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序章 出会い

『命を捨てる覚悟があるなら俺についてこい』


それが私にとってのすべての始まりだった。




 夜神雄輝やがみゆうき白馬神奈はくばかんなが出会ったのは今から一年前のことである。当時、生まれた時から過保護すぎる両親に愛され、育てられてきた白馬神奈は、世界や人間の闇など全く知らない世間知らずに育った。本の中の世界と、自分の街の世界しか知らない彼女はとにかく好奇心旺盛で、なんでも知りたがる性格だったため、人を疑うなどの負の感情など持ち合わせていなかった。そんな純粋無垢すぎる気質に加えて、艶のある銀髪、トパーズを彷彿させる瞳、雪のように白く美しい肌とうりざね顔と誰もが振り返る美貌を併せ持つ彼女は、奴隷商人達の格好の的であった。


「離してください!!」


「うるせえ!こっちに来い!!」


「きゃあ!」


 ある日の夜間のことだ。家の敷地で星を眺めていた神奈の容姿に惹かれた一人の暴漢が神奈を連れ去ろうとしたのだ。好奇心が強く純粋無垢すぎる性格が災いし、男の誘いに乗った彼女だったが、敷地を離れたとたんに豹変したことに気付いてしまう。逃げようと必死で抵抗を試みる神奈だったが、男と女の腕力の差は歴然で、いくら神奈が暴れようとも男はびくともしなかった。それどころか男の拘束はさらに強まり、ぎちぎちと音がなるくらい強く締め付けられる。


「いたっ…!」


「おら!!ついてこい!」


 だんだん家から離れていくことに恐怖を覚えた神奈は、目尻に涙を浮かべた。どうしてこんなことになったのかと必死で思考を巡らせながら男に問いかけた。


「私をだましたんですか…?」


「だました?いや、外の世界に連れていくという約束は本当だぜ?ただし、商品として一役かってはもらうがなぁ!!!」


「……!!」


 相手の男が奴隷商人とわかり彼女は一層男に恐怖した。正常じゃなくなった思考の中、少女は身体をじたばたとさせながら逃げようともがき、無我夢中で大声をあげた。


「誰か…!!誰か助けてっ!!!」


「やかましいぞ!てめぇ!!」


 男は怒り、神奈を黙らせようと頬を殴りつけた。口の中に鉄錆の味が広がる。殴られたことで神奈は一瞬息を止めたが、それが引き金でさらにパニック状態を引き起こし、男の思惑とは反対に壊れた機械のように何度も何度も「助けて」の言葉を繰り返した。それに苛立ちを覚えた男は、神奈の胸倉をつかんで、至近距離で怒鳴りつけた。


「歯ぁ折られなきゃ気が済まねえらしいなぁ!!!!!」


「いやああああ!!!」


 男が高らかに神奈をつかんでいないもう片方の手を振り上げる。もうだめかと絶望した神奈は次に来る衝撃に備えてきつく目を閉じた……が…


「……?」


 いつまでたっても衝撃はやってこなかった。疑問に思った彼女は恐る恐る目を開けて、確かめようとしたが、突如浮遊感を感じ、そのまま地面にたたきつけられてしまう。どうやら男に投げ飛ばされたらしい。霞む視界の中、神奈は無我夢中になって男がいると思われる方に視線を向けた。


「……え?」


 神奈の視界が、男以外にもう一人、別の人物をとらえた。白のシャツと青い皮のズボンと、シンプルな服を身に着けた人物は、血のような赤い目を光らせ、男に木刀を向ける。どうやら男の仲間ではないらしい。そのことに安堵を覚えた神奈は鈍痛を覚えながらも立ち上がろうとする。男はそのことに気が付くが、目の前に佇む人物が邪魔でうまく身動きが取れなかった。


