2話 魔獣
どうしようもない。諦めるしかない。死を覚悟した大人達の言葉を、リアンは受け入れることができなかった。
今年十五になり、村の外で魔物も何匹か仕留めることが出来た。剣の腕も、そこそこには自信が持てるようになってきた。
そんな彼だからこそ、他の村人達が絶望にしか囚われない理由も痛い程に分かってはいるのだ。あの魔獣達相手では、自分では何もできないと。
だが、それでも彼は諦められない。このまま何もすることなく、村人全てが死ぬことなど、決して。
リアンの住む、キロンの村は今、絶望の中にあった。
その理由は二つある。今、この村に魔獣と呼ばれる化物どもが群れを為して向かってきているのだ。
魔獣とは、魔物の中でも一際強く恐ろしい獣達だ。彼らを仕留めるには、それこそ王国の騎士達の力が必要なほどだ。
その魔獣達が、隣村であるグランの村を壊滅させた。その村の生き残りが、この村に数名駆けこんできたのだ。
魔獣は人をつけ狙う。隣村の者達を喰らい尽した今、こちらにくるのは時間の問題だと。
ならば村人全員で、この村から離れて逃げるしかない。そう考え、王国の街へ避難しようとしたが、この地の領主より兵士を派遣され伝令された。
『王国の街へ魔獣を引き入れることは決して許さぬ。この地より逃げることは許さぬ』
すなわち、これは領主からの死刑宣告とも言えるメッセージだった。
お前達は、時間稼ぎの為に死ね、ということだ。この村を襲っている間に、街の守りを固める為だ。
これが伝えられた時、村人達は絶望するしかなかった。このまま待てば死、されど逃げようと王国に離反した民と見做され殺されるだろう。
行くも死、退くも死、ならどうすればいいのか。どうすれば希望は見えるのか。考えても考えても絶望に押し潰されるだけ。
それが村の現状であった。嘆く大人達に、リアンもまた何もできない。何も妙案が浮かばない。
けれど、諦めたくなかった。リアンはこの村で生まれ、この村で育ってきた。
この村には父がいる。母がいる。幼い妹もいる。失いたくないのだ。失いたくなどないのだ。
まだ十五であるリアンだが、死の恐怖は何度も体験している。魔物と戦い、傷ついたことだってある。血を流したことだってある。
怖い。怖い。怖い。恐怖はある。けれど、何もしないまま死にたくない。何もしないままみんなを死なせたくない。
だから、彼は意を決した。
戦おう。例え一人であっても、戦ってみせよう。
魔獣を一匹でも減らせば、希望は生まれるかもしれない。一匹でも仕留められれば、道が変わるかもしれない。
死ぬことになるだろう。自分は死ぬことになるだろう。けれども、他の皆は助かるかもしれない。
リアンは決意を胸に秘め、剣を片手に村を飛び出した。
向かう先は、隣村。死ぬことになるだろう。生きることは敵わないだろう。けれど、やるんだ。
「父さんを、母さんを、ミーナを、絶対に死なせたりなんかするもんか!
僕が、僕が、僕が村を守るんだ!絶対にみんなを、死なせたりなんかするもんか!」
吼えた。それで恐怖が紛れる訳でもない。それで何が変わる訳でもない。
けれど、声に出すことで逃げ道を塞いだ。これでいい、これできっと自分は最後まで頑張れる。最後まで戦える。
その覚悟だけ出来たなら、それでいい。最後の決心を終え、獣達の待つ村へと駆け続けたその時であった。
隣村へ向かおうとする足を、リアンは意識せず止めてしまう。否、止めざるを得なかった。何故ならそこには――変態がいた。
「ふははははは!なんと澄んだ美しき空気!なんと眩しき大空の輝き!これが、これが私が数千年も恋焦がれた人間界か!
