居待月 流星群と欠け往く月
毎年お盆時期に肉眼で充分観測可能な、ある有名な天体ショーがあるのを知ってるか?
――そう。ペルセウス座流星群だな。
数ある流星群の中でも安定した活動するもので、毎年の八月十二日の夜中から十三日の明け方ごろと、その前後2日の同じ時間帯に、その名の通りペルセウス座から放射される流星の群れ。
幻想的で迫力すらあるその光景を。俺は十五年前、A市のとある高台で目の当たりにしたんだ。
「ほんとにすごかったよ。真夜中を過ぎててすごく眠かったけど、見た瞬間にそんなのなんか吹き飛んだもの。天の川がはっきり見えるほどの満天の星空にもびっくりしたけど。
流れ星たちがね、そのあちこちを次から次へとひゅんひゅん飛んでくんだ。まるで、森の中を駆けて散らばっていくリスたちみたいに――ってこれは、あの場所を教えてくれた僕の伯父さんの言葉なんだけどね」
その時の様子を、時折りはにかみながら嬉々として話ていた俺が、ルナにはものすごく輝いて見えたんだそうだ。
「その伯父さんにね。こんなことも教えてもらったよ。――ねえ璃那姉ちゃん。月が一番きれいに見えるのは、いつだと思う?」
「そりゃあ、満月でしょう?」
「うん、そう思うよね。普通は。でも伯父さんは、こう教えてくれたんだ」
その時の言葉は、俺がずっと心に刻み付けていようと決めた言葉で、今でもしっかり残っている言葉だ。
それは、十六夜の月だ。満月になった後の、次の夜の月。
この月は、ただ欠けていくだけの月だと思うか? ――それは違うぞ?
この月はな、確かに欠けていく。
だがそれは、ただ欠けていくわけじゃない。また満ちるために欠けていくんだ。わかるか?
「また満ちるために欠ける……また満ちるために、か……いい表現だね」
「うん。僕が星空と月、その中でも特に十六夜の月を大好きになったのは、それからだよ」
「そっか。そうだったんだ。それで、なんだね……」
「うん……」
それからしばらくの間。
『テレパス』のやり取りをするでもなく。
俺たちは無言だった。
ただ黙って、十八夜の静寂を楽しんでいた。
その耳を、曖昧な欠け具合の月の輝きと、その周りに申しなさそうに散らばる星たちの瞬きに傾けるようにして。