喰らう
「お見事。」
「あざす。」
笑顔で返すカズの目に先程の殺意は全く感じられない。まるで普通の少年のようだ。しかし、目の前に転がる動かなくなった人間達がその印象を歪めさせていた。
そしてなにより普通じゃないのは彼の腕だ。手首辺りまでは人より少し細いぐらいの白い腕だがそこから下が黒くゴツゴツしている。真っ黒な異形の何かがついている。銃…のようだが銃口以外の部分は歪に歪んでいる。きっと銃口以外の機能は彼には要らないからだろう。弾は体内で生成され腕をつたい銃にセットされる。彼が構えれば自動で安全装置は解除される。そして彼が『撃つ』と思えば弾は発射される。
無論、銃も弾も『食べなければ』作り出せないのだが。
「ところで、本当に死んでないのか?直撃したように見えたけど。」
男達を見下ろし言う。
「大丈夫大丈夫。マシュマロだから。」
「マシュマロ?」
よく見ると男達の周りにはピンク色の破片が散らばっている。
大きめの欠片を摘まんでみる。マシュマロにしては頑丈だ。引っ張ると伸びる。どこまでも、チーズのように、びよーん、と。
「伸びすぎィ!?」
「あー、強度を上げるためにゴムと配合したんでそれのせいっすね。」
ゴムと聞いて片手を話してみる。
バチンッ!
「いっ!?」
「な、なにやってんすか!?」
痛かった。めっちゃ痛かった。こんな勢いで戻るとは思わなかった。だってチーズみたいにトロッと伸びてたんだもん。そんな柔らかそうなマシュマロがゴムを最大にまで伸ばしたような勢いで縮むなんて聞いてない。痛い。当たった部分が赤くなってる。
「マシュマロなの?チーズなの?ゴムなの?弾丸なの?なんなの?」
「ゴリラだよ?」
「わけわかんねえよ!?」
本人さえ分かってない危険物質。そんなものをカズが作り出すことは日常茶飯事だ。彼が食べたものは体内で自由に配合ができ、また食べたもの、配合したものをからだの一部に組み込むことができる。それが彼の能力『目を喰らう』だ。彼の異名『暴食のカズ』はこの能力と彼の底無しの食欲からきている。ほっておいたら2階建の一軒家が丸々無くなってるぐらいにカズの胃袋には底がない。
「ちなみにそのマシュマロはキ○ィちゃんマシュマロチョコ味だよ。」
カズが腕を元に戻しながら言う。ほんの数秒後、異形の姿だった手は普通の人間の手に戻っていた。
「何の役に立つんだよ。その情報。」
「カズさんおすすめ美味しい御菓子。」
「今とっても危険だから後で教えて?」
「了解っす!」
さっきと同じ爽やかな笑顔だが一瞬黒い影が差したのはきっと練って美味しい魔法の御菓子を進める気だからだ。確か昔、その御菓子と何かを組み合わせて食べてたんだが…なんだっけ。とにかくヤバイものが出来上がっていたのは間違いない。好奇心で味見したユカリとマカイさんとリーフさんが悶絶してた気がする。そのあと無理矢理俺とエナクが食わされて…覚えているのはそこまでだった。…要は気絶したのだ。目が覚めた時、魔法の危険物質はカズが完食していた。恐ろしや。
…昔の夢に少し浸っていたい気もするが、そんな暇はない。
「…早くユキヒナを探さないと」
「あ、そうだそうだ。あの子が新人さん?」
「うん。全く、知らなかったとはいえ分かっただろ?見たことない子だって。新人の子を狙わないでくれ…。」
「イシカ狙うと避けないから」
「避けるよ!?」
「えー、なんか自分が動いて新人さんに当たったらって考えそう」
「だからって避ける以外に何があるんだよ」
「…『俺の胸に飛び込んでこい!』?」
「死ぬよ?俺死んじゃうよ?」
流石の俺でもそんな夢中はしない。
「…って、そんなことよりユキヒナを…!」
「見つけたぞ!」
声に驚き通路の奥を見る。そこには異常を察したのか数人の男達が奥の部屋から向かってきていた。
それぞれが様々な武器を持ち、俺達の倍以上の人数。
「あれ?やばくないっすか?」
カズが無表情でこちらを見る。
「やばい、ね。」
そして次の瞬間、俺達は同じ行動をとった。
出口に向かって地面を大きく蹴り、こう叫ぶ。
「「逃げろおおおお!!!!」」




