前編
この物語はフィクションです。
登場する人物、ゲーム及びその運営会社は架空のものとなります。
●回想シーンからでごめんなさい
「まったく、現代物ってのは始末が悪いぜ」
ことに、転生とか憑依とか異世界トリップという空想小説でありがちな展開で落とされた先の世界については。
「まぁ、ゲームとか漫画とか小説の世界に引っ張り込まれて『俺tueee』出来るってんなら話は別かぁ?」
その手の小説を好んでいたからこそ、俺はPBWに手を出した。
PBWというのは……説明めんどくさいので俺の心を読んでる奴が居たらネットで調べって、ああ、嘘嘘。説明すりゃいいんだろ?
その、なんだ、PBWというのはインターネットを介して行う多人数同時参加ゲームの一種だ。
プレイヤー、つまり参加者は決められたルールの中でゲームの世界に存在するキャラクターを作り、ゲームの世界で起こった事件や出来事と言った『シナリオ』へ作ったキャラクターを参加させる。
この時、自分のキャラクターにさせたい行動を「プレイング」って文章にして送るとプロの作家が『プレイング』を反映した行動結果を一本の短い小説という形に書き起こして返してくれる。
もちろん、『プレイング』に書いた行動が何でも反映されるって訳じゃねぇ。
剣術の心得の無い奴が、未だ負け無しと言う剣の達人に剣で勝負を挑んだ場合、『プレイング』に「俺は無敵の天才なので瞬殺する」何て書いたところで達人は瞬殺されるどころか挑んだプレイヤーのキャラクターの方が瞬殺されるだろう。
作ったキャラクターにもたいていはステータス、所謂そいつの強さを現すデータがある。このデータとプレイングの双方を判定材料として、小説に書き起こしてくれる作家は判定を行う。
言わばスポーツの審判のようなものを兼ねていてプレイヤーの思惑通りの結末になるかどうかは、公正な判定の元に行われる訳だ。
そして、判定の結果はさっき言ったとおり小説になって返ってくる。
こんな長い説明したんでピンと来る奴は気づいたかもしれねぇが、そう、俺は俺が参加していたPBWのゲーム世界にトリップしちまった訳だ。
あれは、今から二週間ほど前。俺はしばらくの間、そこがゲームの世界だとは気づけなかった。
「ここは、名古屋か?」
ゲームの舞台が、現代日本を舞台にしていたのだから。
「訳わかんねぇ」
プレイングの提出期限に追われて睡魔と戦いつつパソコンに向き合っていた筈で、家の中にいたはずの俺が何故屋外にいるのか。しかも太陽の昇り具合と方角からすると時間はとっくに昼過ぎに。
「やべっ、プレイング白紙じゃねぇか」
プレイングが白紙、つまりゲームのキャラクターがとるべき行動指針の文章を送らないまま提出期限が過ぎてしまったという訳で、小説内での活躍が見込めないどころか他のプレイヤーに迷惑をかけてしまった可能性がある。
「ははは、オワタ……」
多人数同時参加型のゲームだけ合って、俺の参加したシナリオには、他にも十人近いキャラが参加していた。当然、キャラの後ろにはそれぞれプレイヤーが居る訳で、シナリオの参加は無料であることもごく希にあるが、たいていは有料だ。お金がかかっているが故に申し訳なく、いたたまれなかった。
「しっかし、帰れるのか……俺。財布は――」
そう、この時俺はまだここが現実の世界だと思っていた。だから、財布を確認して、あるなら電車で家
の最寄り駅まで帰るつもりだったのだ。
「あっ?」
ポケットをまさぐりながら、何気なく泳がせた視線。良く磨かれたビルの窓に映る少年は俺と全く同じポーズをとったまま驚きに固まっていて。
「なんだそりゃぁぁぁっ?!」
絶叫した少年の姿は、俺がプレイングを送る予定だったマイキャラそのもの。
「って、ことは……ここが名古屋なのも」
ちなみに、参加したシナリオの舞台は名古屋だった。
●救世の魔女達
「救世の魔女達」
