73.取材旅行18(猫守村3)
ここは隠れ里なのか。
僕たちはわらぶきの家と思われる建物周辺を調査してみる。
電柱一本もなく、井戸の一つも見当たらない。
川もなく、道すらない。
不思議な事に、この一帯だけには大きな木が生えていないようだ。
半径500mくらいの周囲だけが背の高い草木を除いて生えていない。
大きな木がないせいで、青空が頭上一杯に広がっている。
そして意外な事に、この場所は涼しかった。
まるで近くに川が流れているかのようである。
「どうしてここだけ木が生えていないのかな?」僕は猫山さんたちに聞く。
「かつて開拓されていたと考えるのが自然でしょうが、不思議ですな」
猫山さんが答える。
とりあえず家の中を見てみましょう、とタジマが歩き出した。
僕たちも後に続いた。
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家の入り口の扉は藁と竹で編んだものだった。
家全体の素材も似たような感じである。
僕たちは扉を開けて内部に入ってみる。
玄関のたたきは土のままだ。
壁部分はしっくいで塗り固めてある。
その奥に部屋があるらしいが、思ったより真っ暗である。
部屋部分に足を踏む入れてみるも暗くてなにも見えない。
「何も見えませんね」僕はみんなを振り向く。
しかし、みんなは動かない。
誰も話さず、一点を見つめたまま。
僕はようやく異変に気づく。
ゆっくりとみんなの視線の先を辿り、顔を向ける。
暗さに慣れてきた僕の視界に映るのは、たくさんの光る点であった。
それが猫の目だと気がつくまでしばらく時間がかかったように思う。
『ここが猫守村だ』
僕のすぐそばにはいつの間にか”鷹”が浮かんでいた。
僕は反射的に腕を高く伸ばす。
拳を握り、親指を硬く伸ばす。
暗闇の中で、鷹が僕の指にふわりと留まる。
猫たちがうごめく。