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タロと今夜も眠らない番組  作者: シュリンケル
第三章
90/123

90.取材旅行35(即席のステージ)


 音楽が聴きたい。


踊り終えた猫一族は口を揃えてそう言う。


いいだろう。

僕は強く頷き、取材車からCDラジカセを持ってきたのだ。



森山家にラジカセを持ち込むと、村のみんなが首を長く伸ばして覗き込む。

猫達は鼻をひくひくさせて、しきりに確認している。

「爆発とかはしやせんのでしょうか?」森山さんの奥さん(静子さん)が心配そうに伺う。

大丈夫ですよ、とツヨシが言う。僕達も頷くとようやく安心したようだ。(猫達は一斉に毛づくろいを始めた)


 やがて部屋の中に音楽が流れる。

-ザ・クリスマス・ソング-ナットキングコール


おぉっ、と猫族が歓声を上げる。

「雪の音だ!」「ほんとね!雪の中にいるみたい!」

猫の感性はさすがである。(この曲には雪の積もる音をミックスしていたからだ)


 良い曲は時代を超えて心に響く。


森山家はその夜、即席のステージとなったのだ。


-WHAT YOU WON'T DO FOR LOVE -ボビー・コールドウェル

猫達のダンスが再開する。彼らはうっとりと揺れている。


-リヴィン・イット・アップ -ビル・ラバウンティ

とても気分がいいのだろうか、お腹を見せて寛いでいる。


-愛の夢第3番変イ長調S.541-3-(F.Liszt)

彼らの動きが止まる。耳だけを大きく掲げて。目を細めて聞き入る。


「ぴあの」と”かちゅ”がささやく。

暖かく、幸せなピアノの音色が部屋を満たした。

猫達は静かに涙を流していた。



 「タロさん、改めて礼を言わせてくれんか?」長老が潤んだ瞳で僕に言う。

どうしたんです?と僕は聞く。

「うれしいんじゃ」長老は言う。日本酒を舐めながら。


「鷹の紹介とはいえ、わしらは正直言うと心配じゃったんよ。

ここまで守ってきたわしらの秘密。それを壊されるのが怖かったんじゃ。

いくらわしでも、隠すのには限界があるしのぅ」


わしらが長い年月をかけて守ってきたのは、”愛”なんじゃ。

長老の言葉に猫一族が続く。

「そうよ」「あたちたちは愛そのものなの」


よく分かります、とタジマが頷く。

誰にもジャマはさせませんぞ、猫山さんも真剣である。


 「問題は」とツヨシが口を開く。

「取材を放送して、ここが危ない目に合わないようにすることだよね」

ぼくはツヨシの肩を抱き、その通りだよと言った。

そうして僕は取材の計画をみんなと相談したのだ。

真実を伝えつつ、みんなを守るべき計画を。


「それでは、明日取材しますからね。みなさんご協力をお願いします」と僕は頭を下げた。


 みんなは僕の提案を喜んで受け入れた。

ようやく安心した彼らは再び踊り始めたのだ。


-リベルタンゴ-(Yo-Yo Ma)

チェロの音色に合わせてしなやかにしっぽが踊る。


たくさんの夜の虫とカエルたちが合唱する山の中で、僕達の宴は続いたのである。


挿絵(By みてみん)


実在の地名その他が出てきますが、細部は作者の創作です

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