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魔人勇者(自称)サトゥン  作者: にゃお
二章 剣姫
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12話 依頼





「リアン、そっちにいったわよ!針は壊さないように仕留めてよね!」

「わかった!」


 襲い来る巨大な蜂のような魔物、アンビート達を、二度三度と旋回させた神槍で、リアンは力を込めて薙ぎ払う。

 相変わらずの馬鹿力、と呆れるように眺めながらも、意識は敵から外すことは無い。マリーヴェルは不規則な動きをするアンビート達に剣を奔らせ、胴から真っ二つに叩き斬っていった。

 この周囲一帯では一番早く獰猛とされる魔物であったが、これも二人の敵とはならない。敵が全滅したのを確認し、マリーヴェルは息を吐いてバンダナを緩める。彼女がバンダナを外すのは、戦闘終了時の癖みたいなものらしい。


「依頼番号十二、終了っと。ちゃんと蜂の針は十六個壊れずに採取出来た?」

「うん、大丈夫。アンビートだっけ、動きがなかなか捉えにくかったね。他の魔物とは違って、不自然な飛行というか」

「こいつらは目が利かない分、振動と熱を頼りに動いてるのよ。こいつを楽に叩きたいなら、どちらかを利用して撹乱に使うことね。

まあ、リアンならそんな戦い方をしなくても強引に力でねじ伏せてしまったほうが早いけれど」

「そんなことないよ。僕もミークみたいにちゃんと頭を使って戦わないと」

「私みたいに?」

「ミーク、戦ってる最中に木をいつもより強く蹴って揺らしてたでしょ?話を聞くまでは、あれは何の為にやってるのか分からなかったんだけど、アンビートの意識を木の揺れに引き付けてたんだね。本当、凄いや」


