64.取材旅行9(タロの運転)
朝を迎えたサービスエリアはなんだか清々しい。
きりっとした空気と広い空。
人工的な建造物は大自然に包まれていると、ここでは感じる。
僕たちは寝巻き代わりのジャージ姿で並んで歯磨きをしている。
大きなあくびをしているのはツヨシと猫山さん。(緑と黄色のジャージが眩しい)
タジマはジャージでさえかっこいい。(真っ黒な死神のようだ)
僕のジャージはマコさんのお見立てである。(学校指定でよく見る青なんて。。。)
そうしてみんなの朝食を作るのだ。青いジャージで。(決して林間学校ではない!)
炊きたてのご飯。溶いた卵。
お好みでめんつゆ・醤油。ふりかけには「ゆかり」。
かりっと焼いたベーコン。
熱々の味噌汁。
テーブルに並べる始めるとツヨシのあくびが止まった。
朝からみんなが食欲旺盛なのは旅先だからだろうか。
いつもは朝飯を抜くことも多いと言うツヨシですら、がつがつと食べてくれたのだ。
---
食事から1時間の後、僕たちは再び出発した。
2時間後に止まったサービスエリアで僕は提案する。
タジマだけに長時間運転をさせる事は無理があると思ったのだ。
交代で運転しないかと提案したのだ。
「タロさん、お気遣いありがとうございます。ただ、牽引免許が必要なので・・・」
「僕の義理の父は帝国運輸の父なんです。仕事柄、大型トレーラーまで仕込まれてるんですよ」
そう言って僕が免許証を見せると、タジマが目を丸くした。(たぶん、驚いたのだろう)
助かります!とタジマが喜ぶ顔を見て、もっと早く気がつけばよかったなと改めて思った。
それでも心配するタジマは次のサービスエリアまで助手席に座るという。
「タロさん」助手席でタジマが言う。
「あなた、相当運転が上手いです」
「義父に仕込まれたんです、車は生き物だって」僕がそう言うとタジマが頷く。
「気持ちよく走らせてあげると喜ぶんですって。鳥みたいに飛ぶんですよ」
同じ車だと思えない、そう言ってタジマが感心する。
曲を聴いてもいいかと僕が訊ねると、ぜひ聴きたいとタジマが言う。
-When a Man Loves a Woman(男が女を愛する時) -Art Garfunkel
夜にしか聴いたことがなかったが、明るい高速道路で聞くこの曲は、なぜだかしっくりと聞こえた。
気がつくと、タジマが寝息を立てていた。
僕は静かにハンドルを操作する。
アートガーファンクルと共に。