65.取材旅行10(ツヨシの秘密)
サービスエリアを過ぎても僕はハンドルを握っていた。
たっぷり2時間経った頃、タジマが目を覚ます。
「・・・寝てしまいました」バツが悪そうにタジマが言う。
スーパーマンにしては格好がつかないらしい。
「タジマさん疲れてたんでしょう。無理しちゃダメですよ」
頭をかくタジマを見て、かえって好感を持ってしまう。
「タロさんといると調子が狂っちゃうなあ」
タジマはくだけた口調であくびをした。珍しい。
「タロさん。ツヨシをどう思いましたか?」
クーラーBOXから取り出した缶コーヒーを僕に手渡しながら、タジマが尋ねた。
「んー、どうって言われても・・・。少し変わってるかな。距離も感じますね」
何かあったんですかと僕は聞いてみた。
タジマは少し寂しそうにうなずいた。
「タロさんなら彼の気持ちが理解できるでしょうね」
そして、ツヨシの過去を教えてくれたのだ。
ヤクザの抗争から両親を失い、ヤクザを疎む親戚縁者の歪んだ感情に傷つき心を閉ざしたツヨシと、ヤクザの当事者でありながら、あえて彼を保護した会長。
ツヨシは何を思うのだろう。
小さな体で、何を抱えて。
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僕はあせらないと言った。
自分にできる事があるのかどうかもわからないけれど。
ツヨシが僕に手を伸ばすなら、僕は抱きしめる。
それは自分から望むことではなくて、ツヨシ本人に委ねればいいような気がするのだ。
なぜなら、僕がそうだったからだ。
誰に押し付けられても、僕は認めなかったと思う。
自分を一人の人間として委ねられて、そうして初めて自分から受け入れ模索することが出来るのだと思うのだ。
だから僕は、ツヨシに全てを委ねたいのだとタジマに話した。
「やはり、あなたは変わってますね」タジマが言う。
「あなたにならツヨシの心を開けそうだ」
”そうかな”、と僕は思う。
僕たちはツヨシ本人ではないからだ。
何百光年離れた星を僕は思う。
今見えている”星”は既に取り返しも付かないくらい過去の映像なのだ。
”それでも”と僕は思う。
同じ痛みを理解できる相手は、その限りではないと。
ひょっとしたらタジマは、そんな僕を見透かしているのかも知れないな。