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27:呪いの正体 3/3

 ラヴィーネはどうにか自分の足で謁見する部屋まで歩いて行けた。

 ぎりぎりまで魔法で寝かされていた為、どうにか骨の檻本部に隣接城まで行く事が出来たが、帰りは歩いて戻れる自信が無かった。

 襟元を直した元老院が扉をノックすると、すぐさま部屋の中に待機していた警備兵が二人を招きいれる。

 部屋は正式な謁見の間では無いが、部屋の間取りはほぼ一緒だ。

 部屋の入り口から奥まで一直線に伸びる臙脂の絨毯。その一番奥は紗幕で仕切られ、紗幕の向こう側に王が座っているらしい。

 ラヴィーネ達が来ると聞いていた警備兵は、二人を部屋の奥へと促すが、やはりラヴィーネの角が気になるらしくしきりに冑の間からちらちらと横目で見てくる。 

 ラヴィーネは機嫌が良ければ満面の笑みで見返していただろうが、生憎今は魔力制御の首輪のせいで歩くのも精一杯。

 どうにか紗幕の手前まで来るや、ラヴィーネは大きく息を吐き出し項垂れてしまった。


「くははっ! 想像以上に似合う物だな。どれ、私の膝に座ってみよ」


 するすると滑るように紗幕が真ん中から割れ両脇に収まると、玉座に座る王はさも面白そうに手で顔を覆い笑う。


「……王様ってそう言う趣味の人なの?」


 ラヴィーネが声を上げたとたん、隣にいた元老院が笑みを浮かべその口を手で覆う。

 しかし、完全に不敬と見なされる発言をしたにも関わらず、相変わらず王は楽しそうに笑みを浮かべたままラヴィーネを見つめている。


「陛下、今ひと時だけ、エレムルスの枷を外しても宜しいでしょうか?」


 突然の元老院の進言に、王では無くラヴィーネが目を丸くする。

 確かに、ラヴィーネは逃げる気など無い。その意思表示のつもりで元老院に本当の名を告げたのだが、だからと言って、今ラヴィーネが王に危害を加えないという保証は何も無い。

 困惑するラヴィーネとは裏腹に、王は一度鼻を鳴らすと、手を上げ承諾の意を示す。

 するとすぐさま元老院はラヴィーネの首に手を伸ばすと、少しだけ枷を緩めてくれた。


「これで少しは魔法も使えるだろう。エレムルス、姿を変えなさい」


 少し楽になった首元を擦っていたラヴィーネは、何を言い出したのかと訝しげな表情で元老院を見返した。


「その姿のままでも良いのだが……。せっかくなら姿を変えた方が気分が良いだろう。ほら早く、女人の姿になるのは慣れているだろう?」


 少しだけ口角を上げた元老院に、ラヴィーネは乾いた笑い声を上げた。


「へぇ……? いつから知って……。まぁ良いか」


 元老院は目を細めるだけで詳細を語る気が無いと判断し、ラヴィーネは早々に女に姿を変えていく。

 それまで王は愉快そうに口元を緩ませるだけだったが、ラヴィーネの体がみるみる女になっていくのを目の当たりにし、初めて目を丸くした。

 その表情を見ただけで元老院が満足そうに笑うのを横目で見ていたラヴィーネは、いつも通り姿を変え終わると、そのまま言われた通り、足を広げて座る王の右足の上に腰掛けてしまった。

 王が硬直してるのを良い事に、もぞもぞと身動ぎし座りやすい場所を探すと、ようやく落ち着いたらしく、ラヴィーネは転ばないよう王の服の裾を握り締める。


「片足はちょっと不安定……玉座だからかな。魔力不足でふらふらなのもいけな……い……」


 少し緩めた所で、まだ強力な魔力制御の枷が首にはまった状態。

 そんな状態では姿を変えただけでも目の前が真っ白になる。

 一瞬意識を失いかけたラヴィーネだったが、すぐ王に支えられ倒れずに済んだ。

 しばしその様子を見守っていた元老院が、ラヴィーネを回収しようと手を伸ばすと、王が静かに笑いながらその手を払い除けた。


「骨の檻は敵の殲滅の為なら姿をも偽ると聞いてはいたが……くははは!」


 楽しそうにラヴィーネの髪を指先に巻き付けていた王は、そのままするりと下に手を滑らせ首輪に指をかける。


「……王! 今のエレムルスの状態では、それを完全に外してしまうと魔力が暴走する恐れがあります! せめて術を解いてからでないと……!」


 慌てて元老院が止めに入ると、王はほとほと残念そうに首輪から指を外す。

 