俺の参加した現代物のPBWは若き魔法少女達が地球の滅亡を回避する為に戦う、と言うバトルもので、参加したシナリオも街中で誕生した化け物の幼体を一般ピープルから隔離したご都合主義的結界の中でぶっ殺し、街の平穏を守ると言う話しだったはずだ。
「少年なのに魔法少女?」
と思うかもしれないが、キャラクターは元の性別や種族がどうあれ、戦闘時には魔法少女に変身して戦うと言う設定になっている。
古代の強力な魔女三人が地球崩壊レベルの災厄を分割疑似生命に変換するシステムを作り出し、同時に分割して生命体と化した者達を滅ぼす為の魔法のステッキを大量に作り出した。
このステッキに選ばれたというのがゲームに参加しているプレイヤーのキャラクター達で、ステッキの力を最大限に引き出す為に彼ら彼女らは古代の魔女に最も近い魔法少女の姿に変身するのだ。
「はぁぁ、つーことは俺も魔法少女確定かよ」
ゲーム内ならともかく、リアルで女になるとはいくら何でも思わなかった。とはいえ、変身しなければ今の俺の身体はただの男子高校生に過ぎない。もの凄く葛藤はあったが、命には代えられなかった。
「俺は、俺は……」
変身を解けば男には戻れる、戦っている間だけとはいうもののやはり心の準備がいる。俺は掌に収まるサイズに小さくしてある変身ステッキを見つめたまま、躊躇いながらも息を吸い込み。
「つーか、アキラ何やってるんだにゃ?」
「うおわぁっ?!」
足下から聞こえた声に仰け反ってすっ転んだ。
「っ痛ぅ」
「酷いにゃあ、そんなに驚くことないと思うにゃ」
「いやいや、急に声かけられたら驚くだろ。ましてや相手は猫だぜ猫……ってミケか?」
よくよく考えれば、居て当然なのだ。ゲームではここで災厄の分割体の幼体が出現し俺達はその討伐に
来たはずだったのだから。
「他の誰に見えるにゃ?」
「田中さんちのハッサクとか?」
「そこで疑問系にしたことにツッコむべきかにゃぁ?」
「いや、そこはどうでも良いんだ。それより、お前もこっちの世界に?」
思わずゲーム内のノリのまま対応してしまったが、どうやら俺以外にもこっちの世界に来てしまったプレイヤーは居たらしいと俺は安堵したのだが。
「こっちの世界? 何のことにゃ?」
「は?」
「ミーティングのあとしっかり寝たかにゃ?」
何言ってんだこいつという目で見てくるミケは、俺をからかっている訳ではないようで呆然とした俺を眺めながら「にゃ?にゃ?」と首を傾げていた。
●一人だけの孤独
(ちょっと待て、俺以外に中の人はいねーってのか?!)
中の人、つまりはプレイヤーのことだが、この分だとミケが今居る世界をゲームの世界だと認識していない可能性がある。
(いや、してねぇだろうな。ってことは知り合いが居るようで独りぼっちかよ)
贅沢な望みなのかもしれない。たいてい異世界にほっぽり出される何て話なら、主人公は知り合い一人居ない世界に放り出されるのだ。
(そうだよな、キャラとしての認識だとしても、知己の存在が多数居る俺は恵まれているはず)
だいたいウジウジしている余裕もないのだ。
「ミケ、他の奴は?」
「そろそろここに来るはずにゃ。それで、ペアを作ったらミーティング通り、誕生点を囲むように展開するにゃ」
(そう、だったな)
寝る前に見ていた相談では、二人一組で幼体が出てくる場所を囲い、時計の針を見つつ、出現五分前にご都合結界を展開という流れだった。
(ん、ちょっと待てよ……参加者にはイラスト無ぇ奴居たよな?)
PBWではキャラクター外見もプロのイラストレーターにお金を払って作成して貰うのだが、キャラを作った時点で付いてる訳ではなくキャラが出来た後作成を依頼する形になる。プレイヤーの中にはイラストを頼まない者もいればイラストが作成中というキャラも居る訳で。
(ミケはともかく、イラスト無い奴の顔ってどうなってんだ?)
