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刺殺

謎の転校生の登場に、あまり広くない教室がピリッとした緊張の膜に包まれている。

その緊張の発信源は僕でもある。そして、その原因の彼女は――――


「……」


何も考えてないと言った無表情で僕達を眺めていた。


「それじゃあ、自己紹介をお願い」

「……狐ヶ崎美夜キツネガサキミヤです。よろしく……」


その声はとても小さくてとても聞き取りづらいものだった。

けれど……可愛い声だったなあ。


「それじゃあ、狐ヶ崎さんは久の隣の席に座ってちょうだい。あの空いている席ね」

「はい……」


え? 僕の隣の席?

た、確かに空いていた席は僕の席の隣だったけど……やっぱりそうだよね。う、嬉しい気もするけど、緊張する……


「ぼ、僕は張間久。よ、よろしく」


隣の席に着席した狐ヶ崎さんに小声で声をかける。

狐ヶ崎さんはそんな僕の顔をまじまじと見つめる……うっ、そんなに見られちゃ恥ずかしい。


「……よろしく、久」


いきなりの呼び捨てに面食らったけど、ちゃんと返してくれたし良しとするか。


それからいつも通り授業が始まり。給食を食べて。放課後になった。


いつも通り……そう。いつも通りだった。

転校生なんて居ないとでも言うように、いつも通りだった。


昔からの仲間ばかりだから、外からの人間に免疫がなかった。

別に嫌だとかそういう事ではない。みんな接し方を知らないのだ。頭の先から爪先まで知っている人とは違う。性別と容姿しか知らない様な人と会ったことが無いから、僕達にとって狐ヶ崎さんは恐怖だった。


だから僕達はいつも通りの事をした。みんな、本当は一緒にお喋りしたり遊びたいと思っているだろう。もちろん僕もだ。


けど勇気が足りなかった。一歩踏み出す勇気が……


気が付くと、狐ヶ崎さんは居なかった。きっと誰にも相手にされないからさっさと帰ってしまったのだろう。なんだかとても申し訳ない。


「狐ヶ崎さんの家……どこだろう?」


ふと、そんな事を考えた。


時間は午後の五時。まだ夕日も上がりきっていないし大丈夫だろう。

そうと決まればあとは行動あるのみ。机にかかっている鞄を勢い良く手にして、僕は教室を後にした。


無駄に広いグラウンドを走り抜けると、校門の近くに見慣れた顔の少女が居た。


「お兄ちゃん! 一緒に帰ろっ!」


未だに上機嫌な妹、奏がブンブンと手を振っていた。


「わ、悪い奏。これから用事があって一緒に帰れないんだ」

「えー」


明らかに不機嫌になった。全く、さっきまであんなに上機嫌だった癖に今じゃむーっと頬を膨らませている。


「ごめんよ。明日なら一緒に帰れるから。ね?」

「むー……はあ。分かった。じゃあ早く帰ってきてね!」


どうにか納得くれたらしく、奏は一人でかえりみちを歩き始めた。ごめんよ、奏。


そう広い村じゃ無いから、家なんてすぐに見つかると思ったけど。これが予想以上に大変だった。


「色んな人に聞いてみたけど誰も知らないってどういうことだ?」


誰も引っ越しがあったなんて知らないの一言だった。まさか……山の方か?


山の方にも家が無いわけではない。けれどその家とは小さな小屋。あとは生い茂った木とばかりだ。

あり得ないと思った。けれど、僕は諦めたくなかった。あの不思議な雰囲気の少女。狐ヶ崎さんとちゃんとお話がしたかった。


夕日が空から村を照らしている。けれど、今僕が歩いている山に繋がる道は日を拒絶するかの如く薄暗い。


人気の無い。静まり返った道を歩く。とても薄気味悪く、今すぐにでも出そうな雰囲気だ。


「確か、ここで人が倒れたとか言ってたな」


不意に朝の話を思い出す……いや大丈夫だ。あんなの気のせいさ。みんなこの雰囲気のせいで勘違いしただけさ。


黙々と歩く。夕日が沈む前までに家に帰らないと母さんに怒られてしまう。


ガサ……ガサ……


「え? 今、何か音が――――」


瞬間。背中に違和感を感じた。何かが背中に触れる。鋭い刃物が何本も……


血の臭いが鼻をくすぐる。それが自分から流れた物だと納得した頃には、僕の意識はどこかに飛んでいっていた――――



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