96.帰還祝い
僕達の取材旅行はようやく長い旅路を終える。
暖かだった中国地方とは違い、この土地の季節は既に秋であった。
目に映る紅葉は艶やかであり、辺りを漂う空気もきりっとした冷たさを感じさせる。
会長の屋敷前。長い塀の前には、朝から地元の人々が数多く並んでいたと言う。
ナリタ会長は、僕達の到着を待ちわびて集まった人々の為に、急ごしらえの仮設テントを敷地内にいくつも並べ、地元のみんなに暖かいうどんやお茶を配ったのだ。
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秋風と共にナリタ会長の屋敷へと帰還した僕達は、地元の人々の暖かい歓迎を受けた。
車から降りた僕達は集まってくれた一人一人と握手をした。
「お帰り」「よく帰ったね」「待ってたよ、タロちゃん」みんなが優しく声をかけてくれる。
僕達は少し涙ぐみ、そして笑顔になる。
(マコさんだけは用事があって来れなかったらしい。それが寂しい)
「さあ、タロさん。そして猫山さん。タジマとツヨシ。みんなよく顔を見せてくれんか」会長は僕達に抱きついて喜んでくれた。
いい顔をしとるわい。そう言って会長はツヨシをしげしげと見つめる。目を細め優しく微笑む会長。
「わしらは最高の仲間ですわ」猫山さんが言う。堂々と、誇らしげに胸を張る猫山さんを見て、会長がびっくりしている。
何があったのかと会長が僕に聞く。旅が彼に自信を与えたのですと僕は答えた。
その通りです、とタジマも頷く。
「でも一番変わったのは、タロちゃん、あなたでしょうな」
会長は何かを見通しているかのようにそう言って微笑んだ。
ひとしきり挨拶も終わり、即席の会場では上映会が始まった。
-”DJタロと不思議な冒険”-
ひときわ大きなタイトルロゴがテントのスクリーンに投影され、僕達の旅の軌跡がダイジェストで流れる。
(これが今日のイベントとなっていた)
「上映会が終わったら、タロさんの手料理をお願いできませんかな」と会長は言う。夜には地元のみんなは帰るそうだ。
「もちろんいいですよ」僕がOKサインを片手で示すと、ガッツポーズをしたのは会長だけでなかった。(タジマもツヨシも猫山さんもである)
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上映会も終わり、人々が徐々に帰り始める。
辺りは宵闇に包まれ、頭上には月と星が輝き、秋の虫が鳴き始める。
僕はテントの外で大きな月を眺めていた。
月にはウサギと杵突きが見えると言う。
(月の表面の斑紋を眺めているうちに、本当にそんなふうに見えてくるのが不思議だ)
家に帰ったら、と僕は想う。
マコさんに電話をしよう。