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吸血鬼の出来損ない。・・・の弟。  作者: コケコッコー
2/2

絵本が大好きな吸血鬼、の弟。

 森を抜け、街への道を歩く。

 太陽をなるべく避けるため遠回りしたからだろう、街へ着いた時には八時になってしまった。

 いや、夜になって来てもいいんだけどねぇ・・・。

 人間は昼に活動するし、なにより新鮮なままの果物や野菜を売り出したいという買い手の要望だ。

 お世話になっている人だし、そこら辺は要望に応えないと。


 街に入り、買い手が営んでいる店へ足を進める。

 心無しかいつもより人が多いような気がする、故に真っ黒な姿の俺は相当目立つ。視線が痛いとはまさにこの事。

 悪い事をした訳でもないのに、フードを更に深く被った。


 吸血鬼というものは美形が多い。

 人間を惑わすには、美男美女の方がやりやすいからである。中には平凡な顔のやつも居るが・・・。

 弟の俺が言うのもなんだが、姉は吸血鬼の中でも一等美人だ。

 父親も美形だったし、母親も絶世の美女と謳われた吸血鬼。

 俺も美形な方だとは思う・・・そう思いたい。


 次に吸血鬼が出すフォルモンというものがある。

 これもまた、人間を惑わすために使う吸血鬼の武器だ。血を吸うためには、自分に惚れて貰った方が話しが早い。

 女の吸血鬼は男を惑わし、男の吸血鬼は女を惑わす。

 例えそれが・・・故意ではなくとも。


「あ、あの!」


 目の前に現れたのは、手を胸の前で組みながら上目使いしてくる人間の女性だった。

 いきなり話しかけられたので驚きながらも、返答する。


「あの、冒険者の方ですか?」

「いいえ、違いますよ」

「え!?」


 なんだ、魔法使いの冒険者だとでも思われていたのか。


「では、失礼します」


 お辞儀をしてから彼女の横を通り過ぎる。

 何か言いたそうな視線でこちらを見ていたが、最終的には俺を引き留めることはなく、小さな舌打ちが聞こえた。

 怖い、人間の女性怖い。

 早く家に帰ろう、早く家に帰って、元気な姉を見ながらブレークタイムと洒落込みたい・・・。


 少し早足で道を歩く。すると、目的の店がはっきりと見えてきた。

 接客しているのは一人の少女で、買い手の娘だろうと判断する。よく働く娘さんだ。

 客足が引けたところで、少女に声を掛けた。


「こんにちは、親父さん居る?」

「え・・・あ!リオさん、こんにちは!ちょっと待っててくださいねっ」


 少女はパタパタと、駆け足で店の奥へと消えていった。

 はぁ、癒される・・・。さっきの女性よりか何倍も可愛い。やっぱ子供は元気でなくっちゃ、子供は風の子元気な子ってね。

 一応言っておくが、俺は決して幼女趣味ではない。ただ元気に駆け回る子供達を見てほのぼのとするのが好きなだけでありまして。

 ・・・でも、血貰うんだったら、子供の方がドロドロしてて美味しいよね。なんちゃってー。

 おや、なにやら寒気を感じるぞ?見てこの鳥肌。


「リオさん!お父さんが中に入ってこいって言ってますよ!」

「あぁ・・・ありがとう、お邪魔させて貰うね」

「はいっ」


 店の中に入り、先程少女が走っていった先の方へと足を進める。

 すると現れたのは、椅子の上で胡座をかいている中年の親父。

 その親父さんに手招きされたので、彼の座っている椅子とは反対側の椅子を借りて俺も座らせてもらう。

 後は俺と親父さんの間にある机に、どかりと商品の入ったリュックを置かせてもらった。


「お疲れさん、リオ。今日は日差しが強いが大丈夫か?」

「ダメ。なるべく日陰歩いて来たけど、今にも焼け死にそう・・・」


 今日は一段と日差しが強かった。森に住んでいるアンデット族も木漏れ日を恐れて、洞窟などに隠れてしまうほどの強い日差し。

 被っていたフードを取り、頬を人差し指と中指で触れれば、ざらりと小さな音が鳴る。

