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34:終幕

 *


「それにしてもよ、死のうと思って谷底に落ちといて、やっぱり人として生きたいって巣を飛び出したと思ったら、また人の世は生きにくいとか言いつつ、ちゃっかり魂は全部人に預けるとかさー。もう情緒不安定なのか精神的に弱いのか強いのか我が儘なのかなんなのか、本当に分からないやつだよな」


 お茶を一気に煽ったルーファスはカップをソーサーに戻すと、不満そうに体を反らし椅子の背もたれに体を預ける。

 

「自分でもそう思うよ。でもあんな非現実的な自体になれば、自暴自棄にもなるでしょ普通?」


 ルーファスの隣には、空のカップにお茶を注ぎながら不満そうに頬を膨らませるラヴィーネの姿があった。


 あの後、エマの魔法でラヴィーネの魂を全て返した所、やはりラヴィーネは暴走した。

 覚悟を決めていたが、やはり現実になれば躊躇いもする。

 ルーファスとエマが唇を噛み締め戦闘態勢に入ると、一緒にいた金竜がラヴィーネの体を押さえ込んだのだ。

 暴れ回りの岩を砕き金竜に噛み付くラヴィーネだったが、金竜は反撃する事も無くひたすらラヴィーネを押さえ付け、更にルーファス達が近付かないよう定期的に尾を振っていた。

 そんな攻防戦が数時間程続くと、姿を変えたばかりのラヴィーネはまだまだ未熟なようで、すぐに体力を消耗し動けなくなってしまった。

 動けなくなったラヴィーネを抑えながら、金竜はそっとラヴィーネに頬を擦り寄せ、語りかける。


『落ち着いたか、我が愛し子』


 するとラヴィーネはぐいっと顔を背けるや、金竜を退かすように鼻先でつつき出す。


『……重いよ、どいて』


 落ち着きを取り戻したラヴィーネが発した声は、姿が変わってもラヴィーネそのものだった。


「ラズ!」


 反射的にルーファスはラヴィーネを呼び走り出し、エマも声にならない声を上げていた。

 ラヴィーネはルーファスに視線を向け目を細めると、魔力で姿を竜から元の人の姿に変え、思い切りルーファスとエマに飛び付いた。

 

「ぐっ……! ルー! ちょっと力が強すぎる……!」

「煩い黙れ!」


 絞め殺さん力で抱き締めるルーファスに、たまらずラヴィーネはエマに助けを求めるも、感極まったエマもラヴィーネにしがみつき離れようとはしない。

 三人がひとしきり感動の対面をし終わると、それを待っていたかのように金竜が顔を近付けて来た。

 ルーファスはラヴィーネから手を放すと、そっと背中を押してやる。

 心配そうに見つめる金竜の前で、ラヴィーネはどうにも照れくさそうに笑みを浮かべた。


「ごめんね金竜。折角竜になれたけど、もう少し皆と居たいんだ……。せめて皆が天寿を全うするまで……」


 ラヴィーネの言葉を遮るように、金竜はぺろりとラヴィーネの頬を舐める。


『何も言わなくて良い。誰が何と言おうと、其方はもう我が愛し子となった。その体ならば魔力に苦しむ事も無く、人に傷付けられる事も無いだろう。好きなだけ遊んだら帰って来なさい。だが、あまり顔を見せぬようなら私から街に出向くからな。それと、また人間が其方を利用しようとしたら――』

「分かった分かったよ! もう、なんで私のまわりに集まるのは過保護で心配性の世話焼きさんばっかりなんだろうね。……ありがとう金竜」


 ラヴィーネは金竜の鼻先に全力で抱き付くと、踵を返しルーファスとエマに飛び付いた。


「さっ帰ろう! 上に居るのは元老院? 頑張るねー」


 ラヴィーネはすっかりいつも通りの緊張感の無い雰囲気に戻ると、二人を抱え竜の姿に戻るとそのまま舞い上がり、ずっと小型翼竜を焼き払っていた元老院を回収し、王都に舞い戻った。