滾る、滾るわ!我が全身が喜びに満ち溢れて呼応しておるわ!」
道のど真ん中で、高笑いをする男がいた。その光景にリアンは言葉も出ない。出せない。
何故、彼は全裸なのだろうか。まずそこが第一の疑問。第二に何故、そそり立っているのか。何がとは言わない。言えない。
とにかく今、リアンの目の前ではとんでもない強烈な変態が、道のど真ん中で高笑いしているのだ。
一体何が彼に起きたのだろう。そこまで考えて、リアンは一つの答えを導く。もしかして、隣町の生き残りなのだろうか。
彼の村に逃げてきた生き残りの話では、他の者は皆殺されたといっていたが、もしかしたら、他に生き延びた人がいたのかもしれない。そうであるならば、彼が全裸であることにも少しばかり説明がつく。
水浴びでもしているさなか、命からがら逃げてきたのだろうか。それなら説明はつく。きっとそうだ、そうに違いない。そうであって下さい。
必死に自分に言い聞かせ、リアンは恐る恐る目の前の変態へと言葉を紡ぎ出す。
「あ、あの……その、大丈夫ですか?」
「ぬ?お、おおおおおおおおおおお!」
嫌々。そう、かなり嫌々全裸の男に声かけたリアン。全裸の男は、ようやくリアンの姿に気付き、更なる興奮の声を上げる。
その光景は正直、子供なら絶対に泣くであろう光景。村でもかなり高い方であるリアンの身長をさらに頭三つほど高い、加えて全身を鍛え抜かれた無駄のない体躯で固めた美形の青年が、気色悪い声をあげてくねくねしているのだ。リアンだってどんびきを通り越して泣きたいくらいである。
やがて興奮を抑えられない全裸の青年が、リアンの両肩をがっちりつかみ、言葉を全力でぶんなげてきた。
「お前は!お前は『人間』か!?」
「……は?」
「魔人や魔族、ましてや悪魔でもなく、『人間』だな!?」
「は、はい!そうです!僕は人間ですっ!?」
「お、おおおおおおおおおおおおおおおおおお!何と脆弱な生命!何と微弱な魔力!何と薄い魂!
これが、これこそが私の夢見た人間!私の護るべき生命!私を讃える存在!私の、私だけの人間!」
がくがくと前後に振られながらリアンは思う。やばい、どうして声をかけてしまったんだ、と。
そもそも質問の意味も分からない上に、興奮が爆発してかなり気持ち悪いことこの上なかった。質問の意味が分かりません、何故全裸なんですか、貴方一体誰ですか、そのような質問すら許されぬ程の圧倒的マシンガン口撃。
フラフラになるリアンに、やがて興奮が少しばかり落ち着いたのか、青年は愉しげに笑みを浮かべながら話を続けた。
「すまなかったな、人間。私は幾数千年、お前達に会えることを夢見てきたのだ。故につい、興奮し過ぎてしまったようだ」
「あ、あの……それは構わないんですが、あの、貴方は?」
「む、礼を失してしまったな。すまんな人間、名を名乗ろう。喜べ、お前がこの世界で我が名を知る人間の第一号だ。
我が名はサトゥン!お前達人間を救う為、この世界にやってきた『リエンティの勇者』だ!
