58.取材旅行3(サービスエリア)
タジマの危なげない運転により、僕たちの取材車は快適に旅を続けていた。
やがて高速道路が中国自動車道に入ったところで、大きなサービスエリアに停車した。
一般車両のスペースは避け、大型トレーラー専用のスペースに駐車をする。
僕たちは今夜、ここに宿泊するのだ。(トレーラーハウスの最大の利点である。)
一流の運転技術を見せたタジマにみんなで労いの言葉をかける。
「なんだか楽しくなってきました!」猫山さんが路上で叫ぶ。まるで別人のようだ。
「猫山さん、なんだか別人のようですね」僕がためらいがちに声をかけると、猫山さんは満面の笑顔で頷く。
「自然がわたしを呼んでいるのですよ。わかりますか、タロさん。わかっていただけますかっ」
こ、こんな人だっけ?
「しばらくの時間、互いに休憩をとりましょう」
タジマの提案にみんなが頷く。(実にタジマが頼もしく思える。)
サービスエリアはとても広くて、僕は数店舗並んだおみやげ屋さんに足を向ける。
マコさんは「おみやげ」がとても好きなのだそうだ。
いろいろ悩んだけれど、正直なにを選べばいいのか迷った僕はマコさんに電話してみた。
「タロちゃん!」第一声からテンションの高いマコさん。
僕はおみやげについて悩んでいるとマコさんに説明した。
「タロちゃんから始めての"おみやげ"ね。これは迷うわね」
マコさんはお店に何が見えるのかを知りたがる。
僕は電話越しに説明して歩く。
「わさび漬け」と僕が言う。
「他には?」マコさんが言う。わさび漬けは興味ないらしい。
「わらび煮」「パス」まったく興味ないみたい。
「ゆずロマン。お風呂のもと」「・・・」迷ってる。「保留にして」オーケイ。
「わさびふりかけ」「ぱす!」オーケイ。
そんな感じでウロウロしていた時だった。
「幸一君?」僕の本名を呼ぶ人がいた。
携帯を握ったまま僕は顔を向ける。
「ゲンさん?」
僕を呼んだのは、帝国運輸のロゴ入りジャンパーを着たゲンさんだった。
帝国運輸の社長・真田陸に養子となって以来、大人になるまで一緒にいたゲンさん。
ケンカっぱやいけど粋でかっこよかったゲンさんだ!
「なにしてんのぉ~幸一くんよぉ」ゲンさんが僕の頭をわしわしとなでる。
「ゲンさんっ。お久しぶりですっ」わしわしされたままで頭を下げる。
僕は電話中だったことを思い出し、慌ててマコさんにかけなおすと伝えた。
サービスエリアの喫茶コーナーで一服しつつ、僕はゲンさんと再会を懐かしむ。
「そうだったんか~。幸一くんがDJタロだったのぉ。いやあ、おどろいたよぉ」
驚いたことに、ゲンさんは僕のラジオを欠かさず聞いてくれていたらしい。
どおりで懐かしい感じがしたわけだなぁ。
そういいながらタバコを吹かして煙のワッカを作るゲンさん。なつかしい。
「相変わらず上手にワッカを吹かすね、ゲンさん」
僕がそう言うとくしゃくしゃの笑顔になるゲンさん。僕はこの人が大好きだ。
今は何をしとるのよ?
ゲンさんに促されて、僕はかいつまんで説明した。
取材旅行に来ている事。
猫守村の事。
今日はここに泊まる事。
ゲンさんは夜改めて訪ねると約束してくれた。
「幸一君、俺はタロのファンだからよ。困ったときには駆けつけるよ」
そう言うとゲンさんは電話番号を紙に書いて僕にくれたのだ。
僕も同様に電話番号を教える。
僕たちはこぶしを振り上げ、互いにぶつけた。
これが僕たちの合図だったのだ。
”がんばろうぜ”そして、”仲間だぜ”と拳に込めるのだ。
「また後でな」そう言ってゲンさんは、赤い夕日に向ってこぶしを突き上げた。
僕も再びこぶしを突き上げる。
そうして僕はマコさんのおみやげ探しを再開した。
きりっとした空気が夕日と共にあたりに漂い始めていた。