81.取材旅行26(長老1)
ふぉっふぉっ、と笑う老人。
彼は自分が”長老”だと言った。
僕はひとまず長老にお茶を出し、タジマと猫山さんを起こしたのだ。
「いや、すみません。寝坊してしまいました」とタジマさん。(彼の寝坊は生まれて初めてだと言う)
「わしもです」と猫山さん。(彼はいつもの事である)
キャビンにみんなが揃ったところで、僕たちは長老に自己紹介をした。
挨拶を受けては、ふぉっふぉっと長老は笑う。
長くてふわふわした髭がその度に揺れる。
長老は笑顔でみんなを見回した。
「守りの村と森の村」と長老がゆっくりと口を開いた。
そうして長老のお話は始まったのだ。
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「わしが長老じゃよ」
長老はゆっくりとした口調でそう話す。
「わたしらの村はのぅ、普通の人には見つからんようになっとるんじゃ」
ゆっくりと熱いお茶をすすり、ゆっくりと腰にひっかけたタオルで口を拭く。
(タオルには潮原温泉のロゴが入っている)
「聞きたいことがたくさんあります。どこから聞けばいいですか?」と僕はみんなを代表して問いかけた。
「まあまあ、あせらんでええけぇ」
そう僕を諭すと再びお茶を飲み始める長老。
「この土地はどうじゃね。肌に合いましたかの?」
そう言いつつ長老はゆっくりと立ち上がる。
非常にゆっくりとした動作でキャビンの窓辺へ移動する
長老のために僕は窓を開ける。
開かれた窓からはきらきらと輝く太陽が差し込み、思わず僕たちは目を瞑る。
「エレーンを紹介しちゃるけぇね」太陽を背にした長老は杖をまっすぐに掲げた。
さらに太陽光は強くなる。僕たちは眩しくて顔を覆う。
しばらくの後、光は収まる。
「エレーン。さあ挨拶しんちゃい」
長老がそう言うと、彼の背中から一匹のネコが姿を現した。
その猫はゴロゴロと喉を鳴らし、長老の顔に身体を擦り付けては甘える。
かわいい。
「こんにちは」と僕は怖がらせないようにお辞儀をした。
猫は長老に身体を預けたまま、しばらく僕を見つめた。(喉のゴロゴロは聞こえなくなっていた)
『あんたがタロちゃん?』
僕たちは口が聞けなかった。
猫がしゃべるのを初めて見たのだ。