サハラ放浪団
「よし、じゃあまずこの団体の説明をしようか。」
一瞬、嫌われてるんじゃないかと不安になった自己紹介が終わり、イシカはそう切り出した。
「まず、俺達はサハラ放浪団という『目になんらかの能力を持っている奴ら』が集まる団体だ。そして、俺はここの団長だ。」
「サハラ放浪団…。」
目の…能力。
「俺達は、その『目の能力』を使って人助けやたまに舞い込む依頼をこなしている。探し物から誘拐事件などの解決などなど、なんでもありだ。」
「ゆ、誘拐事件!?そういうのって普通警察に任せない?危険だし…。」
「警察に言うな、と脅してくる犯人もいるだろ?そういう場合だ。まあ、滅多に無いけどな。」
俺達のことを知ってる奴なんて数人だしな、とリーフが付け加える。それにしても、そんな重大なことをこんな人達に任せていいのだろうか…。
「しかも、ほとんどが俺達が勝手に首突っ込んでるだけだ。」
「なるほど。」
リーフの言葉で合点がいく…。けれど…
「それはそれでどうかと思う。」
自分から危ないことに首を突っ込むなんて…。
「ほっとけないものでな。」
苦笑いするイシカ。
「さて、話を戻そうか。さっきも言った通り俺達にはそれぞれ『目の能力』がある。それがどういうものか…まあ、今更必要無いと思うが…見せようと思う。」
そう言って立ち上がるイシカとリーフ。
「能力を、見せてくれるのはリーフさんだ。俺のは、ちょっと分かりづらくてな。」
「俺のも、回数制限があるからこんなことで使うのは勿体ないけど。」
そう言いながらも、イシカの方を向くリーフ。
そして、リーフの目が赤く光りだす。
「『目を移す』」
その瞬間、目の前からイシカの姿が消えた。
「え…?」
何があったのか分からなかった。ただ、リーフがその言葉を呟いただけなのに、一瞬でイシカの姿が消えた。
リーフの方を見てみると、平然としている。目の色は、元の青色に戻っていた。
「驚いた?」
「わっ!」
突然、後ろからイシカの声がした。慌てて振り返る。そこにはどや顔をしたイシカがいた。
「今のが、リーフさんの能力。『目を移す』だ。目を合わせた人、または物を自分の知ってる場所にならどこにでも飛ばすことができる。3回だけね。それ以上使うとリーフさん、寝込んじゃうから。」
そう言いながら、ソファーに座り直すイシカ。
そして次の言葉を聞いた瞬間、私はここに来てからの一番の衝撃を受けた。
「まあ、今更驚くことじゃないか。だってユキヒナも『目の能力』持ってるんだから。」
バレてる?なんで?
確かに私も『目の能力』とイシカ達が言っている物は持ってる。けれど私はそれをずっと隠していたのに…。人前では一切使ったことないのに…。
「なんで知ってるの。」
「うちの団員の中には能力者だけにしか通じない能力もあって、それを使ったさいに君が反応したからさ。」
全く身に覚えがない。
私が頭にはてなマークを浮かべているとイシカは「最近、いきなり脳に直接、声が入ってくること無かったか?」と付け足した。
そういえば、商店街を歩いているとき何処からか声がして…。なぜかその声は、たくさんの音が聞こえる商店街でもはっきり聞こえて、てっきり私に話しかけられたんだと思って振り返った時があった。もちろん、誰も私になんて話しかけてなかった。振り返っても誰も立ち止まらず、ただ私の横を歩いていくだけだった。
「もしかして、商店街での…。」
「そうそう。人混みの中で能力使った途端に、前の方にいる君が振り向いて不思議そうな顔をしてたから、もしかしてと思って。それから、何度か試しにその能力を使って見たんだけど、どれも反応したしね。」
「まさか、教室で授業中寝てたらいきなり「ユキヒナ、この問題を答えてみなさい。」って聞こえて、慌てて立ち上がったのに先生は何も言ってなかったのも…。」
「あー、詳しくは知らないけど…たぶんそうだ。」
思わずため息がでた。勘弁してほしい。
「ごめんごめん。そんなことしてたとは思わなくて。」
「とても恥ずかしかったんだよ…。もういいけど。」
「後で本人にも言っておくよ…。それはともかく、そんな『目の能力』を持ってる君にサハラ放浪団に加入してもらいたい。」
いきなり表情を変えてキラキラした目で言うイシカ。話の流れでそう言われることは予想してたけど…。どうしようかな。入ってもいいけど、話を聞くかぎり危ないこともあるみたいだし、まず人と接するのが苦手な私に務まるのかも分からない。
「『目の能力』についても、なぜ俺達にこんなものがあるのか、それを解明していくつもりだ。ユキヒナも、『目の能力』のことを細かく知ってるわけじゃないだろ?不安だってあるはずだ。」
確かに不安はある。正直、自分の目を他と違ってかっこいいと思ってる反面、怖いとも思ってる。急に使えるようになったんだから、また急に何か起こってもおかしくない。
「どうだ、ユキヒナ。俺達の仲間にならないか?」
イシカが優しい声で問いかける。けれど、その目は何かを決意したような目で、軽々しく危険なこともするかもしれない団にいれようとしてるんじゃないことが分かった。
だから私も決意した。
静かに、しっかりと頷く。
イシカの顔が嬉しそうな顔に変わる。
「そうかそうか!良かった。断られたらどうしようかと。」
「よくまあ、こんな怪しい団体に入ろうと…。」
なぜか団員であるはずのリーフが呆れたように呟く。
「ええ、リーフさんひどいなー。怪しくないよねユキヒナ。」
「怪しい。」
「ええ!?じゃあなんで入ろうと思ってくれたの?」
なんでだろう…。リーフの能力を見て少しでも信憑性が持てたから?それともイシカがあまりに真剣だったから?
ううん。ただ面白そうだったんだ。仲間ができることが嬉しかったんだ。
「なんでだろうね。」
けどそれは言わない。まだ不安だから。
いつか不安が安心に変わるまで。
そうなることを願って。
「では、ユキヒナ。今日から君は、サハラ放浪団の一員だ!これからよろしくな。」
「こちらこそよろしくね!イシカ団長。」