 ごく当たり前に、そして何故か嬉しそうに言うリアン。少しばかり照れながらもマリーヴェルは今日何度目とも分からない驚きを感じる。

 確かにリアンの言うとおり、アンビートの習性を利用する為に木をいつもより少し強く蹴っていたが、彼はそれすらも観察していたのだ。

 今日一日、マリーヴェルは数多の戦闘をリアンとこなしてきたが、彼はどんな楽な戦闘であっても、終わった後にこうやって戦闘についての反省を行っているのだ。

 強い筈だ、マリーヴェルは肩を竦めて納得する。才能もあるだろうが、彼の武器はどこまでも実直なところだ。

 呆れるほどにまっすぐ前を見ていて、強くなることに貪欲。自分が負ける点があるとしたら、ここだろうなとマリーヴェルは白旗を早々に上げていた。


 アンビートの針の回収を終え、リアンは討伐対象を記入した紙に最後の棒線を入れる。これで、全ての魔物達を討伐してしまったことになる。

 全対象三十種、数にして九十八匹。それを日没までに終わらせたのだから、賞賛されるべきは二人の驚異的な強さと、獲物を引き当てる嗅覚であろう。

 普通は目的の魔物を探すのに、そこで時間をくうのだが、二人は敵に対する嗅覚が備わっている。リアンは村での狩りの経験則、マリーヴェルは彼女特有の直感だ。

 この二つを駆使して、彼らは次々に獲物を引き当てていく。見つければ倒すのは容易だ。この程度の魔物では、彼らに遥か及ばないのだから。


「これで全部終わったかな。お疲れ様、ミーク」

「全然疲れはないけどね。正直、この程度の敵なんて微塵も楽しめないと思ってたんだけど……まあ、楽しかったわ」

「うん、僕も楽しかった。そして勉強になったよ、新しい戦い方をまた一つ学べた気がする。宿に戻ったら槍を振って反復しないと」

「うええ、まだやる気なの?貴方、どんだけ戦闘馬鹿なのよ。私はごめんだわ、帰ったら水浴びして夕食よ。携帯食じゃ胃がもたないのよね」

「だからオグロッドの肉を分けてあげるっていったのに。ミーク、凄く嫌がるんだもの」

「魔物の肉なんてゲテモノ以外の何物でもないでしょーが!次あんなもの食べさせようとしたら、なます切りにして野犬の餌にしてやるわ!」

「た、食べさせようとはしてないよ……」


 ぎゃあぎゃあと言いあいながらも、二人は笑いあって拠点であるミリスの街への帰路へつく。

 余談ではあるが、集めた魔物の収集部位は、革袋にまとめて放り込み、リアンが肩にぶら下げて持ち帰っていた。

 すべて合わせて重量が三十キロは軽く超えそうな重さではあるが、微塵も重さを顔に出さないあたり、リアンの身体も日々鍛えられているのだろう。ある種、成長の証である。










 依頼達成報告と換金の為に、宿にではなく、二人はギルドに戻らなければならない。

 リアンが自分が報告をするので、先に宿に戻ってても構わないと言ってくれるが、マリーヴェルはそれを拒否して彼についていく。

 いつもの彼女なら、リアンの言葉にそのまま甘える、というよりも利用して後で金を持ってこいと言ったかもしれない。

 だが、今日の彼女は非常にご機嫌だった。彼と一緒に初めての依頼達成を報告し、達成報酬を受け取り、喜びを分かち合いたいと何となく思ってしまったのだ。

 まだ自分にもそんな子供のような感情があったのかと、少しばかり照れながらマリーヴェルは彼と共に並び歩く。足取りは軽く、楽しげに。

 しかし、禍福は糾える縄の如しとはよくいうものだ。彼女の上機嫌は、ギルドに一歩入るなり響き渡ってきた声にてどんぞこまで突き落とされることになる。


「どうして!どうして冒険者が誰一人残って無いんですの!」


 ギルド内、その受付にてヒステリックに叫んでいる女性が二人の視界に入る。

 刹那、マリーヴェルは脱兎の勢いで店の外へと飛び出した。何かの見間違いかと、何度も目を擦り、そーっとギルドの中を眺める。

 中には、どうしたのかと驚いているリアンと、その奥にはどうみても『見慣れた』女性が不機嫌そうに怒鳴り散らしている。

 その現実が徐々にマリーヴェルの心に浸透してゆき、彼女は過去に無い程に大きな溜息をつき、独りごちる。


「なんでアンタがここにいるのよ……『泣き虫ミレイ』」


 泣き虫ミレイ。それはマリーヴェルが彼女を揶揄する時の名前であった。

 マリーヴェルと同じ、美しき青い長髪を携え、高貴な服飾に身を固めた、マリーヴェルよりも少しばかり年長の女性。彼女の名前はミレイア。ミレイア・レミュエット・メーグアクラス、この国の第二王女である。つまるところの、マリーヴェルの姉にあたる女性だ。

 彼女はマリーヴェルと違い、王位争いに参戦していた筈だ。故に、昨日傭兵募集を終え、今朝の早朝に洞窟へと旅立った筈なのだ。

 それが何故、ここにいるのか。ここで何故、ギルドの受付に怒鳴り散らしているのか。

 とりあえず拙い、マリーヴェルはそう考える。このままでは、私の正体がここにいる全ての連中に、リアンにばれてしまう、と。

 何故ミレイアがここにいるか、そんなことはどうでもいい。興味も無いし、関係も無い。自分は王位継承権も、家族も捨てたのだ。今更顔を合わせる理由も気持ちもない。

 故に、彼女が一つの結論を導くのは至極当然のことで。マリーヴェルはちょいちょいと指でリアンを呼び寄せる。

 首を傾げながら、子犬のように近づいてくるリアンに、マリーヴェルは過去に無い程に気持ち良い笑顔で一言告げるのだ。『換金、よろしく』と。

 ますます分からないという様子だが、しっかり了承するリアンに微笑みを見せて、マリーヴェルはギルドをそそくさと後にした。

 面倒事には関わらない、関わりたくも無い。先程見た光景はすっかり忘れ、マリーヴェルの頭の中には今日の夕食と明日は何の依頼を受けようか、何をしてリアンと遊ぼうか、それだけだった。