「竜の幼子よ、悠久の間姿を潜めていた金竜をよくぞ見付けた。そなたはこれより骨の檻ではなく、私の所有物である。一週間後、そなたを民草の前に晒す。民草の前で金竜を呼べ。そなたの声ならば金竜も聞き入れるだろう。私を『金竜の王』と、永遠に語り継がれるようにしておくれ、我が幼竜よ」


 ラヴィーネの緩く編み込んだ髪を引き抜きながら、王は睦言を語るようにラヴィーネの耳元でそっと言葉を落とす。

 半分意識を失いかけ、目を閉じていたラヴィーネだったが、相当不快だったらしく眉根を寄せゆっくりと目を開ける。

 そのままラヴィーネは王の胸を押し立ち上がり、元老院に手を伸ばす。

 誘われるように元老院がラヴィーネの手を取ると、ラヴィーネはそのままずるりと倒れ込んでしまった。

 

「……呼べない、よ……。八年、も……何……も……」

「エレムルス」


 ラヴィーネの首にはじわりと血が滲み始めている。

 元老院はラヴィーネの言葉を遮ると、強制的にラヴィーネの術を解除し男の姿に戻す。

 ラヴィーネが大きく息を吸い込むのを確認した元老院は、再び首輪を締め直した。

 床に座り込むラヴィーネを元老院が抱え上げると、王が顎をしゃくった。

 

「その幼竜は私が預かる」


 すると、それまで静かに控えていた警備兵が動き出し、困惑の表情で王を見上げる元老院の手からラヴィーネをとりあげる。

 僅かに抵抗するラヴィーネを無視し、紗幕の裏へと連れて行く警備兵を元老院が目で追っていると、王がすっと立ち上がった。


「出来るだけ願いは聞いてやるつもりだ。私にも懐いてくれればな」


 王はふっと自嘲気味に笑うと、元老院を一瞥し紗幕の奥へと消えていった。


*


「……何処に連れて行くつもり? 甲冑が痛いんだけど。男に横抱きにされる趣味は無い……と言うか、馴れ馴れしく障らないで欲しいんだけど」


 紗幕の脇の細い通路を進みながら、ラヴィーネが苦々しい声を上げる。

 ラヴィーネを抱えたまま歩みを止めず歩き続ける警備兵は、ちらりとラヴィーネに視線を落とした物の、すぐに正面に視線を戻してしまう。

 どうやら警備兵は何も話す気が無いらしいと判断したラヴィーネは、未だ動かない体を忌々しく思いながらも、警備兵の腕に頭をもたれた。

 すると警備兵の脇から手が伸びてくると、ラヴィーネは今度はその手に抱き上げられた。

 

「……ねぇ、これ外してくれない?」


 ラヴィーネは自身を抱え上げた人物――王を見上げながら、首輪を指差し目を細める。


「そうしてやりたいのは山々なのだが……私はか弱く、弱ったものを愛でるのを特に好む趣向でな。弱っているそなたの姿は美しいぞ。……先程元老院に約束をして来た。出来うる限りそなたの願いを聞いてやろう」


 ラヴィーネの髪を掬いながら話す王を見上げながら、ラヴィーネはほとほと呆れたように息を吐くと、そっと目を閉じた。

 

「私を元老院と引き離したのは間違いだと思うよ……。力の制御が出来なくなった時、私を殺せるのは元老院くらい……。元老院と骨の檻の、エマ。それと、騎士団中隊長の……ルーファス。ルー……」


 薄れゆく意識の中で、ラヴィーネはルーファスを思い出しふと笑みを浮かべた。


「骨の檻のエマと、騎士団のルーファスだな。ではその二人をそなたの側に置いてやろう」


 自身の腕の中で小さく寝息を立てるラヴィーネの顔を覗き込みながら、王は満足そうに笑うと、再び歩き出した。

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