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タロと今夜も眠らない番組  作者: シュリンケル
第三章
92/123

92.取材旅行37(取材と守り)


 食事を終えた僕達は、昨夜の計画を綿密に確認しあった。


-そして、収録が始まる。


 次元を戻した世界で、僕達は冠山の(ふもと)を訪れる。

(そこには本物の廃村が存在している。一族がもしもの為に確保しているのだ)


森山夫婦がダミーの一軒に住んでいる。


取材車は村に到着する。


取材車に近づく哲夫さん。

僕達は言葉を話す猫を探していると説明する。


 「そりゃあたぶん、うちの”かちゅ”の事じゃね」と森山さんは言う。


やがてカメラの前に”かちゅ”がふらりと現れる。


『にぃぼち~』と”かちゅ”は鳴く。


 「にぼしをねだっとるんじゃ」 静子さんが説明してくれる。

よしよし、と言って”かちゅ”の頭をなでてやりながら、静子さんはエサ皿に煮干を二匹入れてあげる。


『うみゃぃ』と鳴きながらゴロゴロと喉をならす”かちゅ”。


 「いったいどうして話すようになったのですか?」と僕は森山夫婦に金ぴかマイクを向ける。


「そりゃあ、あれじゃよ」哲夫さんが珍しそうにマイクを見つめながら説明してくれる。

「毎日の積み重ねじゃ。”にぼしがうまいか?”と問いかけ続けるんじゃ。まあ、五年は掛かったがねぇ」

感慨深そうにそう話す哲夫さん。

なかなかの演技力である。


 「いやあ、ようやく”伝説の猫”に出会えましたわい。ありがとう。ほんとうにありがとう」

サングラスをかけた猫山さんが収録の最後をうまく纏めてくれた。


---


「カァ~ット!!」

撮影現場にタジマの声が響き、僕達はみんなで抱き合う。喜びを分かち合ったのだ。


うなん、とかわいく鳴く”かちゅ”。


「ありがとうね。おかげで良い映像が撮れたよ。かちゅの演技も大したものだったね」

そう言って”かちゅ”を抱きしめる。

かちゅの鼻にキスをする。


-背中越しに強い視線を感じて僕は振り向く。


「あたしを忘れてるわよ」

エレーンが長老と共に取材車の陰から顔を出す。

はっとした表情で”かちゅ”は僕の両手から飛び降りる。


 彼ら(長老とエレーン)を収録から外したのには理由があった。

守るべき本物は村と共に守らねば(隠さねば)ならないと、僕達は考えたからだ。

取材が放映された後、好奇心に駆られて心無い人々が村を探すであろう事を、僕達は危惧したのだ。


そう説明した僕に、長老は深くお辞儀した。


「ありがとう。あんたは一族の恩人じゃ」そう言って僕を抱きしめた。

くすぐったいよ、長老。


 そして長老がエレーンを見つめた。

「タロさんに一つ頼みがある」彼はとても真剣な顔を僕に向ける。

エレーンも僕を見つめる。


吉和冠山から吹き降ろす風に吹かれながら、僕は彼らの言葉を待った。



 「タロちゃん」とエレーンが言う。

首をまっすぐ伸ばして。

まあるい瞳で。


「あんた、帰っちゃうのね」

エレーンは言う。

「ここから居なくなるのね」


そうだね。と僕は言う。


「”天狗”は”鷹”となってタロちゃんを加護しているのね」

そうらしい。と僕は言う。


「じゃあ、あたしも連れて行きなさい」


エレーンはきっぱりとそう言った。


風が強く吹いていた。



おいで、と僕は両手を広げる。

エレーンが長老の肩から、僕の両手に飛び込む。

僕はエレーンの鼻にキスをした。


「これも運命じゃ」そう言って長老が笑った。


ふぉっ、ふぉっ、と長老の笑い声は続いたのだ。


挿絵(By みてみん)


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