「てめぇ…何者だ?」


「はっ!下衆野郎に名乗る名前なんてねえよ。」


 心底愉快だと言わんばかりに謎の人物が笑う。その仕草に堪忍袋の緒が切れた男は、声をあらげて殴りかかる。


「……っ!危ない!」


 神奈が叫ぶ。しかし謎の人物はいまだに飄々とした態度を崩さないまま男を見据える。あと少し、男の拳が彼の人物の顔をとらえようとした…その時だった。


「隙だらけだぜ?」


ザシュッ


 木刀が、男の心臓を捉えた。ぽたぽたと血の雫が地面に落ちるのを見つめながら謎の人物は絶命した男に言い放った。


「よくもまぁ、今まで商人としてやってこれたなぁ?商品に簡単にてをあげるなんざ言語道断だ。そんな商人の基本中の基本すら知らねぇてめーに価値なんてない。苦しむことなく一瞬で死ねたことに感謝するんだな?」


 木刀を一気に引き抜くと、その返り血が目の前にいる人物に降りかかる。しかし、彼の人物はその血を見ると狂気的な笑みをたたえて、呟いた。


「綺麗な月は赤色がよく似合う…そう思わないか?そこの女」


「!」


「ずいぶん傷だらけになっちまたな、あの下衆野郎…。」


 謎の人物は乱雑に血を拭うと、未だに震えの止まらない彼女の頬を優しくなでながら小さな声で神奈に言い聞かせた。


「その傷、治療してやるから少しじっとしててくれ」


「…!」


 神奈は目の前の人物の目の色に目を奪われていた。男を殺したとき、赤く輝いてい彼の人の瞳はまるで血のようだった。しかし、今の眼は違う。ルビーを彷彿とさせる美しい色をしていた。同一の目とは思えないその美しさに、神奈は魅入ってしまった。だからだろうか。


「おい!!」


「ひゃあ!?」


 まさか呼ばれているとは知らず、つい神奈は変な声をあげてしまった。その声に呆気にとられていた人物だったが、やがて肩を震わせて笑い始めた。その行動に神奈はさらに恥ずかしくなってしまい、顔を真っ赤に染めて下に俯かせた。穴があったら入りたいと、思考を巡らせていたが不意に目の前の人物が背中を向けたことに気付いて声をあげた。


「待って!!!」


 震える足に叱咤して立ち上がると、いつのまにか神奈は反射的に声をかけていた。謎の人物はその呼びかけに対し、神奈の方を振り向くと目を細めて問いかけた。


「なんだ?」


「どうして、私を助けてくれたんですか?」


「……最初はやめようかって考えた。あんまりにも姑息な手段に引っかかっていたからむしろお前も望んでいるのかと思った。だが、あんだけ死にもの狂いに助けを求められちゃあ助けないわけにはいかない。流石に俺もそこまで鬼じゃないしな。」


「……」


 神奈は不意に男の死体に視線を向けた。元々醜悪な顔がさらに醜くゆがんで絶命している男の死体に吐き気を覚えたものの、すぐに視線をはずして目の前にいる人物に問いかけた。


「なぜこの人を殺したんですか?」


「あ?」


「…人を殺すなんて…!!」


「…ああ、そういうことか。」


 謎の人物は納得したようにうなづくと、再び血のような鈍い赤い瞳をたたえながら、あざ笑う。その豹変に神奈は怖気づくものの、必死で己を奮い立たせて、気丈な態度を崩さぬまま呟いた。


「何が…おかしいのよ。」


「いや、ずいぶん世間知らずな姫さんなんだなって思っただけだ。」


「え…?」


「いいか?お前が生きてきた世界は違ったみたいだが俺の生きてきた世界は違う。他者に疎まれ、だまされて…殺されそうになったら殺し返せ、そんな世界で俺は死にもの狂いで生きてきたんだ。」


 神奈には考えられない世界だった。他者から愛され続けた彼女は、そのような世界とははるかに縁遠い存在だった。言葉をうしなった彼女に、彼の人物は罰が悪そうな表情をうかべて言った。


「まあ、なんだ、その…お前が生きてきた世界はそんな世界と比べてひどく眩しいんだ。むしろこの世界にそのような世界はほんとに少ないだろうな。だからあまりよそ者を信用するな。さっきの奴だって、俺の生きている世界にはごまんと存在するからな?」