 竜の体を得た事で、魔力も安定しすっかり元の生活に戻ったラヴィーネが最初にした事は、王都中に蔓延した金竜の呪いを解く事だった。

 王都に戻ってすぐ呪いの事を知ったラヴィーネは、ルーファス達を下ろすや再び金竜の巣に戻り呪いを解くよう話をしたのだが、解呪で一稼ぎしろと一笑されたらしい。

 渋々言われた通り解呪を始めたのだが、同じ金竜の呪いは簡単に解く事は出来るが、如何せん患者が多い。

 流石にラヴィーネだけでは手が回らず、元老院とエマは勿論のこと、ルーファスまでも引っ張りだして解呪して回り、ひと月かけて王都中から呪いを消し去る事に成功した。

 そして今、二人はラヴィーネの店でささやかに解呪完了を祝してとびきりの甘味を堪能していた。


「今更だけど、なんであの金竜はラズを助けたんだろうな」


 チーズケーキに匙を差し込みながら、思い出したようにルーファスが溢す。


「私が金色だったからだってさ。神災級の魔物は世界に五柱存在するって話だけど、金竜はあの一柱だけらしいからね。伴侶も子どもも無くて寂しかったんじゃ無い?」


 お茶を注ぎ終えたラヴィーネはさらりとルーファスの問いに答えると、椅子に座り髪を結い直す。

 ラヴィーネの頭にはもう角は無い。

 ラヴィーネはもう人間では無く竜。女の姿になった時のように、今は魔力で人間だった時の姿を再現しているにすぎない。

 ルーファスが宣言した、ラヴィーネがどんな姿になっても友で有り続けると言った通りになった。

 

「そう言えばこの騒動ですっかり忘れてたけど、また魔物の討伐依頼が騎士団に来てたんだった。休み取りてー」


 王都が流行病で機能を停止している間も、各地で魔物の被害は相次ぎ、未解決の案件が騎士団に山のように積まれたまま。

 骨の檻に依頼を出したい所だが、残念ながら骨の檻も同じような状況であり、エマどころか元老院も今は王都を離れ魔物と対峙しているらしい。

 ルーファスは心底面倒そうにチーズケーキを一口で頬張り立ち上がると、ラヴィーネの腕を取り歩き出す。


「ちゃちゃっと飛んで行って、さっくり解決してゆっくり帰って来ようぜ」

「飛んでって、完全に私を乗り物扱いしてるでしょ。飛べばすぐだし明日じゃ駄目かい? 噂の劇を見に行きたいんだけど」


 ルーファスに腕を引かれ店を出たラヴィーネは、不満そうに声を上げつつも、何故かにやにやと笑みを浮かべルーファスの顔を覗き込む。

 今爆発的に流行っている劇は二つ。

 一つは玉座を巡って国をも巻き込み争った二人の男の悲劇の話。

 もう一つは竜の友であり主となった、一人の騎士と魔法使いの話。

 一つ目の話は、先日王都で起こった歴史に残る金竜の呪いの原因となった、玉座を巡る直系派と現王派の争いを元にした事。そして二つ目はラヴィーネ達三人の事だ。

 王族が私利私欲の為国民をも危険に晒した直後、騎士と魔法使いが金竜の主となり王都を救った事実は、少し大袈裟に華々しい劇となり、すぐさま各地に広がって行った。

 ラヴィーネは劇の中で英雄として書かれている騎士、ルーファスの顔をのぞき込みたまらずふき出す。

 気恥ずかしさから口を尖らせるルーファスは、不満そうに頭をかきむしると、ラヴィーネの腕を強引に引っ張った。

 

「やっぱりほとぼりが冷めるまで王都には帰らない! ほらさっさと飛んだ飛んだ! 主に従え頭を垂れろー!」

「うははは! 口の周りにチーズケーキつけたまま、何を偉そうに……!」


 劇中にあると小耳に挟んだ台詞を織り交ぜながら、ルーファスは顔を真っ赤にして叫ぶ。

 ラヴィーネは腹を抱え涙を流し笑い転げながら、ルーファスの腕をとりそのまま舞い上がる。

 建物の高さを越えた辺りで元の竜の姿に戻ったラヴィーネは、大切そうにルーファスを両手で抱えたまま、笑い声を上げ目的地へと飛び立って行った。


 これが、後の世にも語り継がれた金竜の英雄の誕生のお話。

 最後までお読み頂きありがとうございます!


 竜頭蛇尾と申しますか尻つぼみと申しますか、「えっ終わり?」みたいな形で終わってしまい、大変お恥ずかしいお話にお付き合い下さいまして、誠にありがとうございます!

 人を惑わすが如く名前も容姿もころころと変わるラヴィーネさん。『エレムルス』と言う名前が覚えられず、書いている間もずーっとコピペしてました。書き終わった今でも覚えきれておりません(*´ω`*)イイオモイデ

 15話小休止の前後にもう少し面白解呪話を入れても良かったなと今更ながらに思ったり思わなかったり。

 いずれ思い付いたら番外編を追加していくかもしれません。


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