 人はそれを現実逃避と呼ぶのだが、マリーヴェルはそのことに気付くことは無かった。あくまで気付かされるのだから。



 水浴びと夕食を終え、身体をベッドの上に投げ出してのんびりと寛いでいたマリーヴェルだが、トントンと軽く部屋の扉がノックされたことに気付き、身体を起こす。

 この部屋を訪れる人物など、一人しかいない。リアン以外に、この部屋を教えていないのだから。

 恐らくギルドでの報酬の分配と明日の予定を話し合いにきたのだろう。軽く鼻歌を歌いながら、マリーヴェルは部屋の扉を開き――閉めた。

 扉を全力で閉めた後で、マリーヴェルは自分の目頭を軽く抑える。おかしい、幻覚が見える、お酒なんて呑んで無い筈なのに、扉の向こうに今リアンの横に変な女が見えた気がする。

 加えて幻聴も聞こえる。扉の向こうで無礼な、打ち首にしますわよ、などとヒステリックな聞きなれた声が聞こえる。疲れがたまっているのだろうか。

 そんな現実逃避を少しばかりしてみたところで、現状は何も変わらない。

 大きく、大きく溜息をついたところで、マリーヴェルは今自分が何をすべきかを必死に把握する。

 まず状況を考える。何故、リアンが姉であるミレイアをここに連れてきたのか。こんなこと少し考えれば分かることだ。

 二日の付き合いであるが、リアンは底なしのお人好しで世間知らずだ。彼がギルドにて換金する為には、受付を通す必要がある。

 受付には先程誰がいた。あのミレイアが、この場所は私のものですと言わんばかりに占領し、受付に怒鳴りたてていたではないか。

 その状況を見てしまえば、彼はどういう行動を取るか。決まっている、どうしたのかと事情を聞くに違いない。

 そして、王位継承争い中であるにもかかわらず、こんな場所で未だ足踏みしているミレイアは、どう考えても何かトラブルが起こっているに違いない。つまり、困りごとを抱えているのだ。

 頭に超がつく程のお人好し世間知らずのリアンと、困り果てて助けを求めているミレイア、この二つが交わればどうなるか、そんなもの火を見るより結果は明らかではないか。

 困った人は助けたい人間の彼なら、ミレイアから依頼を引き受ける。その為にも、同じパーティである自分にも許可を取りに来る筈だ。大体このような経緯だろう。


 マリーヴェルは嘆くしか出来ない。リアンのアホ、という方向ではない、己の失策の馬鹿加減を、だ。

 あのときリアン一人を放置せずに、一緒に連れ帰ってしまえばよかったのだ。そうして後でギルドに向かうだけでよかったのだ。

 これはあくまで、リアンのミスではなく自身の失策。故に責任は自分の手で、後始末は自分でしなければならない。

 まず、すべきはミレイアの口を封じることだ。他の何があろうと、リアンに自分の素性がばれるのだけは避けねばならない。

 彼が自分を探しているのは分かる、ここで正体をばらしてもいいのかもしれない。だが、マリーヴェルはそれを嫌った。

 二人で過ごした楽しかった時間は、まだ始まったばかりなのだ。自分の素姓をしれば、彼との時間は終わってしまうかもしれない。

 いつかはばれるにしても、まだこの時間を彼女は終わらせたくなかったのだ。マリーヴェルではなく、ミークとして彼と共に冒険をしたい、胸躍るような時間を過ごしたい、それが彼女の偽られざる本音だったから。


 意を決し、マリーヴェルは部屋の扉を開く。そして、強引にミレイアの腕をつかみ、文字通り部屋に引きずり込んでリアンには『そこで少し待ってて』と指示を出す。

 叩きつけるように扉を閉め、マリーヴェルは強い力でミレイアを引っ張りベッドの上へ投げ捨てる。

 突然の無礼な行動に、それこそ瞬時に頭を沸騰させたミレイアは、怒気を込めてマリーヴェルを糾弾しようとしたのだが。


「何をするのです、無礼者!この私を一体誰だと……」

「久しぶりね、『泣き虫ミレイ』。たった数カ月で私の顔を忘れたのかしら?また泣かせてあげないと思いだせないかしら?」

「な、なぜその名前を……って、あ、あ、貴女!貴女マリーヴェむぐうううう」


 驚愕に目を見開き、マリーヴェルの名前を告げようとしたが、それ以上ミレイアが言葉を続けることはなかった。否、出来なかった。

 ミレイアの上にのしかかるように馬乗りになったマリーヴェルが、ミレイアの口を片手で抑えつけたのだ。

 恐怖で逃げようとするミレイアだが、身体はしっかりマリーヴェルの足でロックされていて抜け出せない。そもそも騎士団で鍛えられていたマリーヴェルとお姫様お姫様と育てられたミレイアでは、身体の力が違う。

