53.猫山さんと小さなギャング2
「タロさん、今回のオファーは取材旅行です」
ラジオ局の応接室に移動した僕たちに、叔父さんが説明を始める。
「こちらの猫山社長さんが同行されます」
よろしくお願いします、と小さく会釈をする猫山さん。
こちらこそよろしくお願いしますと頭を下げる。
「それでな、アシスタント役としてツヨシを連れて行ってやってくれまいかな」
え?
会長の言葉に叔父さんと僕は言葉を失った。
「責任はわたしがとります。あなたたちはこいつを煮るなり焼くなり好きにすればよろしい」
会長はツヨシ君の頭をごしごしとなでながらそう言ったのだ。
会長は言葉を続ける。
「こいつは訳ありでな。学校に行きたがらんのだわ。まあすこーし変わっとる。
動物の気持ちが分かるらしいな。人間は好かんそうだ」
そのかわり天才なんだよと会長は目を細める。
学校はどうするんです、と僕たちは心配する。
「それはまあいい。社会へ出るまでに何を学ぶのかをこいつなりに考えておる」
これも流れだ、と会長が言う。
ツヨシ君が力強くうなづく。
小さな体をせいいっぱい反らせながら。
本気か?
そう問いかける僕に、無言でうなずくツヨシを見て、僕は承諾したのだ。
「それでなあ、タロさん」と会長が珍しく言葉を濁す。
「あんたの料理をツヨシにも食べさせたいんだがなあ」
何が食べたい?
僕は小さなアシスタントに聞いてみた。
「…麻婆豆腐」とツヨシが言った。こいつはしゃべれるのだな。
みんなが飲み込むつばの音が僕には聞こえた。
そうして僕たちは会長の家に向ったのだ。
取材旅行の打ち合わせと、美味しい食事を目指して。