「そ…そんなに…。」


「ああ、だから少しは人を疑うことを覚えろ。…それじゃあな。」


 謎の人物は最後に神奈の頭を乱雑に撫でて、この場を去ろうと背を向ける。行ってしまったら二度と会えなくなる…そんな恐怖に突き動かされた神奈は、その人物のシャツをつかみ、大きな声で言い放った。


「私もあなたの旅についていく!!!」


「はぁ!!?」


「私は、本当の世界を知りたいの!!」


 神奈にとって、己が生きるこの街が世界だった。ゆえにほかの場所もこのように暖かい場所だと勝手に思い込んでいた。しかし、彼の人物の言葉でそれが偶像だと思い知らされた。ならば外の世界はどのような世界なのか。元来の好奇心が彼女をおおいに奮い立たせた。この人についていけば問題ない。神奈には絶対の確信があった。それにこのチャンスを逃してしまえば、二度と彼女は外の世界を見ることができなくなるかもしれない。神奈はそれが嫌だった。確かに神奈はこの街が好きだ。だが暖かすぎる空気に退屈を覚えていたのも事実だった。だからこそ彼女は決意した。この人についていこう。この人なら、嘘、偽りなく世界を見せてくれると。そんな彼女の申し出に彼の人は目を丸くしていたが、神奈が一歩も引く気がないらしく、強い瞳で夜神を見つめ返していた。しばし困惑の表情をうかべていた夜神だったが、神奈の目力に負けて彼女に問いかけた。


「俺の旅はつらいぜ?当然人を、生き物を、殺すことになる。」


「わかってます!」


「それに、汚い世界をたくさん見ることになる。箱入り娘のお前に耐えられるか?」


「…覚悟の上です。お願い恩人さん、私を連れてってください!」」


 負けた。彼の人物はやれやれと肩をすくめると両手をあげて神奈を見つめる。ルビーの色に戻った瞳に見つめられて、一瞬だけ神奈はその美しさに魅入られるがすぐに我に返って呟いた。


「だめ…ですか?」


「…名前は?」


「え?」


「いいから。」


「白馬…白馬神奈です。」


「いい名前だな。俺は夜神、夜神雄輝だ。」


 夜神と名乗った人物は少し笑みを浮かべると、顔をあげて空を見上げた。今にも流れ星が降ってきそうな空に神奈も感動を覚える。しばし幻想的な光景に魅入られた二人だったが、やがて夜神が神奈を視線にとらえたことでその穏やかな雰囲気は一気に張りつめた。神奈には夜神が何を考えているかわからなかった。祈るような気持ちで夜神の答えを待つ神奈。夜神はそんな神奈をじっと見据えていたがやがて微笑んで言葉を紡いだ。


「たく、お前みたいな破天荒な女、この旅に出てから初めて見たぜ。」


「え?」


「つくづくあいつに似ているやつ…まあいい。もう一度いうぜ。俺について来れば必然的に人を殺すことになるし、世界の醜さに嫌気をさすかもしれない。


………それでもお前は俺についてくるのか?」


「……!」


「……命を捨てる覚悟があるなら俺についてこい。」


 夜神はそのまま背を向けて歩き出した。好きにしろ、あとはお前が決めろ、そんな夜神の気持ちが背中越しから伝わってくる。…もしかしたら、二度と帰ってこれないかもしれない。二度と家族に会えないかもしれない。それでも、世界を知ることができるならと己に言い聞かせて、彼女は夜神に向かって駆けだしたのだった。


「さよなら、私の世界。」


 彼女が、世界と決別した瞬間だった。



 これが、全ての始まり。世間知らずのお嬢様が、女剣士のそばで見るであろう世界は果たしてどんなものになるのだろうか…



一応序章をあげてみました!果たして彼女達の冒険はどのような結末が待っているでしょうか…ぜひ楽しんで読んでいただけたらうれしいかぎりです。

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