クハハハハハハハ!さあ敬え我を持て囃せ!我がお前達の剣となり盾となり、そしてお前達の絶対唯一の英雄となろう!」
「あー……あの、サトゥンさん、でいいんですよね。サトゥンさん、『リエンティの勇者』って……」
「うむ、お前達人間達が崇め讃える伝説の存在であろう。それこそが我、サトゥンである!」
ぶっとびにぶっとんだ回答に、リアンはどうしたものかと返答に窮する。
『リエンティの勇者』。それは、リアン達人間なら誰もが知っている御伽噺だった。その内容はとてもよくあるチープなものだ。
遥か昔、魔物の王がこの世界を闇で包んでいた暗黒の時代に、異世界より一人の勇者が現れる。
その勇者は十一人の戦友と共に、神々より伝説の武器を与えられ、魔物の王を激戦の末に退治し、この世界に光をもたらした。
そして、勇者達は新たな国を築き、この世界に平和と安寧を与えたという。そういう話だった。
リアンも幼い頃、両親から何度も御伽噺をきかされていたものだった。いわゆるところの、幼児向けの御伽噺、それが『リエンティの勇者』であった。
幼い子供なら勇者ごっこをしたことはあるだろう。だが、成長するにつれて当然そんな物語は現実にはなかったのだと悟っていくものだ。
だが、目の前の全裸の青年――サトゥンは、自身のことを迷うことなくきっぱりとリエンティの勇者であると断じた。
どこからその自信はくるのだろうか。平常時であれば、そのあたりの話をきいてみたいものなのだが、現在は非常時である。
魔獣がもうすぐ自分の村を攻めてくるかもしれないのだ。そのことに改めて気付いたリアンは、サトゥンに慌てて避難を呼びかける。
「サトゥンさん!早く逃げて下さい!ここは危ないんです!」
「む、危ないとな?私が危ないと思ったことといえば、一体何千年記憶を遡ればならぬだろうか。そうだな、あれは我が生まれて――」
「そんなサトゥンさんの昔話はどうでもいいんです!もうすぐここに、魔獣がくるんです!早くしないと命が危ないんですよ!」
「魔獣とな?魔獣如きを恐れるとは、ふむ、ますます愛おしいぞ人間。私の心にお前の言葉の一つ一つが響いてしまうではないか。
それで何が怖いのだ?海王龍ビーネルドか?陸狼鬼グヴェンドルドか?なに、どれも私にとっては可愛い愛玩動物よ」
「び、びね?おっしゃってることはよく分かりませんが、とにかく逃げてください!この先に僕の住む村がありますから、急いで!」
「ふむ、私の初めての人間なのだ。お前の言うことは叶えてやりたいが、時にお前は何故反対方向へ向かおうとする?
そっちには、お前の言うところの魔獣とやらがいるのだろう?命が危ないのではなかったのか?」
サトゥンの言葉に、リアンは背を向けたまま強く拳を握りしめて言葉を紡ぐ。
それは先程固めたなけなしの意地。それは先程つらぬくことを決めたありったけの勇気。
「僕は、魔獣のもとへ向かいます。少しでも、一匹でも奴らを倒してみせます」
「むむ、むむむ……脆弱な人間よ、お前は先程命が危ないといったではないか?お前に魔獣が倒せるのか?」
「……倒せないでしょうね。でも、それでも僕はいきます。少しくらいなら、時間が稼げるかもしれない。何かの拍子で引き返してくれるかもしれない」
「むううううう……何故だ?何故、そこまで命を賭ける?何がお前を突き動かしている。
魔獣を倒せばお前に何が与えられるというのだ。一体何の欲望が脆弱なお前をそこまで駆り立てているというのだ」
何が自分をそこまで動かすのか。その問いに、リアンは思わず笑ってしまう。
そんなこと、決まっている。こんなちっぽけな自分自身を動かす理由なんて、一つしかないじゃないか、と。
それを口にしてしまえば、なんて簡単で。リアンは強く胸を張って答える。これはきっと、胸を張れることだから。
「――死なせたくないんです。村には、父も、母も、幼い妹も、友も。僕にとって大切人々がいるんです。
きっと僕は死ぬでしょう。僕の死は無駄になるかもしれません。けれど、何もせずに死を待つなんて出来ない。
僕は、僕の『欲望』のために、行くんです。それが僕の、ちっぽけな僕の、最後に決めた道だから」
リアンの真っ直ぐな決意。その小さな欲望の為に、彼は死を決意した。己の為に、全ては己の為に。
静寂が空間を支配した後、リアンはゆっくりと息を吐く。行こう、この決意が鈍らない内に、向かおう。そう意を決する。
