72.取材旅行17(猫守村2)
岩の間からは、風が吹き込んでいるようだった。
近づくにつれ、先程から聞こえていたぼーぼーという低音も大きくなる。
僕がその入り口をくぐった瞬間、吹き込む風が強くなった。
どこかで猫の鳴き声が聞こえた気がした。
それは僕の思い込みなのだろうか。
僕はとっさにみんなを振り返った。
みんなが目を丸くしている。
やはり聞こえていたんだ。
そうして、僕たちは洞窟に入っていったのだ。
洞窟の内部は真っ暗でひんやりとしていた。
ツヨシがビデオカメラの明かりを灯し、タジマがみんなにスティック状のライトを手渡す。
内部の岩肌が不気味に浮かぶ。
岩の間に伸びた道は、少しずつ下方へ傾斜を帯びていた。
どうやら僕たちは地下道のような道に進んでいるらしい。
洞窟の岩肌を触るとツルリとしている。
猫山さんにそう伝えると、ライトを近づけて調べてくれた。
「もしかしたら、ですけど」自信なさそうに猫山さんが口を開く。
「人為的に作られた洞窟なのですかな」
どういうことなんだろうと考え込む猫山さん。
「雨や川によって自然にできたとも考えられないですかね。なにしろここは山頂ですし」
タジマが言う。
それが正しいのかもしれない。
でも僕たちには分からない。
それならば、前に進むしかないのだ。
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「人為的に作られたとすれば」とタジマが言う。
「これは相当な技術が必要ですな」
猫山さんが補足する。
彼らが言うには、誰も目の触れることのない部分にも関わらず精巧に研磨されているらしい。
「ここまで高い技術を用いてなぜ入り口があのように粗末であるのか。それが不思議でならん」
猫山さんは立ち止まったまま思考に耽る。
とりあえず先に進みましょうと僕は促した。
僕たちはその前に探るべき問題を抱えているのだから。
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さらに30分ほど進んだところで、洞窟の出口が唐突に姿を現した。
傾斜を考えるに、かなり山頂から下った計算になる。
僕は思う。
”ここはいったいどこなのだ”
僕たちの眼前に広がる景色は今までの山の様相とかなり異なっていた。
「どこかで見たことがある」とタジマが言う。でもそれが思い出せないようだ。
僕たちはひとまず周囲を探索する事にした。
先頭を僕が歩き、背よりも高く伸びた葦のような草木を払う。
次の猫山さんが行きべき方向を指示し、さらに草木を払って歩く。
後ろをツヨシが撮影したまま付いて歩く。
タジマはツヨシをサポートする。
洞窟の出口から少しずつ離れるにつれ、僕たちは気がつく。
進む先に見える山は冠山だった。
「洞窟の出口は冠山ではなかったんですかね」僕は聞いてみる。
「どうやらそのようですな」猫山さんが唸る。
僕たちは立ち止まり改めて辺りを見回す。
冠山の途中から別の山に繋がっていたらしい。
「洞窟が人為的に作られたものだとすると・・・こりゃあ隠れ里かもしれんな」
猫山さんの説にタジマもうなずく。
「その証拠に、あれを御覧なさい」
猫山さんが大きく指し示す先を僕たちは振り返る。
たくさんのトンボが飛び交い、草木の生い茂るその先に、
幾つものわらぶき屋根が見えていた。
僕たちは”猫守村”を見つけたのだ。




