55.ツヨシ
確かに、僕は小学生5年生だ。
それは否定しないよ。
僕は他の人たちより優遇されているらしいことも、
考え方や感じ方が異なることも、否定はしない。
問題はね、周りがはなっから色眼鏡で僕を見ることだ。
子供だからわからないと思ってるのがミエミエなんだよな。
10万だか20万だかもらってお守りをした人たちは、ずっと甘やかすか無視するかのどちらかだ。
僕が本当に望んでいたこと。
それは「本物」を知ること。
叔父貴は怖がられていた。
死んじゃった大叔父さんもだ。
誰もが彼らを恐れていた。そのくせ、彼らに媚びていた。それが僕には気持ち悪かったんだ。
僕が笑うと、みんなは喜ぶけれど、それは嬉しいからじゃないって分かるんだ。
あのなあ、と僕はいいたいんだよ。
叔父貴たちに媚びて、僕を振り返ったときの顔が気持ち悪いんだよ。
面倒なことしないといいなあって、顔に書いてあるんだ。
何かあったら責任問題だって。
たぶん子供にはよけいにわかるんだ。
声にならない声が。言葉にならない言葉が。
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僕には両親がいない。大叔父さんと一緒に死んだからだ。
父と母は叔父貴の襲名披露式典に出席して、大叔父さんの後ろ席にいたんだって。
大叔父さんの座席下から爆発は起こり、半径5メートルに座っていた人たちが死んだんだ。
その頃の敵対勢力は全国のヤクザたちだった。
平和を唱え、民間との共存へとシフトし始めた叔父さんたちを、快く思わない団体の仕業であることは明白だったのだ。
葬式の日、誰も来ない会場で僕はぐじぐじと泣いていた。
大叔父さんの葬式が重なったことで、誰もうちには来れなかったんだ。
陽が傾きかけた頃、僕を抱きしめたのは叔父貴だった。
叔父貴はなんども僕に謝ったよ。
ヤクザの関係者は大叔父さんの葬式に出ないわけにはいかなくて
そうでない人たちはヤクザ関係者と関わりたくなくて、それで誰も来なかったんだって。
叔父貴だけはウソをつかなかったんだ。
「お前は一人だ。でもわたしがいる。わたしは絶対に裏切らない。だから思い切り泣け」
叔父貴はそう言ったんだ。
やがてタジマが僕の家に現れた。
彼は沈黙の男だった。
そして彼もウソをつかなかった。
ブルースブラザーズを教えてくれたのもタジマだった。
僕たちは親友になった。
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今日、僕はタロに会った。
あいつ、媚びないんだ。
そっけなくしてても、わざと笑顔を見せても、なんかスルーしちゃうんだ。
そのくせ、僕のスタイルを見透かしてる。
(ブルースブラザーズのジェイクを理解してるなんて!)
よけいに僕は殻を作ろうとしたんだ。
無口に、クールに、関係を隔てようとしてたんだよ。
叔父貴の手前、協力的には見せたけれど。
正直言って、あいつの料理はうまかった。
ネギ系が嫌いな僕に、ちゃんと麻婆豆腐を作ってくれた。
だからよけいに抵抗したんだよ。
がっかりするのは嫌だからね。
だけど、なんでかな。
あいつ、僕をまっすぐに見るんだ。
「本当はどうなんだ」って聞こえてくるような目で。
なんだか調子が狂うんだよな。
今の僕が信じてるのは、動物と叔父貴とタジマだけなんだけどな。
なんであいつのご飯はうまいのかな。