 身体を拘束され、マリーヴェルの獲物を捕えたような瞳に、逃げられないことを理解したミレイアは、震えながらマリーヴェルの言葉を待つ。それを確認し、マリーヴェルはゆっくりと会話を始めた。


「先に言っておくわ。私の正体がマリーヴェルだってことをリアンにばらしたら、本気で殺すわよ。それだけはその足りない頭で理解しなさい、いいわね?

 貴女がリアンに何を頼んだかは知らないけれど、私と貴女の関係はただの友人。その嘘をつき通しなさい。いいわね、ばれたら即座に殺すわ」


 ベッドのまくら元に置いていたショートソードの鞘をミレイアに突き付けて通告するマリーヴェルに、ミレイアは必死にこくこくと力強く頷いて了承する。

 ミレイアは、知っているのだ。妹が、やるといったことは必ず実行する女だと。

 理由は分からないが、自分が妹のことをマリーヴェルと呼べば、必ず自分は殺されると、それは最早確信とすら言えた。

 また、マリーヴェルもまたミレイアの反応に安堵する。涙目で必死に頷く彼女の様子を確認できたからだ。

 幼い頃から人一倍臆病な姉は、こうやって誰かに怒られたり威嚇されたりすると、全力で服従することで逃げる癖があった。

 だからこそ、彼女を意のままに操りたいなら強気に出ればいいことをマリーヴェルは理解していたのだ。彼女の姉で王女ということもあり、その涙目で許しを乞う姿は世の男共を魅了するのだろうが、生憎と相手はマリーヴェルは女であるし、妹である。そのような趣味は微塵もないのだ。

 ミレイアに見えない首輪を取りつけ、マリーヴェルは安堵の息をついて彼女の上から身体を起こす。

 そして、部屋の入口へと足を運び、何事もなかったかのようにリアンに入室するように告げるのだ。本当に何事もなかったかのように。

 その光景をみながら、ミレイアはがたがたと震えながら一つのことを確信していた。もし、妹が出奔していなければ、王の座は間違いなくこの娘のものだっただろう、と。



 リアンを室内に招き入れ、全員が揃ったところで、マリーヴェルは二人に説明を要求する。ギルドで何があったのかと。

 威圧するようなマリーヴェルの視線に、びくびくと怯えながらも説明を始めたのはミレイア。彼女の事情は、ほぼマリーヴェルが予想した通りのものだった。

 王位争いの決着の場である洞窟に、彼女は早朝から冒険者達をひきつれて向かっていたらしい。だが、そこで一つのトラブルに見舞われた。

 洞窟への道の途中で、冒険者達が次々に自分の元から離れていったのだ。第一王子、リュンヒルドの策略にひっかかってしまったのだという。

 ミレイアの雇ったと思っていた冒険者達は、実はリュンヒルドからの刺客であり、彼女を王位争いから脱落させるための罠であったのだ。

 ある程度まで道が進んだところで、彼らはミレイアから離脱し、リュンヒルドのパーティへと合流する。残されたのは、ミレイアと二人の一般冒険者だけだ。

 それでもミレイアは三人でも洞窟へ向かおうとしたのだが、冒険者達が揃って無理だと口にした為、泣く泣く戻ってきたのだという。

 故に、彼女がギルドで冒険者を探していたのだ。早く数を集めて、他の三人に追いつかなければ、自分は本当に脱落してしまうから。

 話をきいていたマリーヴェルは、呆れるようにじとめをミレイアに向けて、一言紡ぐ。


「本当に貴女馬鹿ね。性悪のリュンヒルドが何か絡め手をしてくるくらい、読めたでしょ。どうせ冒険者達が他のパーティより先に集まったことで舞い上がって、ロクに素性も調べずに雇ったんでしょう。本当に馬鹿。ばかばかばかばかばーーーーーか。あはは!貴女って本当にばか!」

