一つの想いが宿る世界 第五話 【追跡】
男性「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
少女「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
男性「た、助けて・・・」
少女「・・・・・・」
命乞いをする男性に少女は無言で銃口を向けた。
男性「脅されてるんだ・・・」
少女「・・・・・・」
男性「本当なんだ!」
少女「・・・・・・」
男性「妹が人質に取られてるんだよ!」
男性は目に涙を浮かべながら少女にそう訴えた。
男性「今回の計画も失敗に終わった・・・きっと妹は○される・・・」
少女「○されるって・・・誰に?」
男性「分かってるだろ!奴らだよ!お前が守ってるあいつを狙ってる奴らだ!」
少女「・・・・・・」
JCT捜査官「よーし、そこまでだ。」
男性「・・・・・・」
JCT捜査官「あの、すみません。ちょっとあなたに重要参考人として任意同行願いたいのですが。」
男性「・・・・・・」
その時男性は覚悟を決めた表情だった。
JCT捜査官「おい!連れてけ!」
JCT捜査官「と、それと・・・ニーナ。」
捜査官がそう叫ぶと、少女が振り向いた。
JCT捜査官「良くやってくれたな。」
捜査官がそう言った瞬間、少女の下腹部に捜査官の蹴りが入った。
少女「ゲホッ、ケホッ、ケホッ」
JCT捜査官「仕事初日でこのざまとはな!」
そう喋る間、捜査官は少女の腹部に何発も蹴りを放った。
JCT捜査官「お前なんか、あのまま○ねばよかったんだ。人権も無い奴が生きてる意味なんて無いんだよ!」
少女「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ」
JCT捜査官「本当だったらこの場で○してもいいんだ!」ドカッ
少女「・・・・・・」
少女は苦しそうにぐったりしている。
JCT捜査官「寝てんじゃねぇよ!家畜が勝手に寝ていいと思ってんのか?起きろこの野郎!」
そう言って捜査官は少女の胸倉を掴んだ。
「あ、あの・・・」
JCT捜査官「何ですか?」
「も、もうその辺で良いじゃないですか?」
JCT捜査官「どういう意味です?」
「か、彼女も仕事はこなしてましたし・・・」
JCT捜査官「仕事?どこが?こいつのせいであなたも○されるところだったんですよ?」
「い、いや、でも現にこうして生きてるわけですし。」
JCT捜査官「こいつの仕事は犯人逮捕でも捜査でもない。あなたの保護だ。こいつの今日やった行動は立派な服務規律違反だ。本来なら厳罰処分の対象となる行為です。だからこうして事の重大さを分からせてるんですよ。」
「で、でも・・・」
JCT捜査官「すみませんが、黙っててもらえませんか?立て家畜が!」ドカッ
恐らくこのとき僕は頭に血が上っていたのだろうか。気付いたら捜査官の腕を握っていた。
「やめてください。」
JCT捜査官「公務執行妨害で捕まりたいんですか?」
「すみませんが、僕の母親は警察で高等検察庁にも知り合いがたくさん居ます。あなたが今やってるのは立派な暴行罪です。それにあなたの今までの行動は全て記録させてもらいました。映像を提出されても良いんですか?」
JCT捜査官「あなたは何か勘違いをしているんですか?」
「どういうことです?」
JCT捜査官「まだ聞いてませんか?ま、彼女のことですからね。あなたに言っていないかもしれませんね。」
「・・・・・・」
JCT捜査官「それなら教えてあげますよ。彼女、幼少期からスラム街で育てって出生届を出されていないんですよ。」
「え?」
JCT捜査官「訴えることなんて当然出来ない。彼女は本来この世界には居ないはずの人間なんですからね。戸籍も住民票も存在しない。当然ですね、彼女が生まれた時は既に彼女の両親は居なかったんですから。それのせいで学校にも通えず教育を受けなかった結果がテロ組織に引き取られ、訳も分からずテロを実行しました。」
「・・・・・・」
JCT捜査官「本来だったら我々は感謝されるべきですよ。行き場の無い家畜は全員、兵器実験や薬物実験などに使われて○されるんですよ。しかし彼女だけは例外だ、テロを起こした時の身体能力を買われ、エリートが選抜されるはずの証人保護の警護員ですよ。」
「・・・・・・」
僕はこのとき捜査官の言ったことに自分の耳を疑うばかりだった。僕たちの生活が保障されてる裏側に彼女たちの存在があるということを、僕は今日まで知らなかったから。
JCT捜査官「引き上げるぞ!」
「え、あ、あの・・・彼女の腕の怪我は?」
JCT捜査官「あぁ、それですか?使い捨ての人権も持たない家畜をわざわざ税金で治療する必要ありますか?」
「・・・・・・」
僕は捜査官のその一言に言葉を失った。今日僕は知った。世界は僕が考えていたこと以上に残酷なのだと。その日僕は1人彼女を担いで大学を後にした。
中央高等検察庁・・・検察庁の特別捜査部が新時代になり独立した機関。業務内容は変わらず政治家汚職、大型脱税、経済事件等、警察では手に負えない案件の捜査を担当している。業務の特殊性から地方検察庁とは別組織として認知されている。