全く見覚えのない顔が来るのか、それともキャラとしての記憶が浮かび上がってくると言ったご都合主義展開が待っているのか。
(気になる、気にはなるが……)
近づいてきた人を仲間だと思って手を振ったらただの通行人だった何てことになった日には。
(ミケの反応を見て判断するっきゃねぇな)
恥をかかない為にもと俺は心に決めたが、世界は思ったより優しいらしい。
「お待たせ」
向こうの方から声をかけてきたのだ。
「おお」
俺は笑顔を作って顔を上げ。
「こっぶっ?!」
手を振ろうとして、吹いた。
(ちょっ)
「えっ?」
「おま、人の顔見て吹くとか……」
(ちょっと待てぇぇぇっ)
やって来た仲間の姿は、一言で言うなら推理漫画の犯人。目しか出ない一体型の黒い全身タイツでもはいたらこんな外見になるだろうという男女が合計四人。頭の上に名前とキャラクターの管理IDが浮かんでいるのは誰が誰だかはっきりさせる為だろうが、酷すぎる。
●驚きの
「悪ぃ、悪ぃ」
ぶちゃけ、これで吹くなとか罰ゲームだと思う。
(それはそれとして、今は良いが戦闘になっても判別出来んのかよ、あれ)
激しく動き回る仲間の頭上にある文字を俺の動体視力は捉えられるのか。
(つーか、戦闘時頭上に体力バーとか出てももう驚かねぇぞ)
そもそも、その前に魔法少女化がある。
「ところでそろそろ時間だにゃ。準備はいいのかにゃ?」
「おうよ」
「あんまりグロいのじゃないといいな」
「ま、しゃあないよ。これがお仕事さね」
ニヤリと笑った男、眉を顰めた少女、肩をすくめた青年、誰もが仲間でぼやいた少女でさえ変身して戦う覚悟は出来ている。
(なら、俺だけ躊躇う訳にゃいかねぇだろうがよ)
だから、俺は。
「それが業だろ? 俺達のよ」
とゲームの中の俺、キャラクターがいつもしているような反応を返そうとした。
「お?」
いや、口に出して言ったはずなのに仲間達から反応はなく。
「なん……お、おい!」
それどころか仲間達は彫像になったかの様に固まって動きを止めていた。
「何だよこれ、何で止まってやがる?」
狼狽えた俺は思わず周囲を見回し。
「『プレイング』ヲ入力シテクダサイ」
「うぉっ」
機械的な音声と共に現れたキーボードと透明なウィンドゥに思わず仰け反った。
「プレイング……だと?」
どうやらゲームの世界だけあって行動もゲームと同じ、と言うことらしい。
「っくくく……ははは、っはーっはっはっはっは」
この時、俺は笑いをこらえきれずにいた。
「上等だ。やってやろうじゃねぇか」
超人的なスペックを持った身体を渡されてもゲーム内のように動けたかどうかはわからない。だが、ゲームのようにプレイングを書くだけで良いというなら。
「制限時間ハ72時間デス」
「長っ!」
思わずツッコんでしまったが俺は悪くない。
「つーか、そんなとこまでリアルにすんなよ」
本来ならこの期間に他のプレイヤーと相談したりしつつプレイングを書き上げるのだが、プレイヤーの居ないキャラクター達は時間が止まったかのように固まってしまっている。
「どーすんだ、この時間」
流石に72時間は時間が余る、間が持たない。
「はぁ。まあ、白紙は拙いしとりあえず書くか……」
ため息をついて肩を落とした俺は、キーボードに手を伸ばし。
「アキラさん」
「うん? はぁっ?!」
「こっち、こっち」
あんぐり口を開けた俺に手を振るのは、他の仲間達の影になった犯人ビジュアルな少女だった。
いかがでしたか?
本作はなろうコン応募の為に書き上げた作品です。
後編はいよいよ化け物とのバトルが待っている予定。
さてさて、後編に続きます。