「う、うううう、うううう……」

「だ、駄目だよミーク、この方は王族なんだから、そんなこといったら投獄されちゃうよっ」

「へえ、何?貴女私を投獄するの?投獄しちゃうんだ?」

「し、しません……ミ、ミークは私の大切な友人ですもの……」

「だ、そうよ?私もミレイアのこと、大切な友人だと思ってるわよ?大切過ぎて、思わず壊しちゃいそう」

「ひ、ひいっ!」


 涙目になりながら、ミレイアはばたばたとリアンの背中に隠れてしまう。

 冗談よ、とリアンの背後からずるずるとミレイアを引っ張りだすマリーヴェルに苦笑しながら、リアンはミレイアの説明を代わりに続ける。


「それで、さっき僕に声がかかったんだよ。護衛を探している、困っているって仰ってたから」

「リアン、貴方は何て返答したの?」

「僕は構わないって。ただ、パートナーの許可が出たらという条件付きで」


 パートナーという彼の口から出た言葉に、マリーヴェルは少しばかり浮ついた気持ちになりそうになるのを抑えつける。

 つまるところ、リアンの返答は保留ということだ。決定権は彼女にあるということだ。

 マリーヴェルは少し考える。本来ならば、家を飛び出した彼女がこんな王族継承争いに何が悲しくて再度跳び込まなければならないのか、即刻ミレイアを蹴り飛ばして追い出したいところだった。

 けれど、この依頼には一つだけ魅力的なところがある。王族の洞窟だ。あの洞窟には、屈強な魔物が数多存在しているという噂を城内で耳にしたことが在る。

 入口を兵士が守っている為、王位継承権を放棄したマリーヴェルが入ることは出来なくなってしまっていたのだが、ミレイアがいれば話は変わってくる。

 彼女さえいれば、あの洞窟に潜れるのだ。彼と、リアンと共に、だ。

 それは非常に魅力的な提案だ。だが、王位継承争いなどという下らぬ争いに関わるのも馬鹿らしい。その二つの錘を乗せた天秤が揺れ動くマリーヴェルであったが、視線をちらりと横に座るミレイアに向ける。

 そしてたっぷり時間をかけて、悩み抜いて、結論を下した。


「……いいわ。その依頼、引き受けましょう」

「え、よ、よろしいのですか?ほ、本当にひきうけてくださいますの?」

「私、同じ言葉を二回も言うのは嫌いなのよ。その代わり冒険者に払う予定だった報酬は全額私達に渡しなさいよ」

「は、はいっ!勿論ですわっ!ありがとうございます、ミ、ミーク!」


 今日何度目かも分からぬ溜息をつきながら、マリーヴェルは必死にその理由を考えないことにした。

 揺れ動く天秤を傾けた最大の理由が、この情けない泣き虫な姉をなんだかんだといって嫌いになれないからだなんて、そんな理由は。

 普段は人一倍強がるくせに、その実人数倍臆病で。さっきまで怯えていたかと思えば、今はじゃれつく子犬のようにぶんぶんと尻尾をふって。

 その喜びっぷりに、マリーヴェルはとりあえず水を差すことにした。


「それじゃ、今日の宿は私と同じ部屋を取りなさい」

「え……な、何故?どうして?」

「監視、もとい友情を深める為よ。出発する明日まで時間はたっぷりあるわ、ゆっくりお話しましょうね、私のお友達」

「二人は本当に仲がいいんだね。王族と友達なんて、ミークは凄いなあ」


 ぷるぷる怯える姉に、相変わらず斜め四十五度の天然っぷりを見せるリアンに、マリーヴェルは一応心の中で突っ込んでおく。

 リアン、貴方のパートナーは王女だし、貴方の師匠は領主なんだけど、それはもっと凄いことなのではないか、と。








初めてのご感想に、初めての作品評価まで頂きました。ありがとうございます、ありがとうございます。

お気に入りもそうですが、嬉しすぎて泣きそうです。すみません、これからも頑張ります、本当にありがとうございました。

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