63.取材旅行8(トラッカーゲンさん)
食事が終わり、僕たちがキャビンで寛いでいたところで僕の携帯電話が鳴る。
トラック運転手のゲンさん(タロリスナー)だ。
今夜訪ねてくれると言っていたのだ。
僕はタジマと仲間たちにゲンさんのことを簡単に話す。
みんながぜひ呼びなさいと言ってくれる。
僕はゲンさんを迎えにキャビンの外に迎えに行く。
「飯は食ったのか?!!」ゲンさんが手を振りつつ叫ぶ。
「食べた!!」僕も叫び返す。
ゲンさんも食事を終えたところらしい。
爪楊枝を咥えてにんまりしている。
僕は簡単にタジマたちの事を説明し、キャビンに招いた。
トレーラーハウスの前ではタジマたちが出迎えてくれていた。
「幸一君。俺、作業着しかもってねえ」みっともないからと遠慮するゲンさん。
「作業着でゲンさんは日本中を走り回ってるじゃないか。かっこいいじゃないか。
僕はそんなゲンさんを紹介したいんだよ」
僕の言葉に強張っていたゲンさんは安心したようだ。
ゲンさんは僕のヒーローなんだ。誰よりもかっこいいんだからね。
思ったとおり、恐縮するゲンさんに対してみんなは快くキャビンへ招いてくれたのだ。
(なんといっても僕の恩師なのだ)
タジマがホストとなり、みんながゲンさんをもてなしてくれた。
そして一通りの紹介が済んだときだった。
ゲンさんはみんなに頭を下げた。
何事かとみんなが固唾を呑む。
「幸一がお世話になっとります」そう言ったままゲンさんは頭を上げない。
「こいつはぁ、天涯孤独です。それを帝国運輸の社長が家族となって育てました。
俺はぁ、そばで励ますことしか出来なかったけど。
こいつはぁ、心が真っ直ぐなんでさ。
俺はぁ…こいつが好きなんでさぁ」
ゲンさん。
タジマたちがしんみりと、でも暖かく見守る。
「みなさん。
どうか、こいつを”DJタロ”を、愛してやってください」
そういうと、ゲンさんは深く頭を下げたのだ。
僕はゲンさんを抱きしめる。
バカだなあゲンさん。でもありがとう。
なんども僕はそう言ったのだ。
気がつくと、大型トラックの力強いエンジン音が外に満ちていた。
多くのトラッカーが集まっているようだ。
その時、キャビンの外が一斉に眩しく光り輝いた。
何が起こったのかわからずに、僕たちは車外へ飛び出した。
僕は奇跡を見ているようだ。
そこはまるで光の海であった。
たくさんのトラックが僕たちのトレーラーハウスを取り囲んでいたのだ。
取り囲む全てのトラックの電飾が眩しく瞬いていたのだ。
トラッカーたちが運転席からこぶしを振り上げる。
僕とゲンさんもこぶしを振り返した。
「トラック仲間からのお祝いだ」
ゲンさんは胸を張り、僕の頭をわしわしと掴む。
ゲンさんの仲間たちが、僕のことを聞きつけてサプライズを仕掛けてくれたのだった。
人が悪いな、ゲンさん。
タジマたちは大いに驚き、そして暖かく笑った。
「タロちゃんのことは心配いりませんよ。みんな彼のファンなんです」
そういって彼らは僕にウィンクした。
僕はゲンさんたちトラッカーみんなにお礼を言って歩いた。
サプライズのお礼をしたいと僕が言うと、ゲンさんは「笑顔を差し入れてあげな」と言ったからだ。
「良い家族に恵まれてますね」タジマに言われて僕は大きく胸を張る。
「僕は幸せなんです」
もう一度言おう、僕は幸せなのだ。