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15:小休止

 ラヴィーネが目を覚ますと、視界には見慣れた木の梁と、毎度引っかかる忌々しい飾りのれんが飛び込んで来た。

 洗い立てのふんわりした布団に包まれ、再び目を閉じようとうとうととしだすと、どこからか口論するような声が聞こえてくる。

 寝そべったまま声のする方に意識を向けると、少し開いた扉の向こうで、エマとルーファスが何やら言い合っているのが見て取れた。


「天災級を相手に、良く死者が出なかったって褒めて欲しいくらいだよ!」

「何でそんなところにラヴィーネを連れて行ったの!? あれ程怪我をさせちゃ駄目だって言っておいたのに! 死者が出なかったですって? 魔法使い達が軒並み呪いを貰っておいて良くそんな事が言えるわね!?」


 二人の口論を聞きつつ、ラヴィーネは何故自分が寝ていたのか思い出した。

 ゆっくりと体を起こしたラヴィーネだったが、頭に走った痛みに思わず顔を顰め呻き声を上げた。

 痛みの走った場所、両方の角に触れると、そこには緩い弧を描く角では無く、大きく捻れた角が新たに生えていた。

 そう言えば眠りに落ちる前、自分で角を砕いたのを思い出すと、ラヴィーネは顔や腕を触り他に変化が無いか確かめる。

 特に他には変化が無かったのを確認し安堵のため息をつくと、起き上がろうと体に力を入れる。

 しかし、まだ体力が戻っていないのか、すぐにベッドに転がってしまった。


「ルー……エマー……。起きたよー」


 放っておけば掴み合いの喧嘩でも始めそうな二人に声をかけるだけかけ、ラヴィーネはベッドの上で身動ぎする。

 すると血相を欠いて二人は部屋に駆け込んで来るや、ラヴィーネの顔色や角、体を確認し始めた。


「なんなの二人揃って。もう何とも無いから。エマは当たり前のように男の寝室に上がり込むんじゃないよ」

「丸一日寝込んでた人は黙ってなさい!」


 ラヴィーネが不満そうに声を上げるも、すぐさまエマに顎を掴まれ口を塞がれる。

 ラヴィーネが黙ったのを確認したエマは、何やら魔法を使いラヴィーネの体を調べ出す。

 それが何なのか分かったのか、ラヴィーネは再び眉根を寄せると、エマの魔法を片手で握りつぶしてしまった。


「そんなしっかり視なくても、変化したのは角だけだよ。そんな事よりもルー、何か甘い物食べたい」

 

 魔法を潰され多少苦しかったのか、顔を顰めるエマの頭を無造作に撫でると、ラヴィーネは自身を後ろから支えるように座っていたルーファスに視線を向ける。

 するとルーファスはラヴィーネの体をエマに預けるや、一度部屋を出て行くとこの前買ったマカロンを持って戻って来た。

 嬉しそうにマカロンに手を伸ばし頬張るラヴィーネを、二人は心配そうに遠巻きに見つめていた。


「あの後トレントはどうなったの?」


 ふと思い出したようにラヴィーネが二人の方を向くと、二人は一瞬驚いたように体をすくめると、ため息をつきベッドに倒れ込んでしまった。


 ルーファスの話だと、呪いの元凶であるトレントの切り株とドリアード達が消滅した事で、新たな呪いが生まれる事は無かったが、残った魔法使い達だけでその処理をするのは難しかったらしい。

 そもそも派遣された魔法使い達の力では森を焼き切る事が出来ず、半分程鎮静化させた辺りで全ての魔法使いが呪いを受け倒れてしまった。

 幸いにも、元凶が無くなり呪いの力も弱まっていたお陰で命は助かったが、殆どの魔法使いは復帰するのに何年も治療を要するのが現状だと言う。

 唯一力の使い過ぎで眠ってしまったラヴィーネのみが、ほぼ無傷の状態で生還したと言う事だ。

 同行していた騎士達はあまり深くまで潜っていなかったので、何無くを得たが、それでももう二度とトレントとは戦いたくないと口を揃えて言う。

 

「じゃあエマが残りを焼いてくれたの? 海竜の鎮静化をしてたんじゃ無いの?」

「骨の檻から連絡を受けて、すぐにこの店に転移したのよ。……森の後始末をしたのは私じゃ無いわ、元老院よ」


 ラヴィーネはエマが差し出したコースターに視線を落とす。

 それはラヴィーネが普段使っている物だが、裏面にはびっしりと転移魔法の法陣が刻み込まれている。

 有事の際にいつでも駆けつけれるようにと、エマがこっそり忍ばせていたのだ。

 ラヴィーネは顔を上げエマを見つめると、ため息をつきベッドに横たわってしまった。


「元老院も、集めた魔法使いの力量が分かってたなら始めから自分でやれば良いのに。エマ、分かってると思うけど、ルーを責めるのはお門違いだよ」


 寝返りを打ったラヴィーネはエマの頭を優しく数回撫でると、もう一つマカロンを手に取る。

 どうにも困惑の表情を浮かべるルーファスを見上げたエマは、今にも泣き出しそうな顔で顔を伏せてしまった。


 普段裏方に徹する元老院だが、骨の檻を統べるだけあってその実力は骨の檻随一と言える。

 本当ならば研究員や駐在魔法使いなどに依頼を出さなくとも、遠方に居る骨の檻を待たずとも、元老院が動けば全て収まる事だった。

 しかし元老院が表立って魔法を使う事はない。

 元老院は基本的に骨の檻に指示を出し、才能ある人間を拾い上げる事しかしない。

 時折教会や国からセレモニーや何らかの形で魔法を披露しろとお達しがある場合のみ使用し、それ以外は今回のように魔法使いが壊滅状態に陥った時のみ手を出す


 ルーファスはやはり自分の判断が間違っていたのだと自分を責め続けると同時に、天災級が相手だったから仕方が無いと言う思いの間で揺れていた。

 すると寝そべりながらマカロンを咥えていたラヴィーネがそのままの体勢で固まるや、小さくルーファスを手招きする。

 ぼんやりとしていたルーファスが呼ばれるがまま体を乗り出すと、ラヴィーネは何の躊躇いも無く人差し指をルーファスの眉間に突き立て、そのまま弧を描く様に指を動かし始めた。


「ルー、その顔をすると人相最悪だね。騎士どころか犯罪者に近いよ……。ほらエマ、ちょっと見て見なよ」


 ラヴィーネがぐいぐいとエマの肩を揺らすと、エマはのろのろと顔を上げルーファスを見つめる。

 すると徐々にエマの顔に笑みが戻るや、今度はたまらず肩を揺らして笑い出すと、再びベッドに突っ伏してしまった。

 肩を揺らして笑う二人の姿に、ルーファスも徐々に体の力が抜けていき、ついにはつられるように乾いた笑い声を上げていた。


「はー……。伯爵の一件で当分遊べるだけのお金も舞い込んで来たし、この機会に仕事休んで、ちょっとゆっくりしようかな」


 毛先を指先でくるりと弄びながら、ラヴィーネはどこか遠くに投げかけるように呟いた。

 エマもルーファスもその時はその意見に賛同し、また遊びに来ると言いその日は帰ったが、翌日から二人がラヴィーネの元を訪ねると、ラヴィーネは二人を避けるかのように、姿をくらませてしまった。

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