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第二章 出会いと波乱

 

 私は、ほしかった。


 ただ無性に、あの子がほしかっただけなんだ。


 たとえ世界中の誰もが私を嫌っても、


 彼女だけは私を好いていてほしい。


 そのために、私は…



・・・



 恵みの街『マーデンビリア』。交易が盛んなこの街には、大理石を主として建てられた「白金の城」と呼ばれる美しい城が存在する。普段は閉ざされている「白金の城」だが、年に一度だけその重々しい門が開かれ一般公開される日がある。その日が偶然にも、今日だった。街中がパレードでにぎわう活気づいたこの街は見ているだけでも微笑ましい。やはり夜神達も例外ではなく、お祭り騒ぎの雰囲気を堪能していた。


 「わぁ…!!すっごいにぎわってるね!!」


 「運が良かったみたいだな、どうやら今日は「白金の城」の門が解放される日みたいだ。」


 「へぇ…私は名前しか知らないけど「白金の城」ってそんなにすごいんですか?」


 「すごいというよりは…ミステリアスと称するべきかもしれませんね。あの城は長年無人で、誰も住んでいないにも関わらず、年に一度閉ざされた門が開いて、街中の皆を招き入れるのです。不思議なことに城自体は長年誰も住み着いていないにも関わらず、清潔さを保ったままらしいんですよ。だから、あの城には魔女が住んでいて、自分の存在をアピールするために年に一度門を開くとか、神が年に一度この地に降臨して、「白金の城」の美しさを世に知らしめるために門を開いているんだっていう根も葉もない噂が立っているほどなんですよ。実際にまだその謎は解明されてないんですけどね。」


 「そうなんだ!!確かにそれはミステリアスかも……さっすが晃さん!!博識だね!!」


 「神奈さんのためなら何でもお答えしますよ。」


 「…このロリコンが」


 「…何か言いました?玄武」


 一気に二人の間に険悪なムードが生まれる。このままではいけないと判断した夜神はさりげなく神奈の手を取って買い物メモを握らせてやりながら彼女に頼み込んだ。


 「悪い神奈、俺少し気になることができたから、そこの馬鹿二人を連れて買い物にいってほしい。余分に2000ハルツ入れておいたから屋台で何か買い物でもして来い。」


 「えっ!?2000ハルツもいらないよ!」


 「今日は奮発だ、これで息抜きでもしてろ…おい、馬鹿ども。」


 「「!!!」」


 「お前らと神奈は買い出し係だ、そのあと遊んでも構わねぇが夕暮れまでには宿に戻れ。いいか?神奈に傷を負わせたり、困らせるような事態を引き起こした場合、生きて帰れると思うなよ?」


 普段の夜神からは考えられないほどの微笑みに寒気を覚えた玄武と影山は、ただ只管首を縦に振った。夜神は二人の反応に満足したのか、どこか愉快そうに微笑むと、去り際に神奈の頭を軽くなでてやってから人混みに姿をくらませた。神奈は髪を撫でられたことに赤面になり、あたふたと落ち着かないような素振りをみせながら、二人に声をかけた。


 「さ……さっさと行きましょ!!!//////」


 ((顔を赤らめる神奈ちゃんまじ天使!!!!))


 先ほどまでの険悪ムードは夜神の脅しと神奈の可愛らしい姿のおかげで一気に吹っ飛んでしまったようだ。いつもの調子に戻った一行は楽しそうに雑談を交えながら、買い出しへと向かっていったのであった。


・・・


 三人が買い出しをする一方で、夜神は噂の「白金の城」を見に来ていた。城の全てが大理石でできている「白金の城」はとても綺麗だ。白を基調にしただけあってそのきらびやかさは一層際立つ。しかも、長年人が住んでいないと言われている割には、汚れがなく、むしろ清潔感が漂っていた。そこで夜神は改めて影山が言っていたことは真実だったのかと思いなおす。


 「きれいだが…どうもきな臭いな、それに雰囲気も怪しい。…何とか一般人のいない時間帯に侵入できればいいが…」


 いくら開門されているとはいえ、上層は立ち入り禁止区域なのか、階段があるであろう場所には鉄の柵が備え付けられており、侵入は非常に困難だった。先ほどから嫌な予感をひしひしと感じている夜神はどうすればいいのかと壁に凭れかかりながら思案する。しかし、そんな彼女の思考を強制的に振り払うような黄色い悲鳴が城に響き渡った。あまりの喧しさに夜神は思わず額に青筋を浮かべ、集中力を切らせてしまう。


 (うっせぇ!!!なんだよこの悲鳴、何が起こってるんだ!?)


