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光のもとで外伝  作者: 葉野りるは
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誕生日プレゼント Side 高崎葵 01話

「光のもとで」主人公翠葉の兄、蒼樹の高校時代のお話しを、高崎葵視点で書いたものです。

 中間考査明けの本日。俺、高崎葵たかさきあおいは今日も朝っぱらからよく走り、よく跳び、がんばりました。

 あと半月もしたら梅雨だなぁ……なんて思いながら部室を出た。

 隣には同じクラスで同じ部活の御園生蒼樹が並んで歩いてる。

「今日の午後から雨だっけ?」

 不意に訊かれた問いに、俺は朝見た天気予報を思い出す。

「確かそう。弟も傘がどーのって言ってた気がする」

「じゃ、部活終わるの早いよな」

 珍しい、この部活大好き男が。

「何かあるん?」

「帰りに誕生日プレゼント買いに行こうと思って」

 誕プレ?

 この男、確かクラスの女子に彼女はいないと答えていたはず……。

「何、女?」

 訊くと、

「そうだな」

 と、優しい目をした。

 その表情のみで確信した俺はある意味すごいかもしれない。

「わかった……それ以上言わなくていい」

「いや、言わせろよっ!」

「どーせ、また妹のことだろー?」

「ま、そうなんだけどさ」

 インテリ系の整った顔をくしゃりと崩す。こんな顔をするときは、たいてい七つ下の妹のことを考えてるようなヤツ。

 ほかは普通なんだけど、どうにもこうにもそこだけが規格外。

 俺にも八つ下の弟がいるけれど、やっぱ、妹と弟って違うもんなのかなぁ……?

 あぁ、俺もかわいい妹が欲しかった。憎たらしいのじゃなくて、あくまでも“かわいい”妹。

 こんなこと言ってると弟の空太そらたが拗ねるけど……。

 蒼樹はかわいいかわいいと妹を絶賛するが、実物はおろか、写真すら見せてはくれない。

「そんなに可愛いなら見せろよー」と、幼稚舎から一緒の鈴代環すずしろたまきが何度も絡んだが、その度に「もったいなくて見せられない」って笑うんだ。

 実は外見はそんなかわいくないとか? もしくは完全なる身内目って線もある。――が、

「悪いけど、うちの妹、超美少女だから」

 とか言い切るし、挙句の果てには、

「天使みたいにかわいい」

 なんて形容を用いる始末だ。

 “天使みたいにかわいい”ってなんだよ。そんな人間めったにお目にかかれないだろ? いるんならぜひとも拝ませてほしい。

 まだ小さいから純真無垢っていう意味ならアリかもしれないけど、最近の小学生ってえっらい口達者だはませガキだはで、俺の手にはあり余るんだけど……。

 ま、なんていうか……妹が絡むとホント変なヤツ。


 教室に着くと、教科書や参考書を広げている人間が多数いる。俺にとってはこんな光景珍しくもなんともないわけだけど、蒼樹は「毎日が試験日みたいな光景」って言ってたっけ。

 どうやら、公立の学校は休憩時間に世間話をしたり体を軽く動かしたりするものらしい。うちの学校は授業の最初に必ず小テストがあるため、それに備えるのが普通。廊下を歩く人影もまばらだ。

 ところ違えば習慣も違うものなんだな……と思った一瞬だった。


 五月の席替えで蒼樹を真ん中に席が前後になった俺と環は自然と三人でつるむようになったわけだけど、何を隠そう蒼樹は学年主席で入学してきた稀有な人間。入学式の答辞で知らない人間の名前を耳にするとは思ってもみなかった。絶対に環だと思ってたから。

 環は中等部から成績首位を誰にも譲ったことがない。だから、環の名前が呼ばれることを信じて疑わなかったし、まさか外部生が成績上トップになるとは思いもしなかった。

 最初は環がどう出るか少し心配していた。もともと素行に問題のあるタイプじゃないけど、こいつだってプライドはあるだろうし、まさか答辞のお役目を掻っ攫われるとは思ってなかっただろうから。

 新入生代表プラス秋斗先輩直々に生徒会に来いと推薦された。このふたつが揃えば蒼樹が時の人になるのは安易に予想ができたけど、当の本人はそんなことを全く鼻にかけるタイプではなく、むしろ気づいてないのか!? と突っ込みたくなるくらいの無関心ぷり。

 そのせいか、中等部持ち上がりが多いクラスや部活にもあっという間に馴染んでしまった。決して自分のペースは崩さないくせに、順応力は高いときたもんだ。

 さて、その男が机の上に広げてるのは一枚のパンフレット。

 渋い……渋すぎる……。なんで“箸”のパンフレットなんだ……。

 パンフレットには素材に拘っていなければ何に拘ってるんだ……というような、一見して何の変哲もないものばかりが載っていて、隅の方に「お名前を入れることも可能です」の添え書きもある。

 確か“妹の誕生日プレゼント”のはずなんだけど、これはどう見ても年配向けだろう。

 敬老の日はまだ遠いし、近いといったら父の日か?

