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24:ルーファスとエマの決意

「もう少し髪を伸ばしたら魔力も安定するんじゃない? あと、さっきからルーファスは何してるの? 暑苦しいったら」


 エマは膝に乗せた箱からマロングラッセを一つ摘まみ上げながら、木の側で素振りをするルーファスをぼんやりと眺めている。


「髪ねぇ。邪魔臭くてもう伸ばしたくないんだよね。ルーは……何してるんだろう。朝突然押し掛けて来たと思ったら、ひたすら素振りしてるんだよ。鍛錬場でやれば良いのに。前から思ってたけど、中隊長って暇なのかな?」


 エマの隣に腰を下ろしていたラヴィーネは、髪を三つ編みにしながら呆れたようにそうこぼす。


 三人は以前、ラヴィーネが魔力の制御の練習の為使っていた山小屋に来ている。

 ラヴィーネとエマは元々今日昼から会う約束をしていたが、ルーファスは突如ふらりと訪れると、一人で黙々と木に向かい練習用の模造刀を振り下ろしている。

 朝から剣を振り続け、もう日は中天を越えたというのに一切休憩を挟まない。

 一度着ていた上着を脱ぎ捨てた以外、黙々と同じ調子で剣を振り続けるルーファスに、ラヴィーネもようよう気味の悪さを覚えて来た頃だった。

 ラヴィーネの話を聞いたエマは、何を思ったのかマロングラッセの箱をラヴィーネに押し付けると、立ち上がりふらふらとルーファスに近付いて行く。

 つられる様にラヴィーネも立ち上がりエマの後を追って行くと、突如エマはいくつか水の球を作り出すと、ルーファス目掛け放った。

 絶句するラヴィーネをよそに、水の球を打ち込まれたルーファス本人はなんの苦も無く簡単に全て避けて見せた。

 

「ねぇ、いきなりどうしたのか知らないけど、訓練するなら付き合ってあげるわよ? 一人じゃ限界があるでしょ。ラヴィーネはルーファスに甘いし、今はポンコツだから練習でも攻撃魔法は使わないだろうし。それに、ラヴィーネじゃなくても、現役の骨の檻が相手なら騎士団中隊長様も文句は無いでしょ?」

 

 手の甲で顎の汗を拭ったルーファスは、自身ありげに腰に手をあて笑みを浮かべるエマに視線を移すと、にやりと獣じみた笑みを浮かべ剣を構えなおした。

 

「エマかー、ちょっと物足りないかもしれないな。自分だってまだ魔力が安定せずポンコツの癖に、よく言うよ」

 

 すっかりやる気の二人は、じりじりと距離をとりながらお互い牽制を始める。

 色々と出遅れたラヴィーネがそわそわと二人の様子を伺っていると、二人は離れろと言わんばかりにラヴィーネを睨みつける。

 もうどうにも二人を止められそうに無いと判断したラヴィーネは、二人の言う通り少し離れたところに腰を降ろした。

 

 *

 

 遠慮無く剣と魔法を打ち合う二人を眺めながら、ラヴィーネは暇そうに髪を結い直す。

 二人が手合わせをはじめ、かれこれ三時間は経っただろうか。

 日も傾きそろそろ森の奥へを消えようとしていた。

 周囲はエマの放った炎で焦げ、散乱した水の球はあちこちで水溜りを作っている。

 朝から剣を振るっていたルーファスの体力も化け物じみているが、三時間力を抑えたまま魔法を打ち続け、騎士団の中隊長の相手をしているエマも、なかなかに化け物と言える。

 しかし、さすがに二人共疲労の色が見え始め、お互いに攻撃が雑になり始めていた。

 流れ弾を避けながら、そろそろかとラヴィーネは重い腰を上げると、二人に近付き短く詠唱する。

 すると大きく何かが弾けた様な音が響き渡ると同時に、二人の体が光の輪に拘束された。

 

「二人とも今日はおしまーい。今更だけど、私の山小屋に来ておいて私を放置ってなかなかだよね」

 

 ラヴィーネは宙に浮かんだままきょとんと見下ろしてくる二人にそう言うと、鼻歌交じりに人差し指を山小屋の方に向ける。

 するとゆっくりと二人を拘束している輪が動き出したのだが、どうにも制御しきれないらしく突如急加速し、二人は見事山小屋の屋根の上に落っことされてしまった。

 慌ててラヴィーネも二人を追って浮き上がるも、これまた制御しきれず急上昇し、小屋の上で慌てるルーファスの上に落下した。

 

「うぁ、体が軋むー……」

「ちょっと、そんな簡単な魔法も駄目なの!?」

 

