アリスの叶わぬ恋
わたしの名前はアリス。
お祖母ちゃんと一緒に暮らしてる。
お祖母ちゃんはちょっと有名な魔女なの。
だけど、人からは変わり者で通っている。
わたしから見たら、とっても良いお祖母ちゃんなんだけど。
どこが変なのか分からない。
優しくて大好きなお祖母ちゃんよ。
わたしは今、大好きな人がいる。
その人は、この国の王子さま。
お祖母ちゃんは止めなさいっていうの。
お前がつらい思いをするだけだよって。
でもいいの。わたしは王子さまが好き。
それは、悪いことじゃないでしょ?
叶わぬ恋だっていいでしょ?
王子さまはとっても優しいの。
わたしがお城の中庭にこっそり忍び込んでも怒ったりしないの。
わたしを見つけると、嬉しそうに笑ってくれる。
「また来たのかい」
って優しく頭をなでてくれるから。
だから、わたしは王子さまが大好き。
昨日はね、王子さまにお花をプレゼントした。
裏庭で咲いていた野菊だったけど、王子さまは喜んでくれた。
代わりにわたしの頭にバラの花を挿してくれたのよ。
得意になって、町の人に見せたらみんな笑ってくれた。
「王子さまは優しいね」
ってやっぱりみんなもそう思うよね。
だって本当に王子さまは優しくて素敵な人だもの。
そんなある日、隣の国の王女さまがやってくるという噂を聞いたの。
なんでも王子さまと婚約するんだって。
わたしは泣いた。
一晩中泣いた。
お祖母ちゃんが慰めてくれたけど、悲しい気持ちは消えなかった。
だからね、わたし決めたの。
王子さまに好きになってもらおうって。
隣の王女さまじゃなくて、アリスと婚約してもらおうって。
お祖母ちゃんの作った魔法の薬を使おうって決めたの。
それは惚れ薬。
ずるい手だって分かってる。
でも、このまま何もせずにはいられなかったの。
お祖母ちゃんが、裏山に薬草を取りに行っている間、わたしは棚からその薬を取り出した。
ごめんね、お祖母ちゃん。
いつもの抜け道を通って、お城の中庭に忍び込んだわ。
急いだから、頭に草がついちゃった。
それを振り払って取っていたら、そこへ王子さまが来たわ。
王子さまは、わたしの頭についた草を一緒に取ってくれた。
やっぱり王子さまは優しい人。
わたしは王子さまに惚れ薬をふりかけた。
王子さまはびっくりした顔をしたけど、笑ってくれた。
さあ、最後の仕上げ、王子さまにキスをする。
そうすれば、王子さまはキスをした相手を好きになる。
わたしは王子さまに抱きついてキスをしようとしたの。
でも、王子さまは抱きついたわたしを軽々抱き上げて、その胸にわたしを抱いて言ったの。
「こら、ずいぶん今日はお転婆さんだな」
うん、ごめんね。でもキスをさせて。
じたばたあばれたら、王子さまがバランスを崩して、ひっくり返った。
「大丈夫ですか!?」
と声がした。
それは隣の国の王女さまだった。
王子さまは、王女さまに笑っていったわ。
「ああ、大丈夫ですよ」
王女さまは、わたしを見て言ったわ。
「あら、可愛いわね」
うぅ、あなたはわたしのライバルなのよ。邪魔しないで。
わたしが睨んでいるのに、王女さまはお構いなしにわたしに近づいた。
そして、わたしの頭を他の人たちがするように撫でた。
うぅ、止めてよって、わたし王女さまに叫んだ。
そしたら、王女さまは驚いて倒れそうになったの。
倒れそうになった王女さまを、王子さまが受け止めたわ。
そしたらなんてこと!
王子さまと王女さまの口と口がぁ――――キ、キスしちゃった!
王子さまが王女さまを見ている。
とても熱のこもった目をして。
そして、言った。
「あなたはとても美しい」
王女さまも、頬を染めて嬉しそう。
ガーン。
完全わたしお邪魔虫。
ダッシュでおうちに帰ったわ。
大泣きしているところにお祖母ちゃんが帰ってきたわ。
「おやおや、アリス、どうしたんだい?」
わたしはお祖母ちゃんに今日のことを言ったわ。
ごめんなさい。
惚れ薬を勝手に持っていっちゃった。
でも、王子さまと王女さまがキスしちゃったって。
王子さまが王女さまを好きになっちゃったって。
そうしたら、お祖母ちゃんは言ったの。
「辛い思いをしちゃったねぇ。でもね、アリスよくお聞き。お前が惚れ薬を使ってもね、王子さまは、お前に恋はしなかったろうよ」
どうしてってわたしは聞いたわ。
そしたらお祖母ちゃんはこう言ったの。
「だってアリス、お前は猫なんだから」
そう言われてわたしは、お祖母ちゃんの膝の上で丸くなって泣いた。
「おい、あの婆さん。また猫としゃべってるぞ。本当に変わり者だなぁ」
わたしの名前はアリス。
お祖母ちゃんと一緒に暮らしてる。
お祖母ちゃんは猫のわたしと会話をする。
だから、人からは変わり者で通っている。
優しくて大好きなお祖母ちゃんよ。
完。