外へ
職員室を離れ校門とは真逆の職員用玄関へ向かうイシカ。
職員用玄関と言っても、先生達もわざわざ裏から出るのがめんどくさいのか正面にある生徒用玄関を使っているため、滅多に使われることはなくなってしまった。そのためここの鍵はさびれて使い物にならない。簡単に開けることができるというわけだ。ほんと、無用心だと思う。
「ここの鍵、ちゃんと直さないとなー」
「別にいいんじゃない?」
「いやいや、教師たるもの生徒の安全は確保しないとな」
驚いた。ここに来る教師はみんな生徒のことなどどうでもいいやつばかりだったからだ。生徒の安全なんて初めて聞いた。
「…ほんとにここに来る先生?」
「え、俺なんか変なこと言った!?」
「いや、むしろ普通なのがおかしいというか」
私の言葉にイシカは首をかしげた。そういえばおかしいと言えば…
「そういえば、なんで一人称が俺なの?」
「っ!」
まさにギクッと言う効果音が聞こえてきそうなほど見え見えの反応。
「いや、それはー…そのー。癖で…」
おどおどしながら答えるイシカ。
「癖…?」
「うぅ…な、なんでもいいだろぉ…。それとも、かっこつけてるような感じがして…嫌か?」
まるで産まれたての子羊のように震えながら聞いてきた。別にかっこつけてるようには感じないし嫌でもないから私が正直に「ううん?」と答えると安心したように胸を撫で下ろした。
「ありがとう。まあ、それじゃあ行こうか」
そう言って微笑み外へと出ていくイシカ。その時の笑顔を私はなぜか前にも何処かで見たことがあるように思えた。とても安心する笑顔だった。
イシカの後を追い外へと出る。辺りは闇に包まれていて先が見えなかった。少し前に森の奥へと続く道があることは前に見たことがあるから分かるけどその道さえ見えなくて明かり無しで歩いていくのは無理だろう。
「暗い…」
「はい、懐中電灯」
パッと明かりが道を照らした。
「準備いいね…」
「探検には必須アイテムだろ?」
ドヤァと自慢げなイシカ。そこまですごいことじゃないんだけどなー。あえて何も言わない。
「さあ、行くぞ」
そうしてイシカが歩き出した方向は森の方。
「え、校門の方に行くんじゃないの!?」
「校門鍵空いてないぞ」
それはそうだけど…。だからと言って流石に夜の森に入ろうとは考えないよ。
目の前に広がる森はとても静かで言い表せない恐怖があった。闇に飲み込まれそのまま帰ってこれないんじゃないかと考えてしまうくらい。立ち止まって不安げな顔をしている私にイシカは自信満々に笑顔で
「任せろ!俺がついてる!」
と、言った。
ついていこう。少し冒険してみるのもいいかもしれない。
なぜかそんな考えが頭に浮かんだ。そうして私も一歩を踏み出す。
暗い何がいるか分からない夜の森に大きな恐怖と小さな好奇心を抱いて。