9.会長とタジマ 1
2000年、夏。
今日は休みだ。
マキの親父さんとおじさんは、
相変わらず人懐こい笑顔で遊びに来てくれる。
仕事も忙しいだろうに。(あんまり忙しくなさそうだけど)
ローカル局のDJタロは、思っていたより人気が出てきたらしい。
この町にあんな時間まで起きている人がいるのが不思議だけれど。
先週は”超常現象研究会”なるグループの人たちがDJブースに遊びに来た。
スプーンが曲がったとか、写真に人影が写ったとか喜んでた。
この場所はパワースポットに違いないとか、深夜に活動していることが作用してるに違いないとか。
怖いっての。
休みだからといっても、特に予定があるわけでもなく、リスナーさんたちから局に届けられたメッセージを読んでみたり、選曲してみたり。。。気が向いたら"UFO研究会"に遊びに行くかも。
・・・結局僕は、その研究会を尋ねて行くこととなった。
局に問い合わせたら僕の自宅をすぐに教えてくれたと”研究会”の会長さんは電話の向こうで笑っていた。
(教えたのはおじさんに違いない)
電話で教えてもらった住所まで自転車で尋ねて行った僕は、しばらく呆然と眺めることになる。
その建物は住宅街を抜けた海のそばにあった。
あったというか、塀があった。
住所は間違いないのだけれど、その塀は住宅街のはずれに突如として現れて(そんなふうに見えたのだ)、なだらかな坂に沿ってその外壁をはりめぐらしていた。
はあはあと息をつきつつ、外壁の向こうまで坂を上ったところで、”お待ちしておりました”と声がかかった。
”タロ様ですね。そのまま塀を曲がったところが正門前です。”
塀越しの松の木あたりから重々しい声が聞こえる。
よく見てみると、学校に設置されているような形の拡声器が確認できた。
せみの鳴き声の多さを考えると、塀の向こうには森があるのではないか。
塀を曲がってみると、さっきと同じ光景が広がっている。
せみの鳴き声はさらに増えたような気がする。
いいかげん帰ろうかと思ったあたりで、やっと正門に到着した。
「いやあ、自転車で来るって聞いてたけど、ずいぶん早かったですねえ。
そこまで迎えに行こうかと話してたところなのに。がははは」
太陽の下で見る会長さん。
草履に着流しの和服。
きれいなスキンヘッド。
先週遊びに来たときとは同一人物とは思えない。
こ、怖い。
乗ってきた自転車は、会長さんの愛車(黒塗りベンツ)の隣にうやうやしく駐車された。(倒れなきゃいいけど)
「会長がお世話になっております。わたくし、秘書のタジマです」
僕に自転車キーを渡してくれたタジマは、サングラス越しに一礼する。
しわ一つない黒服スーツが長身によく似合っている。
怖い。
先週遊びに来たときのタジマさん御一行はアキバ系だったのにぃ。