 悲鳴がする中央の方に視線を向けてみればそこには白銀の甲冑を身にまとった一人の青年が、大勢の女性に取り囲まれているというなんとも言い難い光景が広がっていた。切れ長の目に、さらさらとした黒髪のストレート。一見細身に見えるが、どこか悠然としたオーラをまとっている。思わず、夜神もそのオーラに飲まれそうになり、無意識のうちに腰に下げた木刀に手を掛けるがそれを見逃すほど青年は甘くなかった。青年は何の感情も感じられない完璧な作り笑いを浮かべて、取り囲む女性にどいてもらうよう頼むと、足音をたてながら夜神の方へと近づいていく。


 (まずい…!!!)


 危険を感じた夜神はすぐさま逃走しようとするがその前に青年が隠し持っていたナイフを取り出して夜神の足元に投げつけた。足元に突き刺さったナイフに反射的に夜神は動きを止めてしまい、逃げ場を失ってしまう。これ以上はただの悪あがきにしかならないと判断した夜神は木刀をいつでも抜けるように準備をしながら青年に尋ねた。


 「ずいぶん女性に人気があるんだな。俺みたいな奴相手にするよりもそちらにいるご婦人方をお相手した方がいいんじゃないか?色男さん?」


 「嫉妬は見苦しいぞガキ、さっさとそのおもちゃの剣を片付けてこの城から去れ。さっきから不審な動きばかりでずっと気になってたんだよ。


 「…変な行動をした件については謝ろう。だが、やりたいことがあるからな。申し訳ねぇがその忠告は聞けねぇ。」


 「悪いが不審者を野放しにするほど俺は甘くない。そんな常識すらも分からないくらいガキなのか?」


 小馬鹿にするように鼻で笑う男に殺意を抱いたのは言うまでもない。確かに迂闊に不審な動きをしてしまった自身も悪い面があるが、それ以上に男の煽り文句に夜神の怒りは増幅した。そんな彼女の感情を感じ取った男はより一層笑みを深めながら問いかけた。


 「失敬、言葉が難しかったみたいだな。もっと簡単な言葉で言ってあげればよかったか。すまないな、ガキの相手はあまり得意んじゃないんだ。許してくれ。」


 この一言で、彼女の怒りの沸点が爆発した。


 「黙って聞いてればずいぶん言いたいだけ言いやがって…女に囲まれてきたすけこまし野郎が何をほざいていやがる。つーか簡単な言葉を思い浮かべられないほど言葉のボキャブラリーが少ないんだな。わりぃな、察してやれなくて。俺もむきになる必要がなかったみたいだ。」


 「…上等じゃないか。そこまで劣悪な思考を持つとかただのガキじゃねぇみたいだな。ママのところに帰ってもう一度言葉の勉強やり直して来いガキが。」


 「おあいにくさま。俺には目の前にいる女たらしみたいに時間を自由に使えるほど暇じゃないんで言葉遣いや思考はこのままです。つーかガキガキ言ってるが、そんなに年齢変わらないじゃねぇか。あんま威張ってくれるなよな。」


 「…へぇ、ただのガキだと思ったら、ずいぶんあれじゃねぇか。…これ以上の暴言は流石の俺も聞き流すことは出来ないが…どうする?」


 「奇遇だな、俺もこれ以上の暴言を聞き流せるほど出来た人間じゃない。」


 「それはそれは…悲しくて涙が出そうだ。こんなガキと同じこと考えてる自分にな。」


 「俺もだよ、こんな女たらしと思考が一緒な自分に嫌気がさすぜ。自分で自分の首を絞めたいくらいだ。」


 「「………」」


 先ほどまで黄色い声をあげていた女性も、のんびり祭りを楽しんでいた住民も、二人の間に流れている一触即発の空気を感じ取っているだろう。誰一人声をあげることなく二人を見守っていてた。互いに偽りの笑みを浮かべながら黒いオーラを出す二人の姿はもはや魔王を彷彿とさせるくらい恐ろしい。二人は互いに剣を抜刀すると互いの顔を見ながら、吐き捨てた。


