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第1章 さよなら

思い出せ、事の成り行きを。何処から日常が崩れたのかを。

そう、いつもと変わらないはずだった。

いつもの様に公の家に遊びに来て、いつもの様に馬鹿げた他愛のない話をして笑いあって、そして今日は公がパズルの得意な俺におかしな立方体を見せた。

それはガラスの様な物で出来ていて透明で、微妙に6つの色が全ての面に規則的に並びモザイク工芸の様な模様になっていた。

俺にはそれが直ぐにルービックキューブの類似品と解り、簡単に解けた、解けた、から、

 

「私にも見せて、ね?出来たんでしょルービックキューブ。」

 

混乱の中記憶を辿っていた俺は、声をかけられ初めて傍に女がいることに気付く。

血の海の中に漬け込んだ様な髪と瞳が、俺を更に恐慌状態に追い込む。

そうだ、この女が何処からか現れて、公、を、

 

「お前、が……公を、殺した、の、か……?」

 

「あれ、気付かなかったの今の今まで」

 

ぺろり、と艶かしく舌が唇を撫でた。

さっきと違うのは、彼女の舌が彼女の唇を嘗めたのではなく、彼女の舌が俺の唇を嘗めたところ。

それを認識し目を見開いた途端、至近距離にある彼女の血色の瞳が、笑った。

 

「やぁだキサイチ君毎回反応鈍いね」

 

くすくすと笑う彼女に反応出来ない程更に混乱し、ただ絶望の波が次から次へと面白い位押し寄せて来るのを、何処と無くイメージしていた。

 

 

 

***

 

 

 

段々感覚が戻ってくると、殴る気も罵る気も起きてこない、無力な自分が腹立たしくなってきた。

本能が悟ったのだ、コイツはヤバいと。

到底敵う相手ではないと。情けないにも程があるが。

 

「キサイチくん?」

 

落ち着きを取り戻したのを見計らった様に彼女が口を開く。

あまりの脳天気な笑顔に呆れ、ふと疑問が浮かんだ。

「……何でお前俺の名前知ってんだ?」

「覚えて、無いの?」

まずいことを聞いたかもしれない。そう思った。

「……ねぇ、普通手当しようとか助けを呼ぼうとか思わないかな?コレ。」

「!!」

まるで野暮な質問をした報いだとでも言うように冷静に問われた。

しかしそのお陰でようやく気付いた俺は、混乱し過ぎていたとはいえ最優先事項を見逃すなんて……と唇を噛みながら、公の、身体にそっと、そっと手を伸ばす。

「……」

何と無く気付いては、いた。

公の身体は人にあるまじき冷たさを持っていた。

きっと最初から助からないと無意識に感じていたに違いない。

そうでないと、そうでもないと、自我が壊れてしまいそうだった。

友達を見殺しにしたなんて、そんな訳が無いと、信じ込むしか無かった。

脆弱な精神を保つ為に自分に言い訳をした。

それは罪悪感は軽くなれど自己嫌悪は募り、押し潰されるに変わりは無かったが。

「……まさか自分が殺したとか思ってる?それは間違いだよ、私がこっち出てくるには神殿守サマの命が必要だったの」

「しんでんもりさま?」

「私、柚こと神様は、彼、公圭介クンを始めとする神殿守様方に崇められるべき存在でありました、形式上は」

「……は?」

「だから私は神様なんだって」

「……はぁ?」

「で公クンは神殿守サマ」

「……はぁ」

こいつはそんなに俺を混乱させたいのか。

もうこれ以上は詮索するのはよそうと心に決める。それより今は公を……

「信じらんないと思うけど……くるよ」

俺の思考を見事に断ち切り彼女が指差した先にはドア。と同時にそのドアが裏返る。

 

「お前等だな!!神殿守様をやったのは!!」

 

映画に出てくる様な全身黒で揃えた、スーツにサングラスの男が数人押し入ってくる。

明らかに憤怒の表情をした厳つい奴らだ。

もう、何をどうすればいいのか全く解らなくなり、その場にへたりこむ。

友人の人生と共に、自分の平和も終わってしまったと嘆きながら。

 

「立って」

 

肩が抜ける位、腕を引っ張られ無理矢理立たされる。

自分より明らかにか細い腕に。

そして慌てた男達を擦り抜けて、彼女は俺を掴みながら有り得ない速度で前に跳躍しドアを抜けた。

しかし抜けた先にあるはずの廊下は無く、そこは何故か森の中。

「そうそう。ここは何処なのかは私も解らないよ。……あ、まだ罪悪感に捕われてる訳?馬鹿じゃないの。殺したのは私、そしてあんたは罪を着せられたの」

「お前……っ」

「仇を取るならいつでもどうぞ?」

「絶対……お前を許さないからな!!」

くすくす笑う彼女に、罪悪感が殺意にすりかわったのが解った。

単純だと解っていても、罪悪感は消えてくれなくても、立ち上がる気力は沸いてくる。正しいかはまだ解らなくても。

嫌な空気の流れる森の中、大切な友人に心の中で呟く。

助けられなくてごめんな、と。

弔いすら出来なくてごめんな、と。そして、さよなら、と。

 

そんな彼には、彼女が

「哀愁より憤怒の方が生きる力になるでしょ……」

と呟いたことは、全く聞こえてない。その時の表情も知る由は無かった。

 

目の前にはこじんまりした館。

そこへ取り敢えず行くらしい。

こうして……どうしてか仇敵との森脱出が始まった。もう一度何かに何かの為に呟く。

 

あぁ、さよなら。

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