期待
どれくらい歩いただろう。
後ろを振り返る。広がっているのは、ただの闇。
学校の裏にあるこの森は、それほど広くないはずなのに歩いた道のりは、暗闇への恐怖のせいかとても長く感じられた。
「まだつかないの?」
再び前を向き、私より数歩前にいるイシカに問いかける。
「もう少しだよ。」
そう言って歩みを止めないイシカ。歩き慣れているかのように楽々と登っていく。握ったら折れてしまいそうな程細い体のわりに、体力はあるのだろうか。私は普段、運動なんてしないせいでもう息を切らしてしまっている。
しぶしぶついていく。こんなところに置いていかれるのも嫌だし。
ああ、こんなことなら保健室から出なければよかった…。
森に入ってから数十分。もう体力は限界だった。
立ち止まり、膝に手をつく。
「大丈夫かー?」
もう既に私より数十歩前にいるイシカが、こちらを懐中電灯で照らしながら叫ぶ。
返す気力もない。
「もう着くはずなんだが…。あ、ほら、見えた!」
その声に反応して、私も顔を上げる。イシカの懐中電灯が照らす先を見ると、うっすらと暗闇の中に家が見える。
家…?森の中に?なんで?
そしてなんでイシカはその家を知ってるの?
っていうか学校から出ることが目的だったんじゃ…。
色々思考が巡ったが、そんな私をよそにイシカはどんどん前へ進んでいく。こんなところに置いていかれるのはやっぱり嫌だからついていくしかなくて…。
それに今はとにかく休みたかった…。
その家は、レンガ造りの家で全体的に赤っぽかった。大きさは…暗くてよく分からないがそこそこ大きいみたいだ。
「さて、ユキヒナ。ようこそ、我がアジトへ!」
「アジトって…一体なんのこと…。」
大袈裟にそう言ったイシカを見て、私は今更だけど不安になった。
「まあ、詳しいことは中で。…いきなり何も教えずこんなとこに連れてきて無理だろうけど信じてほしい。俺たちは君の味方だ。」
そう言って扉を開ける。イシカの目は、真っ直ぐに私を見ていた。
今更ここで何をしたって、どうしようもない。信じるしかないじゃない。
私は、開かれた扉の先へと進んだ。
家の中はとても不思議な空間だった。部屋の大きさは、学校の教室ぐらいだろうか。
家の外見とは違って、無機質なコンクリートの壁と床と天井。部屋の真ん中には、長方形の机が一つと、それを囲むように置かれたソファー。
入って右を見ると、キッチンがあった。そこだけはとても生活感が溢れていた。
他には左に棚があるぐらいで家具は何もない。
そして、この部屋で一番異様なのは、奥にあるたくさんの扉だった。
左右の壁に2つずつ、目の前に4つ、計8つ。
「変な家だろ?」
扉を閉め、部屋を見回してイシカが言う。
「さて、君をここに連れてきた理由と、ここがなんなのかを説明するために、ある人を呼んで来るから、ちょっとソファーに座って待っててくれないかな?」
そう言って、イシカは右から2番目の扉に入っていってしまった。
仕方がないので、私は言われた通り目の前のソファーに座って待つことにした。
この状況に、驚いてないわけじゃない。頭の中では、今も色々なことを考えている。
そのなかで私は、この状況に何か期待しているのだろう。
退屈な日常を変えてくれる、何かを。