82.取材旅行27(長老とエレーン)
『あんたがタロちゃん?』
長老がエレーンと呼んだ猫は、そう僕に話しかけた。
「僕がタロです。あなたはエレーン?」僕は彼女に聞いてみる。
『まあ、ずいぶんといいオトコなのねえ』
エレーンは長老の肩からひらりと舞い降りると、僕たちの座るテーブルに飛び乗った。
『都会の匂いがするわね』エレーンはそう言うと僕たちの匂いを順に嗅ぎまわる。
『合格よ、長老』
エレーンはかわいい声できっぱりとそう言って長老を振り向く。
そして僕に向き直ると顔を寄せてくる。
ゴロゴロと喉を鳴らして。
エレーンは僕の鼻をざらりと舐めて・・・ウインクした。
それが彼らのテストだった。
僕たちは許されたのだ。
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不思議なほどにお腹が空いていた。
何か食べましょう、と僕は提案する。
何が食べたいですか、と長老とエレーンに聞いてみた。
エレーンは長老に向かって何かを訴える。
長老は ふぉっふぉっ と笑う。
「ミルクが飲みたいと言うとる」 長老がゆったりと笑う。
エレーン的には、自分から言うのは抵抗があるらしい。
エレーンに少し薄めたミルクを皿に差し出して、僕は食料庫から鳥のささみを取り出す。
鍋で鰹節と共に煮てみる。
長老は柔らかいものが好きだと言う。
僕は冷凍しておいた白いご飯を鍋でだしと共に煮る。
溶き卵を流し込んでお粥を作る。
テーブルにみんなと長老とエレーンが仲良く座り、僕の配膳を待っていた。
「いたーだきまーす!」 長老もエレーンも、他のみんなに負けない食欲を見せていた。
食料庫からソーセージを取り出して、醤油で軽く和えて出してあげる。
エレーンは一本のソーセージを咥えて窓辺に飛び乗る。
かなり気に入ったようだ。
「にぼしがありますよ」と僕は言う。瞬間、長老とエレーンが同時に僕を見つめる。
とても強い視線で。
おもしろい。
「にぼし」
僕が言う。二人(長老とエレーン)がびくりと反応する。
「煮干、食べませんか?」
僕が再び聞いたとたんに、二人が同時に僕の目の前に飛んでくる。
長老。 動きがとても早いです。
僕はコンロで煮干を軽く炒め、冷ました上で彼らに差し出す。
『合格よ!』
エレーンが言う。
「合格じゃ」
長老が頷く。
僕たちはお互いに顔を見合わせて微笑んだ。
僕たちはもう、大抵の事では驚かなくなっていたのだ。