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中編

●プレイング


 チャットや一行掲示板で会話していて気がついたら2~3時間が過ぎていたと言うこともままある。うっかり夜更かしして寝坊しかけたことがある程に良くあることだが。


「間がもたねぇ……」


「やっぱり無理がありますよね72時間とか」


 しゃべり続けるにしてもこの場には俺と晴海しか居ない、喋れるものはと言う意味では。


「とりあえず、プレイングを仕上げてしまいましょう」


「そうだな」


 いくら丸三日の時間があると言っても、有限であることにかわりはなく、持て余した時間つぶしに昼寝でもして起きたら制限時間を過ぎてプレイングが白紙だったでは洒落にならない。


「ん? お前、プレイング書いてなかったのか?」


「え? もちろん、書いてましたよ」


「じゃあ、どうして」


「消えちゃいました。全消しですよ、全消し。たぶんトリップが原因だとは思うんですけど。第一、あの機会音声『プレイングヲ入力シテクダサイ』って言ってたじゃないですか」


「あー、そう言われれば確かに」


 つまり、目の前の晴海のプレイングは書けてはいたものの、トリップの弾みで消されてしまったと言うことらしい。


「悪かったな、嫌なこと聞いちまって」


「良いんですよ、全文きっちりではありませんけどプレイングのいくらかは覚えてますし。それに、あんまり優しくすると本当にホレちゃいますよ?」


「……気遣うんじゃなかった」


 正直、俺は前言を心底後悔した。


「ともかく、チャッチャと書き上げて後顧の憂いを無くしましょう。念のため仮プレイングを書いておくってのがいつもの私ですが、これだけ時間があるなら本番並のクオリティにしても時間の方が余るでしょうし」


「まー、確かにな」


 晴海の言う仮プレイングとは何らかの事情でプレイングを書き上げられなかったときのために書いておくプレイングのことだ。参加が決まった事が解った後で白紙プレイングを防ぐ為に書くものだったりするため、プレイングとしての完成度は低い。


(これからはちゃんと仮プレ書くかな……)


 トリップしてしまった時点で元のシナリオがどうなったかは解らないが、こんな事がなければ俺は白紙プレイングをやっちまっていた可能性がある。


「それに、仮プレイング作っておけば見せ合って推敲して行くことも出来ますし。相手の台詞が解ればこそ夫婦漫才の様な掛け合いだって出来ちゃうんですよ!」


「いや、前半部分は良いが後半は何だ……」


 夫婦漫才、と言うことは晴海はまだ諦めてないのだろうか。


「えっ、遠回しなプロポーズですが、何か?」


「『何か?』じゃねぇぇぇ! どんだけ肉食系だよ?!」


「えーっ、だってこっちの世界ももうすぐクリスマスですよ? ロンリーとか嫌じゃ無いですか。それとも独り身の人達と一緒に騒ぐ方がアキラさんの好みですか?」


「うっ」


 言われてみると、PBWの世界は現実と時間や季節がリンクしている。そして俺のキャラに恋人は居なかった。よって、俺を待っているのも独り身のクリスマスなのだが。


「だ、だからって戦いの前に恋人作るとか、思いっきり死亡フラグだろ!」


「あ、言われてみれば」


 俺としても譲れないところはある。そもそも、犯人もどきな今の晴海の姿しか俺は知らないのだ。キャラクターのイメージで、イラストによるところは大きい。


(見た目が全てじゃないのは解ってるがなぁ……)


 だからこそ。


「ちなみに完成待ちのイラスト、イラストレーターは石英 巴さんですよ」


「はぁっ?!」


 晴海の続けた言葉に俺は驚倒した。


 そのイラストレーターは、ある意味伝説だった。同人やコンシューマーゲームのキャラデザインなんかもやっていて、このゲーム以外でも手がけたイラストを見かけるのが珍しくないという、有名人。だからこそ、イラストを望むプレイヤーは多い。


