62.取材旅行7(ディナー)
編集作業を見届けた僕たちは、キャビンに移動した。
「タロさん、食事を作りましょう!」タジマが言う。
材料は?と聞く僕に、タジマはキッチン下の収納を開けて見せてくれた。
そこにはお店が開けそうなくらいの食材が揃っていた。
驚くことに、収納ボックスの幾つかは冷蔵/冷凍まで出来ている。
床下には冷蔵庫があるらしい。(タジマが特注だと説明する)
どおりでキッチンが広いわけである。
みんなにリクエストはあるかと聞いてみる。ただしメニューを絞るよと。(ここはレストランではないのだ)
そして真剣な会議が始まった。
ツヨシとタジマと猫山さんが真剣に意見を投げ合う様は、
いかにもまっとうな職場の風景であるが、実は食べたいメニュー選びをしているだけなのだ。
やがてツヨシが代表して、ホワイトボードを持ってきた。
頭上にボードを掲げる。
”ステーキ”
大きなホワイトボードに大きく書かれたその文字が裁判の「勝訴」を連想させる。
いいだろう。
大きく頷く僕を見て、ツヨシがタジマと猫山に笑顔を向ける。(ガッツポーズまで)
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お米は専用の鍋で炊くことにした。(ガスコンロで炊くごはん釜は意外と簡単でうまいのだ)
冷蔵されたステーキ肉をフォークで穴をたくさん開け、筋を切り、包丁の柄で叩く。
胡椒をまんべんなくかけて30分放置する。
ソースを幾つか作ることにした。
ソース1:油にニンニクスライスを香りたつまで揚げて取り出し、醤油とみりんと大目の砂糖と胡椒で仕上げる。
ソース2:バターを溶かして醤油に摩り下ろしたニンニクを一煮立ち。
ソース3:酢と砂糖と醤油と摩り下ろしたしょうがを一煮立ち。
フライパンにオリーブ油をスライスにんにくで揚げ、にんにくを取り出し、常温に戻った肉を強火で焼く。
かりっと焼き目がついたら酒を回しいれる。その後、裏返す。
再び酒を入れ、中火でしばらく焼いて完成。
僕の調理の間にはタジマがサラダと味噌汁を作ってくれていた。
ごはんが十分に蒸らされたところで食事の時間だ。
「できましたよ!」そう叫んだ瞬間、キッチンに飛び込んでくるツヨシと猫山さん。
とてもお腹が空いているのだ。
キャビンのテーブルに並ぶ料理に向って僕たちは手を合わせる。
「いたーだきまーす!!」
肉とサラダと味噌汁が、僕たちの空腹を幸せで満たして行った。
おいしい食事はみんなを笑顔に、饒舌にしてくれるようだった。
「あなたの料理、好きなんです」
タジマがそう言うと、猫山さんも頷く。頬張りすぎて言葉が出ないらしい。
「僕も好き」ツヨシが遠慮がちにつぶやく。
たくさん食べろよ、と僕はツヨシに言う。
僕たちは家族のようだな、と僕は思ったのだ。