「何? 父の日のプレゼント?」

「……さっき妹のプレゼントって言ったと思うんだけど」

 ――ちょっと待て。

 こいつの妹は七つ下。つまりは小学四年生ではなかろうか……。

 そんな子にこんな渋い箸っ!? なしだろっ!? 却下っ、今すぐ却下っっ、即刻却下っっっ!

 あらぶる気持ちを少し落ち着け、

「なぁなぁ……小四って言ったらさ、ぬいぐるみとかヘアアクセサリーとか、そういうもののほうがいいんじゃないの?」

 俺は一般論を述べてみた。しかし、返ってきた言葉はまたしても奇妙なものだった。

「妹さ、ご飯食べるの苦手なんだわ」

「は?」

 悪い。それだけじゃ俺ちょっと理解できないっぽい。

 そんな俺の表情を察した蒼樹は、

「んー……とくに深い意味があるわけじゃないんだけど……」

 と、少し考えてからこう付け足した。

「要するに、食が細いんだよ」

 数秒間思考停止。数秒後には思い切りフル稼働。

 えぇと、えぇと、えぇと――がんばれ、俺っっっ。

 ――つまり、『食べるのが苦手=食が細い』でいいのか?

「……で、なんで箸?」

 ナゾ過ぎるだろ…………!?

「食事のときに好きなアイテムが一緒だったら少しは楽しく食べられるんじゃないかと思って」

「だったら茶碗とかマグカップとかスプーンとか……ほかにも選択肢はいくらでもあると思うんだけど。いや、別に箸でも構わないけどさ、ソレ、渋すぎやしませんか?」

 俺は蒼樹が見ているパンフレットの商品を見て言ったつもりなんだけど、どうやらこいつは“箸”そのものを言われていると勘違いしたようだ。

「食器は基本家族で揃えてあるし、さすがに小学生中学年にもなってスプーンはね」

 と、苦笑しつつも嬉しそうに話す。

「ついでに言うならマグカップは去年プレゼントしたんだ。耐熱ガラスでできたティースプーンもセットで」

「で、今年は箸と……」

「そっ! どうせなら翠葉すいはの好きなものがいいなぁ……と思ってさ」

 こいつの開いているパンフレットには箸以外のものは載っていない。しかも素材が紫檀とか栗の木とか書いてあるんだけど――俺の目がおかしいのか!?

 それとも、七歳年下の妹はこういうのが趣味なのか!? “マイ箸”ブームに乗ってるとか!?

「これかなぁ……ってものは目星つけたからあとは実際店に行ってみるかな。なんか名前とか入れてもらえるみたいだし」

 そこでひとつ思い出したことがある。

「なぁ、お前、自分の誕生日どうすんの?」

 こいつの誕生日を知りたがった女は数知れず。訊かれると、蒼樹は嫌そうにするでもなんでもなく、普通に「五月三十日」と答えていた。

 つまりは一週間後なわけだけど……。

「どうするも何も、家族で祝うのが毎年恒例だけど?」

「はっ!? 冗談だろ!? 高校男児が何言ってんだよっ!」

 激しい突っ込みを入れたのは俺じゃない。蒼樹の後ろの席に座って一連の会話を聞いていたらしい環だ。

「いや、冗談でもなんでもなくて……。うち、俺と妹の誕生日が三日違いなんだよ」

 だからなんだ……と言いたい。

「だから、プレゼント交換というか、プレゼントもらうのは誕生日当日なんだけどケーキ食べるのは三十一日って決まってんの。その三日間はたいてい家族で過ごすよ?」

 そう、さらりと答える。それがさも当たり前のように……。

 家にいてどーすんだ……? と訊きたかったが、それ以上のことを環が訊いた。

「お前、彼女できたらどうするわけ?」

「今のところどうするつもりもないけど……? そのときになったらなったでなんとかなるでしょ」

 あまりにも楽観的すぎる返事に、「ならねぇよ……」と俺と環の意見は一致する。――が、口にすることはなく、視線だけの突っ込みとなった。

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