35:番外編―誤解と希望とくずくずな休日
超不定期投稿番外編その1。
オチもない何の事は無い日常のお話。
「してルーファス殿、エマとの結婚はいつ頃を予定しているのだ?」
「な、に?」
「それは名案だね! 最高だよ! いつなのルー?」
街が金竜の呪いから覚めようやく元通り機能し始めた頃、ふらりとワインを片手にラヴィーネの店を訪れた元老院が、挨拶でもするようにそう問いかけた。
元老院もルーファスも、金竜襲来の一件から多忙を極めまともに休みを取っていない。
その為、ルーファスは元老院がいきなり良く分からない事を言い出したとて、ツッコむ気力も無く、ただただ『元老院も疲れてるのだな』と受け流すので精一杯。
しかし、金竜であるラヴィーネは気力も体力も人間であった頃とは比較にならない程、それこそ売れる物なら売りたいくらい持て余している。そのラヴィーネがルーファスをよそに元老院の言葉に元気に食い付くのも、当の本人のルーファスはただただカップに口をつけたまま、ぼんやりと無言でその様子を眺めているだけ。
「何、と言われても、二人はそう言う関係では無かったのか? 何処の馬の骨とも分からぬひよっこなら突っぱねてやるが、ルーファス殿なら文句はない。早く二人くっついてしまえば良いと常々思っておったのだ」
「二人の子どもだったら全力で祝福するよ加護もあげちゃう! あー楽しみだね元老院! 孫だよ孫ー!」
すっかり本人を置き去りにし盛り上がる友人と他部署の最高責任者に、ルーファスはうっすらくまが出来た目を細め、口を開けたまま言葉を失う。
「……いや、そんな関係でも無いしそんな予定も無い……。そもそも、元老院殿も今はそれどころではないでしょうに」
現王派と直系派のいざこざの余韻は後を引き、まだ収まってはいない。
歴史に残る大事件を引き起こすきっかけになった事と、いざこざが表に出たことで、現王は逃げるようにその位を捨て王都を去った。そして先王の息子もまた王位を継いでいない。
現状この国は今、王が不在な状況であった。
その為、元側近や元老院などが血眼になり国を支えているのが現状。そんな状態でその気も無いが結婚など悠長な事を、とルーファスは指摘した。
しかし、その発言を聞いた元老院は、目をかっと見開くやワインをカウンターに大きな音を立て置くや、ルーファスの肩を掴みぐいっと顔をよせる。
「こんな状況だからこそ! 何か心の底から祝える事が欲しいのだ! 今はルーファス殿と馬鹿娘の結婚か、無事生還したエレムルスに元老院を譲るかしか楽しみが無いのだ! その二つなら結婚が先に見たい!」
「取りあえず落ち着いて頂きたいのですがぁ!?」
寝不足で血走った目で、鬼気とした勢いで詰め寄る元老院に、さすがのルーファスも立ち上がりなだめるように席に促す。
ラヴィーネは寝不足&過労の二人の掛け合いを、カウンターの反対側で腹を抱え笑い転げ聞いていたが、自分を睨み付けるルーファスの視線に気付き、目に涙を浮かべながらもどうにか椅子に座る。
「あの馬鹿娘はああ見えて気立ては良いと思うのだが、まさか……やはりルーファス殿は男色で……? そうなるとエレムルスを……いや、金竜がなんと言うか……」
「っはぁ!? 待て待てやはりってなんだ俺はちゃんと女が好きだ! そりゃラズの女体化はその辺の女よりぐっとくるもんがあっ……って、ちがーう!!」
「もう無理やめて面白すぎるっ! 元老院は地が出てるしボケてるし、ルーも何言って……うははははっ!」
真剣な面持ちで話す元老院に、自分の発言に頭を抱えるルーファス。それと二人の会話にたまらず床に崩れ落ちるラヴィーネ。
そして、何故か悶え苦しむルーファスとラヴィーネを見ていた元老院が、この場にエマを召喚しようと言い出し更に焦るルーファス。
そのルーファスの焦る姿を見た元老院が、やはりルーファスはエマに気があるのだと、一人思い直したのは言うまでも無い。
その後結局元老院はエマを喚び出し同じ話をし、エマは見事ルーファスと同じ様な反応を示した。
久し振りの休息は残念な程ぐずぐずな結果に終わった。