 そんな俺を見かねたのだろうか、親父さんが俺の前に一つのパックを差し出してきた。

 中には赤色の液体。吸血パックだ。


「貰っていいの?」

「だから出してきたんだろうがよ」

「わーい、親父さん大好き!」

「驚くほどの棒読みだな」


 まったく、可愛げがねぇよ。

 そんな親父さんの言葉を聞きながら、パックの蓋を開け中身を吸って栄養を蓄える。

 男の吸血鬼に可愛さを求めてどうするんだ。

 吸血パックの口を歯で噛みながら、リュックの中身を机に出す。

 果物に野菜、薬草にキノコ。あらゆる物を机に出して親父さんに今回の商品を見せる。今日は大量であるため親父さんも嬉しそうだ。


「おぉ、新鮮なやつばっかじゃねーか」

「それだけが売りだからねぇ」

「何言ってんだ、森の奥深くにあるやつは栄養たっぷり。しかもエルフの加護付きって言えば美味しいもん間違いなしだからな」


 商品を手に取りながら歓喜の声を上げる親父さん。喜んで貰えたら何よりだ。

 これはエルフにお土産を持っていかないとかな・・・。この間持っていったハチミツ味の飴が好評だったから、それを帰りに買っていこう。

 買い物リストに甘いお菓子が入った瓶を思い浮かべ、入れておく。

 さて、親父さんの鑑定が終わったらしい。

 平民にも関わらず算術を使える親父さんはかなりの凄腕。更にどんな商品が品質的に良いか悪いか、その区別がつく親父さんだからこそ俺はここへ商品を売っている。

 詰まる所、親父さんを信用しているのだ。


「うぅぬ、この値段でどうだ?」

「・・・これは驚いた。結構高く買うんだねぇ」


 紙に書かれた値段を見て、驚きの声を上げる。

 品質的には良いだろうが品数がない。そのためもっと安くなるだろうと踏んでいたが・・・。

 まぁ、お金があることに越したことはない。・・・けれど。


「もっと安くていいよ、どうせあまり使わないし」

「いいのか?お前、金は生きていく上で大事なんだぞ」

「まぁまぁ、この店への投資かな。余ったお金とかで娘さんに何か買ってあげなよ」


 店の手伝いとかしてて、ろくに遊びに行ってないんでしょ。

 そう言えば図星だったようで、親父さんは苦々しい顔をしてからにかりと笑い「ありがとよ」と感謝の言葉を口にした。

 俺はこちらこそと一言告げてから、咥えていた吸血パックを親父さんの前でヒラヒラと揺らして見せる。

 要するに、恩を着せて着せられての繰り返しなのだ、俺達は。


「んじゃ、これぐらいでいいか?」

「少ししか減らしてないね、まぁ親父さんがそれでいいなら」

「よし・・・待ってろ、今持ってくるからよ」


 親父さんはよっこらせと掛け声を掛けてから立ち上がり、さらに奥の部屋へと入っていった。

 ・・・そう言えば、親父さんの名前なんだっけ。

 ずっと親父さんって呼んでるから、忘れてしまったのだろう。

 でもまぁ、支障はないし、深く考えなくてもいいか。

 吸血パックの中身を勢いよく吸って中身を空にし、蓋を閉じてからリュックの中へ入れておく。

 すると、袋を持った親父さんが帰ってきた。


「ほれ」

「ん、ありがと」


 親父さんが袋を手渡してきたので、それを受け取りリュックの中へと入れる。

 これで売るのは終わったと・・・。


「お前な・・・金の確認くらいしろよ」

「え、親父さん騙す人なの?」

「戯け」

「だよね」


 だから大丈夫だよ。


「・・・信用してくれるのは嬉しい限りだが、信用しすぎるのも良くないからな」

「うん、分かった」


 素直に返事をすれば親父さんは小さな溜息を吐き、俺の頭を荒々しく撫でてきた。生き物の特有な温もりが伝わってくる。

 アンデット族には体温なんてないから、なんだか新鮮だ。

 ・・・さて、後は買い物をして帰るか。


「親父さん、前に買ったハチミツ味の飴ある?」

「あるぞ、買って帰るか?」

「うん、あとはこの紙に書いてある通りの物を用意して欲しいんだけど」

「・・・肉はどんなのをお好みだ」