そして一歩隣村へと向かおうとしたが、前にはすすめない。それは彼の肩が何かに抑えられていたから。視線をそちらに向けると、彼の肩に乗っていたのは、サトゥンの手であった。
一体どうしたのか、リアンはサトゥンの方を振り返って、驚愕に表情を歪める。
そこに在ったのは――異形。
そこに在ったのは――異神。
そこに在ったのは――異界。
目の前に光景に、リアンは呼吸すら忘れてしまう。それほどまでに、圧倒的な存在がそこに在った。
先程までのサトゥンとは異なる別のナニカ。姿形は同じなれど、リアンにははっきりと認識する事が出来る。この存在は――化物だと。
吹き荒れる程に膨大な『力』が、リアンを威圧して離さない。気を少しでも抜けば、失神してしまいそうなほどの圧力。
やがて、サトゥンはゆっくりとリアンに対して言葉を紡ぐ。それは怒りを抑えた憤怒の鬼神。
「――許せんな。お前のその在り方、姿、心、全てが許せぬ」
「あ、あ、あ……」
「自分の命を顧みず、家族を救うだと?自分を犠牲にしてでも、愛する者達を守るだと?貴様、貴様貴様貴様貴様――」
殺される。自分は間違いなく目の前の化物に殺される。
そのことを確信するのは実に簡単で。リアンは心を根元からへしおられてしまった。
魔獣相手でも、揺るがなかった決意は、目の前の圧倒的存在には何の意味もなく。ただ只管に己の死という現実をつきつけられるだけだった。
きっと、次に彼が口を開いた時、自分は死ぬのだろう。そう悟ったリアンは、心の中で祈ることしか出来なかった。
神様、もし神様がこの光景を見ているなら、お願いします。僕の命とひきかえに、どうか、どうか村の人々を、家族を守って下さい。
そして、サトゥンの口からリアンに向けて、最期の言葉が紡がれた。それは、とてつもなく感情のこもった――
「――貴様、それではまるで貴様が『リエンティの勇者』のようではないか!」
それは半分、涙声といっても過言ではなかった。というか、半泣きであった。リアンがではない、サトゥンがである。
リアンはというと、呆然とするしかなかった。殺されるのではなかったのか。自分は死ぬのではなかったのか。
先程までの威圧感が嘘のように空気に溶け、目の前にいるのは情けない顔をした半泣きの青年である。状況が全く理解出来ないでいた。
そんな彼にサトゥンは追撃とばかりに言葉をまくし立てて彼を更なる混乱の海へと突き落とす。
「認めぬ!決して認めぬぞ!勇者はこの私、サトゥンなのだ!それを横から出てきたお前などに渡してたまるものか!
リエンティは私!お前は……そうだな、アトスだ!お前の役割はアトスにしよう!うむ、それがいい!お前もそう思うだろう?」
「え、あ、うん、そ、そうですね……?」
適当な相槌を打ちながら、リアンは何となくであるが、サトゥンの言いたいことをゆっくりとであるが、理解し始める。
もしかしてこの男、自分が勇者の役割を奪おうとしている思いこみ、それで怒ったのか、と。
この答えに辿り着き、そんな馬鹿な、とリアンは混乱する。だが、彼の発言はそれ以外の何も読み取れない。結論が他にでない。
ちなみに彼の言うアトスとは、勇者リエンティの仲間である英雄の一人、神槍アトスのことである。
つまるところ、まとめると、勇者ごっこをしていると仮定して、サトゥンがリエンティ。リアンがアトス。この役割にしたいらしい。
何故今、勇者ごっこ。そもそも何故自分がリエンティを奪おうと思いこんだのか。最早理解が出来ずリアンの脳内は酷い状態に陥っていた。
けれど、一つだけ分かることがあった。彼は、サトゥンは――恐ろしく強い。この世の存在とは思えぬほどに、強い。
それだけはリアンは強く確信していた。そして同時に打算を働かせてしまう。彼なら、できるかもしれない。彼ならやってのけるかもしれない。
彼なら、サトゥンなら魔獣に勝てるかもしれない、と。
そう答えを導けば、後は早かった。サトゥンから解放されたリアンは、すぐさまその場に土下座をし、頭を下げる。そして必死に叫ぶのだ。
「サトゥン様!どうか、どうかお願いします!どうか魔獣を退治してください!」
「お、おお?どうした急に……ま、魔獣退治だと!?」
「そうです……見ての通り、僕は貴方に比べてとても弱く、魔獣相手に手も足も出ずに殺されるでしょう。
ですが、貴方は違う。僕とは違い、とてつもなく強い力が在ると私は感じました。お願いします、どうか、どうか村を御救い下さい!」
「そ、それはあれか?勇者への、依頼討伐なのだな?