 「ぶっとばしてやるよ!!!女たらし!」


 「吠え面かかせてやるよ、ガキ。」


 二人は同時に床を蹴ると。持っていた刀を相手の首元に狙いを定めた。


 「なっ…!?」


 「…ちっ!」


 お互い相手も同じ部位を狙っていることに気が付くと、すぐに刀の軌道を変えて相手の攻撃を受け止めた。何もかもシンクロした動きと太刀筋に夜神は苛立ちを覚える。


 「おい女たらし、真似すんな。」


 「それはこっちのセリフだ。」


      ガキィン


 幾度も二人の剣がぶつかり合う。しかし互いの技能が拮抗しているのか、一向に戦局が動く気配がない。男は少し大振りに剣をふるいわざとスキをつくろうとしても、罠と気付いている夜神は木刀でその攻撃を受け止める。流石の男もこれには苦い顔を浮かべるばかりである。


 「おい、なんだお前のその木刀は、なんで剣と拮抗して戦えるんだ。どんな材質しているんだそれは。」


 「わりぃが一応これは真剣並に斬れるぞ。」


 「へぇ、ぜひとも拝借したいものだな。」


 「残念ながら命あるかぎりそれは叶わねぇよ。命の次に大事な己の剣を誰が手放すか。」


 「じゃあお前を倒して合法的に奪えばいい話だ。」


 「なんだとこの野郎…!!」


 明らかに両者とも動く気配のない現状に苛立ちを覚えていた。凄まじく激しい剣舞に住民たちは身の危険を感じて後退をしていた。しかし、戦闘を繰り広げている二人はそんな些細なことは気にもとめず、フフフと不気味な笑い声をあげながら互いの剣をふるい続ける。


 「おらおら消えやがれ!!」


 「はっ!!んなひょろひょろ攻撃きくわけねぇだろ!!」


 「てめぇの攻撃こそ赤子並だぜ!!」


 「ガキのくせに強がるな。」


 夜神は一瞬にして間合いをとると、袖口から隠しナイフを取り出して、それを青年に向かって投げ放った。青年あきれたように肩をすくめ、軽々とそれを剣で弾き飛ばすがそれが夜神の狙いであった。


 「消えろ!!!」


 「なっ!?」


 青年がナイフに気を取られた隙に、夜神は瞬発力を生かして一気に間合いを詰めて木刀をふるった。これで終わりかと誰もが思ったが、そこまで青年は甘くなかった。青年は間一髪小手に仕込んであった短剣で木刀の攻撃を受け止めると舌なめずりをして呟いた。


 「いい作戦だ。久々にわくわくしてきたぜ。」


 「……癪だが俺もだ!!」


 夜神は力任せに木刀の攻撃を受け止めていた短剣を弾き飛ばすと、丸腰になった青年の首に刀を突きたてようとする。だが青年は体をのけぞらせることでそれを避けて、逆に夜神の腹に蹴りを入れた。


 「がはっ!?」


 まさかの反撃にひるんだ夜神の隙をついて、青年は距離をとり、再び剣を構えなおした。腹に蹴りを入れられ咳き込んでいた夜神は胸に手を当てながら、木刀を支えとしながら立ち上がると不敵な笑みをはりつけたまま青年に言い放った。


 「やるじゃねぇか。ここまで追い詰められるのはいつ以来かな…」


 「俺も、ここまで拮抗したバトルはなかなかなかったからな。楽しいぜ!!」


 「……行くぞ!!」


 「来い!!」


 テンションも最高潮に達している。


 観客が見守る中、二人が同時に走り出したその瞬間……


    ドカァァァァン


 戦いに水をさすような爆発音が響き渡った。





 

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