68.取材旅行13(緊急会議)
にぼし。
僕がお墓参りの後で、最初に口にした言葉だ。
僕は少し混乱していたのだ。
タジマは助手席に座ったところで僕に聞いたのだ。墓地で何かあったのかと。
そうして僕は話したのだ。一瞬の間に見た幻を。
夢の啓示を。
-”猫守村”でなく、”猫森村”-
鷹はそう伝えたのだ。
「面白い」とタジマが顔を輝かせた、ように見えた。
(なにしろ表情に乏しいから一見怒っているようにも見えるからだ)
「車を停めましょう。あそこの空き地でいいです」
少し興奮気味のタジマに急かされて僕は停車する。
そのようにして、キャビンで緊急会議が始まった。
何事かと集まったみんなに、僕は墓地で起こった出来事を説明した。
僕が説明を終えて、しばらくの間、誰も口を開かなかった。
車のすぐそばでたくさんの鳥たちがさえずる。
近くで川のせせらぎも聞こえる。
ごほん、と咳をしたのは猫山さんだ。(いつの間にかサングラスをかけている)
「”鷹”の夢を見たのは今回が初めてですか?」
以前にも見たことがあると言うと、猫山さんはサングラス越しに眼光を光らせた。
「タロさん、それ、非常に大事なことです」
そして僕は、以前見た夢の啓示を説明したのだ。(詳しくは40話「CM製作1(夢の掲示)」にて)
「行きましょう、タロさん。鷹の語る啓示の通りに。
そしてツヨシ君、あなたは今の話をイメージ映像に何パターンかまとめてみてください。
イメージはタロさんから直接聞き取ること。
それから、ここからはタロさんを時々収録して下さい。いいですね」
サングラスをかけた猫山さんは本当に頼もしいのだ。
猫山さんの指示の下に、ツヨシが僕とタジマの間に座った。
時折ビデオカメラで録画をするのだ。
(ドキュメンタリーとして必要だと猫山さんが力説した)
そうして、僕たちは車を進めたのだ。
広島市と山県郡千代田町との境、「猫の七継ぎ松」に向けて。
そして峠から冠山を望むのだ。
進むにつれ、山間を流れる川が遥か下に見え隠れしていた。
僕たちの車の進む音だけが山間に響く。
山の空気が濃くなったように感じた。
運転席の窓を全開にして、僕は深呼吸をする。
ツヨシとタジマも大きく息を吸う。
大丈夫だよ。そう僕が言うと、ツヨシが小さく頷いた。
「猫の七継ぎ松」は近いのだ。
文中のお話は全てフィクションです。
実在の地名も出てきますが、細部は筆者の空想です。