーピーの姿を見付けるや、すぐさま自分の仕事を思い出したらしい。

 

「なぁラズ、この全ての魔物の力を無効化させて無傷で捕獲するとなると、いくら位になる?」


 突如騎士の顔に戻り真面目に話をし出すルーファスに、ラヴィーネは肩を揺らし笑いを堪える。

 バツが悪そうにルーファスがラヴィーネの頭を小突くと、ようやくラヴィーネは息を整え口を開く。


「騎士なんだから魔物の価格は良く知ってるだろ? 大きさ希少さ強さ等々で値段は変わるけど、ドラゴンで金貨百枚から。人鳥ハーピーで銀貨五枚から。これに捕獲や討伐なんかの条件が足されていくからえーと……今すぐ計算出来ないな。しかも全部私一人ででしょ? 絶対普段より高く見積もる」

「となると、ラズが手出ししたら伯爵家は路頭に迷うって事か。まぁ、不当転売が判明した時点で爵位なんか関係なく投獄が決定してるんだけどな」


 檻の数を指折り数えていたルーファスだが、どうでも良くなったのか腰に手を当てると、ラヴィーネを見つめ顎をしゃくる。

 完全に人に任せ自分は傍観体勢に入ったルーファスをラヴィーネは睨み付けると、そのまま深く息を吸い、面倒そうに詠唱を開始した。



 夜、騎士団に応援を要請しようやく魔物の運び出しが完了した後、ラヴィーネとルーファスは今度は応接室に放置していた石像の処理に移る。

 一人で魔物に魔法をかけ続けた為、ラヴィーネはほぼ使い物にならない程疲れきっていたので、半数以上ルーファスが石化を解いて回った。

 次々と目を覚ます使用人達は本当に何が起こったのか分からないらしく、泣き崩れる者も続出し、治療が終わった者は他の騎士に促され、一度屋敷の外へ連れて行かれた。

 そして最後に、伯爵夫人アンネローゼと次期当主ユーリ。そして部屋の端の椅子に座ったまま石化していた現当主ロベルトの解呪を行う。

 同時に石化から解放された三人は、自分達の目の前に立つ騎士達とラヴィーネを確認しつつ、ぽっかりと口を開け情けない表情で一番近くに立つルーファスを見上げる。


「ロベルト・ヴィアゼムスキー伯爵。並びにその伯爵夫人と御子息様。敷地内で発見された魔物の件でお伺いしたい事が御座います。城までご同行下さい」


 ルーファスはあえて騎士団の詰め所では無く『城』と表現した。

 これは騎士団だけで対応する様な案件では無く、正式な手順を踏み法の下国に裁かれると言っているのだ。

 その言葉で状況を把握したのか、ロベルトの顔からは生気がすっぽりと抜け落ち、その場に膝から崩れ落ちる。

 ユーリに至ってはまだ状況が理解出来ないらしく、抜け殻のようになってしまったロベルトをただ見つめていただけだが、アンネローゼは違った。

 アンネローゼはすぐさま立ち上がるや、持っていた扇子でラヴィーネの頬を思い切り叩くと、口から泡を飛ばし金切り声を上げた。


「この三流が! 昨日全て終わったはずでしょ!? それなのに何で貴族である私達がこんな不当な扱いを受けているのよ!? そうよ……そうだわ、全部この化け物が昨日こうなるように仕向けたのよ! この化け物が屋敷の地下に魔物達を呼び寄せたに違いない! あんた達! 私達では無くこの化け物を捕まえなさいよ!」

 

 目を血走らせわめき散らすアンネローゼが、再び振り上げた扇子をラヴィーネ目掛け振り下ろすと、ラヴィーネはさも面倒そうにほんの少し体を捻り扇子をかわす。

 そしてバランスを崩したアンネローゼの腕を掴むと、そのまま無造作にユーリに向かってアンネローゼの体を押し飛ばした。


「そうかそうか、私が魔物をね。で、何故私はこの屋敷の間取りを知っていて、何故伯爵夫人は『屋敷の地下』に魔物『達』がいた事をご存知だったのでしょうね。先程ルーファスは『敷地内の魔物』としか言いませんでしたが。言い逃れるにしても少し苦し過ぎるのではないですか?」


 ラヴィーネは叩かれた頬を擦りながらため息をつくと、しまったと目を見開き押し固まったアンネローゼを睨み付ける。

 アンネローゼがそれ以上反論してこない事を確認した騎士達は、三人の身柄を拘束し、用意していた馬車に連行していった。


 伯爵家の前に仰々しい馬車がいくつも並んでいたせいで、通りは騒ぎを聞きつけた人で溢れかえっていた。

 伯爵家族が馬車に乗せられるのを見ていた一部の人間が騒ぎ出しどこかに走って行く。

 あと数時間もしないうちに街中に号外が配られる事だろう。

 伯爵家族を乗せた馬車を先頭に、魔物の檻を乗せた馬車三台も後に続き動き出す。

 呆然とする使用人達への説明は騎士達に任せ、ラヴィーネは角を隠すように上着を羽織ると、人だかりの間を縫って進む。

 後の処理を他の騎士に任せたルーファスは、慌てて人をかき分け進むと、服の上から思い切りラヴィーネの角を鷲掴みにする。


「こら! 荷物を放って一人で先に帰るな!」

「だって伯爵は連行されたから実質今回はタダ働きだろ? もうこれ以上あそこに留まってたって意味がないだけだし。あと、そのすぐ角を掴む癖どうにかならないの?」

 

 頭を後ろに引っ張られつつ、ラヴィーネは不満そうにルーファスに視線を向ける。

 相当疲れているのか、普段はぱっちりと大きく見開かれているラヴィーネの紺碧色の目は、今はとろんと眠そうに半分程しか開いていない。

 てっきり先程のアンネローゼの発言に怒って帰ったのかと思っていたルーファスは、欠伸をしながら頬を擦るラヴィーネの様子に、変に毒気を抜かれてしまい笑いながら膝を折ってしまった。

 

「はは! 裁判が終わったら伯爵家が取りつぶされる前に、今回の取り分をきっちり徴収しておいてやるよ。それと、今日帰りがてら好きな物を買ってやる。どうだ? 少しは機嫌直ったか?」


 頬と角の先を擦っていたラヴィーネは、少し悩むように視線を一度落とした後、渋々と言った具合に一度頷くと、ルーファスの手から鞄を受け取りにやりと笑う。


「しょうが無い。今回はそれで許してあげよう。早速だけど、帰りに昨日のりんご買ってくれよ。あれ、一つ小鉄片五十グラムとか恐ろしく安いくせに、なかなか瑞々しくて美味しかったんだ。だから二つ、半銅貨一枚分買ってくれ」


 すっかり機嫌が直ったラヴィーネは、嬉しそうに鞄を振り回しながら、昨日露店があった通りに向け足早に歩き出した。

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