 にやりと笑う親父さん。

 そう、俺と姉さんが食べる筈のない肉。それを買うということは、森の奴等にあげる物用だと言う事。


「親父さんの好みでいいよ、その方が・・・ルー・ガルー達も喜ぶでしょ」

「ハッ!ありがとよ、一番いい肉を用意するぜ」


 嬉しそうに笑いながら、表へ行ってしまう親父さん。

 ルー・ガルー、別名狼男。彼等は主に肉を食べて、森の奥で集団となり生活している。

 昔は単独で行動することが多かったが、今の世の中冒険者という人間の者達が溢れ出ているため単独では危険であると判断したのだろう。今は俺と姉さんが暮らしている森に、集団で生活していた。

 彼等は人間を追い払ってくれてるし・・・時々は挨拶に行かないとね。


 ちなみに、親父さんはルー・ガルーである。奥さんは人間らしいが・・・。

 肉食であるルー・ガルーが人間の築いた街に住むことは相当難しかっただろう。逆に人間である奥さんが危険で溢れている森の中で暮らすのも困難。

 親父さんがどれだけ苦労したかは、俺には分からない。

 だた分かるのは・・・


 愛の力は偉大だ・・・ということだけである。

 親父さん男前すぎ、格好いいわぁ。

 噂では領主を誠意だけで説得したとか・・・簡単に出来ない事をやってのける親父さん。

 そこに痺れる憧れるー!


 だからだ。

 愛する、人間の女性に命を賭けた親父さんだから、信用出来るんだ。

 ・・・俺の父親とは、大違い。

 なんて、俺の父親と親父さんを比べたら悪いか。違う個体なんだから仕方がない。

 うちはうち、他所は他所だ。


 とにかく結論は、親父さんかっけぇという事だけである。


「おーいリオ、こっちこい!」


 突然、親父さんに名前を呼ばれた。

 なんだなんだと行ってみれば、親父さんの両手には絵本がそれぞれ握られていた。

 表紙から察するに、女の子用の絵本だろう。


「買った」

「まだ何も言ってねぇだろ、お姉さんにどうかと思ってな」


 エミリィの好きな本なんだ。

 そう言って娘さんを親指で指す親父さん、娘さんはエミリィという名前なのか・・・まぁ、頭の隅にでも置いておく。

 しかし絵本か、姉さんはそういうの大好きだからな。買っておけば読むだろう。

 と言う訳で購入。


「ほれ、頼まれた商品だ。これは確認しろよ?」

「了解了解~、ありがと親父さん」


 中身を一通り確認してからリュックに詰め込み、リュックを背負う。

 表に出れば娘さんが親父さんと話している姿が見えた。微笑ましくなって思わず口元を緩めれば、娘さんが目をまん丸くさせて俺を見る。

 なんだ、その化け物を見たような顔は。


「おいリオ、お前一応・・・なんだからな?」


 親父さんの言葉に、納得してしまう。

 大きい声では言えないが、俺は吸血鬼、それを忘れてはいけない。

 ・・・ということは、無意識に吸血鬼フォルモンを出していたのか・・・。それに娘さんがびっくりしたと。


「ごめんね、驚かしちゃったね」

「い、いえ・・・」

「あぁ、親父さん、これ商品のお金」

「まいど」


 渡したお金をそのままポケットへ仕舞い込む親父さん。

 その行動に少しだけ怒りを感じた。


「ちょっと・・・俺には確認しろとか言った癖に」

「信用してんだよ」

「はぁ?・・・どの口が言ってるんだか」


 苦笑いしながらも、親父さんの横を通り過ぎた。

 さぁて、まだお天道様は美しいお(かんばせ)を披露している。

 焼かれないように顔を隠さねばと深くフードを被り、後ろから聞こえてくる親父さんと娘さんの声に手を軽く上げ横に振るった。


 ここは人間達の笑顔が眩しくて敵わないから、太陽が眩しくて息が詰まるから。

 早く退散してしまおう。

 森には大切な仲間達が待っているし・・・。

 家には絵本が大好きな吸血鬼が待っているから。


「急ぎ足で、帰ろうか」

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