66.取材旅行11(寄り道)
高速道路が広島に入り、しばらく走った時。
タジマが次の出口で一般道に降りて欲しいと言った。
大切な用事があるようだ。
”庄原インター”で僕は高速道路を降りた。
一般道路に入ると懐かしい田舎の匂いが鼻をくすぐった。
「そこを右に曲がってください」タジマは淡々と指示をする。
何か機嫌を損ねるようなことを言ったのだろうか。
タジマは道順だけを指示する。先ほどまでの軽口もない。
「あの・・・」信号で停車したところで、僕は聞いてみる。
「僕、何か失礼な事を言いました?」
タジマは首を振る。
そして信号を指差す。青になっていた。
やがて、山間のとても寂れた山の中腹でトラックを停めた。
タジマの指示である。
「タロさんに黙っていた事があります」
タジマが言う。
「何も言わずに車を降りて下さい」
僕がトラックから降りると、タジマは牽引しているキャビンに入ってゆく。
僕は道中の会話を思い返す。旅行以前の出来事も。
何も悪いことはしてないんだけどなあ。
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やがてタジマがキャビンから出てくる。
その後からみんなが続く。
みんなが笑っている。
僕は立ち尽くす。
猫山さんが、僕に花を手渡す。
タジマが・・・線香を手渡す。
僕は辺りを改めて見渡した。
なつかしい。
たくさんの鳥が歌い、草花が生い茂る坂道を、僕は走った。
登り道の頂上から見えたのは、小さな墓地であった。
取材車が僕を追い越して墓地へ向う。
道の狭間に流れる湧き水から蝶が飛び立つ。
空気が肺に染み渡る。
僕は墓地に向って歩いた。
両親の眠るお墓に向って。
僕が取材車に追いついた時、タジマが笑顔を向けた。
「せっかくですから」
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「どうして知ってるの?」僕はタジマに聞く。父と母のお墓に花を手向けながら。
「出発前にちらっと聞いたんですよ。マコさんから」タジマが頭を下げる。
「隠しててすいません。広島にお墓があると伺って、そこから私が調べちゃいました」
それだけの情報から僕の両親の墓まで調べられるのか。
そのほうが僕にはびっくりだったよ。
なんにせよ、久しぶりのお墓参りである。
僕はありがたく墓前に向ったのだ。
目を瞑り、両親のお墓に手を合わせた時だった。
突然視界が暗くなり、目が回るような感覚が襲う。
それは突然に起こったのだ。