 エマが頭を抱えるラヴィーネの手をとると、ほんの初級の魔法だと言うのに指先には血が滲んでいる。

 小さ傷なので進行はしないが、念の為呪いが進行する前にエマが治癒魔法で治すも、エマとルーファスはラヴィーネの服をまくり変化が無いか調べ始めた。

 

「ちょっと! そんなかすり傷で進行しないから!」

「折角お前を守れるように鍛えてるのに、自分から傷作ってたら意味無いだろうが!」

 

 ラヴィーネの背中をめくっていたルーファスがそう叫ぶと、ラヴィーネとエマは口を開けたまま動きを止めた。

 すると自分でも分かったのか、ルーファスはしまったと顔を背けると、屋根の上から飛び降りる。

 しかし、すぐさまエマが魔法で拘束すると、気まずそうに視線を反らしながら二人の元に戻って来た。

 

「ルー、今物凄く気持ち悪……いや、あのー。随分心配をかけちゃってるみたい……?」

 

 気を使って言葉を選ぶラヴィーネだが、隣に居るエマは思いっきり顔を顰め蔑むような目をルーファスに向けている。

 ルーファスは小さく唸り声を上げたものの、諦めたのか、渋々と言った具合に口を開いた。

 

「今後はラズを頼れない所か、もう元老院の目も誤魔化せ無い様な状況だから、何かあった時俺くらいしかラズを守ってやれないなと思って……。あぁ、もう! 早く降ろせよエマ!」

 

 限界になったのか、ルーファスは顔を真っ赤にすると持っていた剣を振り回す。

 ルーファスが話している時から既に笑いが堪えきれていなかったエマは、笑転げながら剣をかわすも、そのまま笑い崩れてしまった。

 

「魔法も使えないのに元老院から守るって……! ルーファス正義感強すぎっ! はーっ……もう、元老院は私がどうにかするから、ルーファスはそれ以外をお願いね。……ぷっはははは!」

「二人の中では、私を守る事が決定してるんだね……」

 

 声が出ない程笑うエマと、拘束から逃れたものの羞恥でその場に崩れ落ちるルーファスに囲まれて、ラヴィーネは不服そうに声を上げる。

 日常生活は問題ないが、今まで当たり前のように使って来た魔法を使いたくても使えない状況。

 さすがに自分の方が強いなどと力を誇示する程若くは無いが、一方的に守ってもらうだけと言うのはどうにもしっくり来ないらしく、ラヴィーネは眉根を寄せたまま押し黙ってしまった。

 

「でも、実際に最近元老院は骨の檻本部を空ける事が多いの。何してるか分からないけど、ずっとラヴィーネを連れ戻す事しか考えて無いから、きっと面倒事よ」

 

 ようやく顔を上げたエマは先程までとは一変し、真面目な顔でルーファスにそう告げる。

 しかし、急に真剣になる二人に挟まれつつも、ラヴィーネは何処か他人事のように暢気な声を上げた。

 

「連れ戻されても今は本当に魔法が使えないし。むしろ堂々と出来る気がするけどね」

 

 するとエマは深いため息をつくと、二人の首根っこを掴み下へと飛び降りる。

 そのままラヴィーネの手からマロングラッセの箱を受け取ると、エマはラヴィーネの額に指を突き立てる。

 

「元老院はあんたの呪いを解いてまた現役復帰させたいのよ。あのじじい、この八年ずっとラヴィーネの呪いについて情報を集めてたんだから。原因もよく分からない呪いだけど、下手に触れたら悪化しちゃうでしょ?」

 

 ラヴィーネの額を小突きながら一息に言い切ったエマは、山小屋に背中を預けるとそのまますとんと座り込み、マロングラッセを頬張り始めた。

 額を撫でながら箱に手を伸ばすラヴィーネを眺めながら、ルーファスはエマがラヴィーネの呪いの詳細を知らない事に、今更ながらに驚いていた。

 確かに以前ラヴィーネの呪いを説明してくれたが、それは本当にさわりだけ。

 というより、エマもラヴィーネの呪いは小型飛竜ワイバーンのものと思い込んでいるらしい。

 その為今更詮索しよう等とも思いつかないのだろう。

 ルーファスも竜種の呪いとしか聞いていなかったが、ふと先日ヨルが『天災級の呪い』『天災級の祝福』と言っていた事を思い出した。

 しかし口を開きかけたが、エマとマロングラッセを取り合う姿を見た瞬間、エマの前で言ってはいけ無い事なのだろうと口を閉ざす。

 エマの精神的な弱さを知るラヴィーネは、エマにあまりの呪いの事は話したくないのだろうし、エマもそっけない態度ながらもラヴィーネの古傷をえぐるような事はしないはず。

 ルーファスはエマが居ない時にでもその事について聞いてみようと一人納得すると、マロングラッセ争奪戦に参戦した。

 

 しかし翌日、骨の檻本部にラヴィーネの姿があった。

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