71.取材旅行16(猫守村)
カップラーメンのランチを終えた僕たちは、冠山頂上の探索を始めた。
頂上周辺を一回りし、何も発見できない僕たちは猫山さんのアドバイスを伺った。
「大切な物を隠す時、誰も興味を惹かない場所を選ぶものですな」と猫山さん。
巨大な岩石を回り込んだ先、生い茂る笹を指差したのはツヨシである。
熊笹の群生を掻き分けたその場所に、それはひっそりと存在していた。
取材であることを思い出し、僕たちは改めて収録をする。
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ツヨシが構えるビデオカメラが猫山さんを捕らえていた。
「タロさん。道中の夢を覚えていますかな?」猫山さんが空を仰ぎ見る。
辺りには風がそよぎ、名も知らぬ鳥が鳴き続けている。
「タロさんは夢の啓示を受けたそうですね。どんな内容でしたかな」猫山さんが促し、ツヨシのカメラが僕を向いた。
僕は夢の通りに復唱した。
『石州街道から上った冠山の頂上には古い祠が祭ってある。祠の脇の細い獣道を辿った先に”猫守村”はある』
猫山さんの指差す先をカメラが捕らえる。僕たちはそこに向う。
群生する笹の裏側は別世界のようだった。
岩肌に寄り添うようにして、その古い祠は祭られていた。
誰にも知られることのないその祠からは長い年月を経た趣が漂っている。
『祠に一袋のにぼしを供えなさい』
鷹の言葉を思い出し、僕たちはお供えをした。
紙皿へ煮干を山盛りにして。
猫山さんがポケットから取り出したのは”またたび”である。
「やはり猫ちゃんですからな」大きく頷く猫山さんに僕たちは拍手する。
そうして僕たちは形なりのお祈りをする。
「猫の守り神さま。僕たちをネコモリムラまでお導きください」
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果たして道は見つかるのだろうか。
岩肌に沿い、僕たちはその奥に入った。
その場所は巨大な岩の内部に通じていたようである。
ぼーっと低い音が絶えず響き始める。
ぱきぱきと笹を掻き分けて岩の裂け目を覗き込む。
生い茂る葉と岩の合間からキラキラと木漏れ日が差し込む。
少し地面は濡れている。
ぼーっという重低音が近くなる。
ここが祠の脇の細い獣道なのだろうか。
そう思い初めたころだ。
空からまっすぐに陽の差し込む場所に行き当たったのだ。
さながらそこはエントランスのようである。
岩と岩の間に2メートルほどの穴が開いていた。
穴のすぐ右脇に何かしるしのようなものが見える。
近づいた僕たちが見たのは、削られた岩に張り付いた魚の化石であった。
「煮干みたい」とツヨシがつぶやく。
僕たちは一同にうなずいたのだ。
”猫守村”の入り口に間違いない。
実在の地名その他が出てきますが、細部は作者の創作です