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居待月 告白

      ○


 ここまでのことを、ルナは十八夜月の下で俺に打ち明けてくれた。

 前日の十七夜に俺が気絶してた時、ルナが持っていたもうひとつの“力”である、俗に言う『テレキネシス』を使って俺を貯水槽のとこまで運んだ事まで含めて。

 そしてそのあとの俺の反応に、本当に驚いていたよ。

      

「…………」

「…………と、智クン?」

 ルナの、『盗聴』していたことに対する謝罪を含んだ告白を。

 俺は無表情のまま、ただ黙って聞いていた。

 このときルナは、俺の『声』を聴こうとはせず、ただその顔色を窺うようにして声を掛けたんだそうだ。

「…………」

「…………と、智くーん」

 それでもなお無表情で無言なままの俺にルナは、恐る恐るといった感じでもう一度呼び掛けてきた。

「……璃那姉ちゃん」

「は、はい?」

 やはり無表情なまま、ようやく口を開いた俺に。

 非難を浴びせられることを予想してか、ルナは体を強張らせて次の言葉を待ってた。

「……あ――――」

「――ああっほんとにごめんなさいっ! こんな力を持ってるからとは言え人の心を盗み聴きなんてこんな……

って。――え?」

 ついに非難が浴びせられたかと思ったんだろうな。ルナはもう土下座でもしそうな勢いで謝罪の言葉を並べ立ててたよ。

 でも。

「い、今……なんて言ったの?」

 そのとき俺が口にしたのは非難じゃなくて――

「ありがとう。って、言ったんだよ」

 ルナ曰く、この時きょとんとしてそう尋ねるルナに向けた俺の顔には、この夜の月明かりのような、穏やかな笑みだけがあったんだそうだ。

「!」

 ルナは一瞬、どきっとしてた。でもすぐに。

「ど、どうしてっ? 何でお礼を言うの? アタシは智クンの――」

 感謝を告げられた理由がどうにも理解出来なかったらしく、疑問を口にした途中で。

「「――心を盗み聴きしたのに」」

「え!?」

 その続きに、俺はぴったり声を重ねた。

 ある程度親しい仲になれば、相手の次の言葉を予測するのはそう難しいことじゃないよな?

 けど、それを口に出すタイミングまで見計らって声を合わせるなんて芸当は、普通は出来やしない。

 普通は、な。 

「はい。これでお相子だよね?」

「と、智クン……いま……」

 いたずらをしでかした後の子供のような感じに笑いながら言う俺に、ルナは瞳を驚きに震えた瞳で、こう問いていた。


 ――智クンも、『テレパス』が使えるの?――


 それを首だけで肯定して、俺は言葉を次いだ。

 その言葉は、ルナをさらに驚かせる内容だった。

「正直に言うね。――僕、けっこう前からこのチカラに気付いてたよ。と言うか……気付かされた、のかな」

「気付かされた?」

「うん。今から四年……ううん、五年くらい前かな。いきなり頭の中に、直接人の声がひびいたんだ」

「五年ってことは……四歳のころにもう『テレパス』を?」

 ルナは呆けたような表情で、うわ言のような声を出した。

「うん。でもその時は保育園にいて、ちょうどお昼寝の時間だったからね。てっきり夢の中での事だと思ってた。だから、しばらくは気にしてなかったんだ。でもよく考えたら、あの時は僕ひとりだけ眠れなかったんだよね」

「…………」

 しっかりとルナの瞳を見つめて過去を語る俺を。

 ルナはなぜか眩しそうに、真っ直ぐ見つめていた。

「そのことに気付いてからは……璃那姉ちゃん同じだよ。うるさくてうるさくてしょうがなかったし、嫌だった。僕ってばあちゃん子でさ、近くの家に同い年の子がほとんど居なかったせいもあって、外に出て遊ぶ事をしない子供になっちゃった」

 実のところ、近所に俺と同年代の子供がまったく居ないわけでは無かった。

 けど俺の住んでいる所は田舎町で、加えて自宅は郊外にあり、周辺の八割は田畑だ。近所といっても隣接してるわけじゃなく、近くて百数十メートル。中には一キロ以上離れている家もある。

 元来インドア派だった俺が、そんな距離にある家に遊びに行く気力を持ち合わせているわけは無いだろ?

 そんな状況にあった俺の中に、降って涌いたように『テレパス』能力があらわれ、他人の心の声がひっきりなしに聴こえてくるようになったんだ。

 別に、聴きたくもないのに。

 俺はそれでますます家に閉じこもり、人との接触を極力避けるような子供になってしまった。

 そしてついには、心まで閉ざすまでに至った。

「それでもね? その間に、大好きな事も見つけた……んじゃないや。教えてもらったんだ」

「教えてもらった? もしかしてそれが……これ?」

 言いながら、ルナは自分の正面斜め上を指さした。

 そこにぽっかりと浮かぶのは、満月と下弦のちょうど中間の月と、その明りに安心して眠っている星たち。

 俺はルナに笑ってうなずいて、その視線を空へ馳せた。

「うん。三年前の夏休みだったよ。僕の家と、家族ぐるみで付き合っていた近所の家とで、

A市に旅行に行ったんだ。――知ってる? そこの別名」

「うん? んーと……あ、わかった。これでしょ?」

「「星の降る里」」

 俺たちは声を重ねてそれを言って、互いに笑い合った。

「そう。そこでね? 雨みたいに降ってくる星を見たんだ」

 

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