「よく描いて貰えたな」


 競争率が桁外れに高いのだ、だからこそ俺は諦めた。


「はい。描いて貰う為に他のイラストレーターさんに浮気せず、ひたすらリクエストしていたんです」


「そうか」


 その熱意が実ったと言うことなのだろう。羨ましくも思ったが、そこまで一途にリクエストをしていたならイラストがまだ無いのも納得出来る。


「って、また脱線ですね。プレイング仕上げちゃいましょう」


「あ、ああ……」


 ただ、逆にひっかかることもある。見た目が全てじゃないというのは解っているが、イラストを持っていなかったキャラクターにイラストが完成すると、訪れるものがある

。モテ期だ。必ずしも訪れる訳ではないが、イラストを作ると言うことはお金を払ってでも遊ぶつもりがあるという風にもとれるのだ。ゲームキャラの恋人や友人を捜すなら

一つの指標にはなるだろう。


(ましてやあのレアイラストレーターに絵を描いて貰ったキャラともなれば)


 煩わしくなるほどにナンパされるのではないかと、思う。見た目で判断するのはどうかと思うが、相手が欲しいならよりどりみどりだ。


(そういや、俺が始めに告白されたのもイラストが完成した時だったな)


 相手は男だったが。このゲーム、男でも魔法少女に片方が変身すれば外観的にはまともな組み合わせになる。だからといって男と恋愛する気にはなれなかったし。


(中の人、腐女子っぽかったからなぁ)


 俺の第六感が警戒信号を全力で放っていた。その直感に従ったからこそ今独り身である訳だが。


「ちょっと、アキラさん?」


「うぉっ?!」


 俺を現実に引き戻したのは晴海の声、どうやらどっぷり回想に浸っていたらしい。


「あ、悪い。少し考え事していた……」


「もぅ、今度やったら情報操作しますからね?」


「……なっ」


 俺にも悪いところはあった、だがそれは勘弁して欲しいと思いつつ書き上げたプレイングが、これだ。



【オヤマダ・アキラのプレイング】

晴海とペア

コートとマフラーを用意


物陰で変身、上からコートとマフラーを着用、魔法少女姿が奇異に見られないようにする

予めの打ち合わせ通り、時計の針が出現五分前を指したところで結界展開


戦闘では前衛

幼体の出現を確認したら晴海と自分に共に在りし乙女の盾をかけて、なるべく敵が多くはいるようにして範囲攻撃魔法三種をローテーション。

巨大芋虫だが基本的に見た目は気にしない

一通り試し、効果が一番ものを以後は使用。

敵の数が二体以下になったところでステッキの殴打に切り替える


戦闘後

戦いが終わったらみんなを誘ってうまいものを食いに行く

年長なのでおれが奢る


台詞

「雑魚ばかりだが、油断せずに行くぞ」

「これ、女の子には辛そうね、大丈夫かしら」

「せいぜい楽しませて頂戴ね」

「晴海ちゃん、正面に追い込んで」

「ふふっ、終わりにしましょ」

「わざわざ名古屋まで来たんだ。寄り道しないか?」


 


 ちなみに「共に在りし乙女の盾」とは不可視の盾を付与することで味方の防御力を引き上げる魔法であり、魔法少女となった俺のキャラクターは範囲攻撃と戦闘支援の補助魔法に特化した雑魚殲滅型となっている。


「アキラさん変身するとキャラ変わるタイプなんですね……」


 プレイングを確認した晴海の第一声は、それ。


「仕方ないだろ、身体が女なら仕草や口調も合わせるのがTPOってもんだ」


 などと考えていた過去の自分を殴りたい。と言うか、まさか女になったあげくこんな台詞をしゃべらされる日が来るとは。


「だいたい、いきなりキャラを変えるわけにもいかないだろ」


「あー、確かに不自然ですもんね」


 トリップした俺はまだしも、現在固まっている面々がどう思うことか。


「アキラ?」


「アキラ、一体どうしたにゃ?」


 と質問攻めにされる可能性もあるが。


「それに、ステータスの基本設定があるだろ」


「ああ、そうですね」


 もし作家マスターが居るなら判定にはキャラクターの設定が記されたステータスの方も参照される。このステータスにはキャラの一人称や口調なども描いてある訳だが、変更するのに制約があるのだ。まぁ、ころころ変えられると書き手の方が混乱するからだろうが。


「今の状況じゃ、いじれねぇからな」


 もともと自分で決めた設定だ、ありのままに受け入れるしかない。


「……アキラさん」


「あと71時間後か」


 そう、71時間後だ。俺の羞恥プレイが始まるのは。

 

遅くなってすみません

よけいなものを書き足していたらバトルにさえたどり着けなかった。

続きます。


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