54.猫山さんと小さなギャング3
会長の家には、やはりタジマがいた。
意外と暇なんだな、この人。
タジマはみんなと既に面識があるらしい。
「会長からメールがあったので、食材は揃ってます」
着くなり僕はエプロンを受け取る。
おぉ、腕が鳴るよ。
「ツヨシ君は玉ねぎが嫌いなんです」タジマが悲しそうにつぶやく。
どうやら、玉ねぎと長ネギは嫌いらしい。歯ごたえが嫌なのだそうだ。博多ネギだけは好きらしい。
僕は中華なべを温め、ゴマ油とサラダ油でにんにく・しょうがを炒める。
そしてひき肉を加えて炒め始めると、居間からみんなの合唱が聞こえてきた。
-ごはん!ごはん!
-マーボ!マーボ!
声援を背負い、豆板醤を加えて炒める。
鶏ガラスープと味噌、しょうゆ、砂糖を加えてタレを作る。
もしかして、と思って「こんぶ茶ってあります?」と聞いてみる。
…既にタジマがふたを開けて準備していた。
昆布茶を加えた(味の〇よりもうまみが出るのだ)タレを加えて沸騰させ、大きめに切った豆腐を加えて、片栗粉でさらに煮る。
そして、博多ネギを加えて出来上がり。
ちなみに今回の汁物はタジマ特性の豚汁である。
---
居間で待機していたみんなの熱い声援に答えて、うやうやしく差し出したマーボ豆腐。
「いたーだきまーす!!」
みんなガツガツと食べてくれる。うれしいっ。
ツヨシまでがみんなに負けず箸を進めている。
「実に酒がうまいですな。しかしマーボもうまい」そういう会長は酒よりもごはんが進んでいるようだ。
タジマも頷く。ツヨシもだ。猫山さんも。
「わたしも取材旅行に着いていきたいですわ」会長は残念そうにそういう。
「ツヨシ君を心配してるんですね」僕は言う。
ツヨシが箸を置き、会長に向き直る。
「心配いらないよ。叔父貴」
そういうツヨシに僕は危うい雰囲気を感じる。
気のせいだろうか?
縁側から、秋の虫たちが鳴いていた。