お前達の命を救う為に、魔獣を仕留めてきてくれと、勇者にしか出来ない偉業だと、勇者様お願いしますと、お前は言うのだな!?」
「そ、そうです……悔しいですが、私如きでは時間稼ぎも出来ないでしょう。ですが、貴方なら……貴方なら村を救えるんです!
どうか、どうかお願いします!私に出来ることはなんでもします!望むならこの命だって差し出します!だからどうか、村を――」
そこまでリアンが述べた時、ある異常にリアンは気付いた。
何故か、彼の頭上からしゃくり声が聞こえたのだ。もっというなら、鼻を啜る音。もっと言うならぐしゅぐしゅいう音。
一体何が。ゆっくりとリアンが顔を上げた時、最早彼は言葉を出すことすら出来なかった。
彼の視線の先で、サトゥンが――泣いていた。もうこれでもかって程に、ボロ泣きである。号泣である。鼻水だらだらである。
その光景にリアンはドン引きせずにはいられない。大の大人が、全裸で、号泣しているのだ。これをドン引きせずに何にドン引きするのか。
声をかけていいものか迷うリアンに、涙をぼろぼろと零しながら、サトゥンは言葉をぶつぎりに零す。
「これだ……これなのだ……私の求めていた、理想郷は……ああ、なんと幸せなことか……
死んでも良い……もう、これで世界が終ってもいい……私は勇者だ、とうとう勇者になれたのだ……ふぐう……」
「あ、あの、その……ぬ、布切れ貸しましょうか……」
「いや、構わぬ……ぐすっ……この喜びの涙を拭う等、勿体無いことはせぬ……少年、名をなんという……」
「あ、今更……いえ、えっと、リアンです……リアンと申します」
「リアンか、よい名だ。我が魂の盟友、神槍リアン!お前の望み、この勇者サトゥンが聞き届けよう!
お前のどこまでも真っ直ぐな願い、この勇者である私が叶えてみせようぞ!しばしここで待つが良い!」
「いや、あの神槍リアンって、僕は槍なんて使えな……」
リアンが言葉を最後まで紡ぐことは出来なかった。
涙を頬に流したまま、サトゥンは清々しい笑顔を浮かべながらその場から飛翔した。全裸で。全裸で。全裸で。
そして大空に浮いたまま、サトゥンは短く何かを呟く。それは詠唱、彼が得意とする魔人術式が一小節。
唱えること数瞬、彼の身体から溢れだした黒き光が、まるで獣が解き放たれたように周囲の大地へ突き刺さっていく。
それは嵐。それは豪雨。それは矢撃。鋭い光が地面へ次々と生えてゆき、そして再び彼の下へも戻っていく。
そして、次に見た光景を、きっとリアンは生涯忘れないであろう。サトゥンが引き戻した光の先には、リアンの隣村を滅ぼした魔獣の息絶えた姿があった。
それも一頭ではない。何十頭もの死骸が、黒き光の刃の先に突き刺さっていたのだ。否、それだけではない。
その魔獣より更に恐ろしきとされる魔獣や飛行竜、あげくのはてにはリアンの十倍以上の体長がある巨大竜の姿だってあった。
絶命した死骸の山を、リアンの前に投げ捨てて、サトゥンは笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。
「とりあえず、人間の命を害する程度の力を持つ近隣の魔獣ども全てを屠ってみせたが、これで良いか?」
「あ、あ、は、はい……」
「そうか、そうか。これでお前から受けた勇者の依頼は完了と言う訳だ。フフフ、フハハハハハハ!
そうだ!これだ!弱き者の為に力を使う!これこそが勇者というものよ!我こそが、我こそが勇者サトゥンである!フハハハハハ!」
青い空に響き渡る、異形の化け物の高笑いを聞きながら、リアンは思うのだ。
もしかしたら自分は、とんでもない存在に出会ってしまったのではないだろうか、と。
青い空、響き渡るバカ笑い、呆然とする少年、むせかえる程に溢れかえった魔獣の死骸。
これが、自称勇者サトゥンと他称神槍リアン、二人の出会いであった。




